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あなたが生きづらさを感じる原因のひとつ「複雑性PTSD」とは何か

2025.02.16

2022年から診断名として正式に採用された「複雑性PTSD」。災害や事件のトラウマによってもたらされるPTSDの症状に加えて、虐待など長期にわたるダメージより生じる複雑性PTSDは感情の抑制困難や対人関係上の困難などが、症状として表れる。

通勤するのが困難だったり、会社で同僚と雑談するのが苦しかったりするのは、複雑性PTSDかもしれない。

精神科医の岡田尊司先生によると、親との不安定な愛着を抱えた人は、未解決な心の傷である「愛着トラウマ」に苦しんでいる人が少なくないという。暴力などの虐待がなくても、心理的な支配を長期にわたって受け続け、主体性を侵害されると、複雑性PTSDが生じてしまう。今回は岡田先生の書籍をもとに愛着障害と複雑性PTSDについて解説する。

人生に影響する愛着とトラウマ

岡田先生は新刊書「愛着障害と複雑性PTSD」(SBクリエイティブ発刊、定価1100円)で、愛着の重要性を説いている。「生きる力の源泉は愛着に置くところが大きい。健康で幸福な人生の土台となる仕組みが愛着である。生きることに意味と救いを与えてくれるものがあるとしたら、おそらく愛着という仕組みを置いて他にないだろう。一見高尚に見える思想や事業も、源流をたどると対外愛着の問題に行き着くことが多い」としている。

人は愛着する存在を持ち、その存在に愛されたいという欲求が満たされるかどうかということが、その人の幸福を大きく左右する。したがって愛着の仕組みが不安定で、機能低下をきたした状態になると、愛着障害となり、対人関係が不安定になりやすいだけでなくストレスや不安に脆くなる。

一方、私たちの健康と幸福を脅かす要因が、日々のストレスである。ストレスが回復の限界を超えてしまうと、トラウマになってしまう。不幸で過酷な出来事そのものよりも、それによって心に生じたダメージの影響の方が深刻で、人生の可能性を著しく狭め、他者や世界に対する信頼だけでなく、自分自身に対する信頼までも奪ってしまう。トラウマは我々の安全を脅かす最たるものの一つなのである。

過酷な経験により生じたトラウマは私達に破壊的作用をもたらす。一方、愛着は破壊から守る仕組みである。この愛着の仕組みが不安定な人は、トラウマから身を守る能力も弱くなってしまうのである。

その結果、比較的小さな出来事でも大きなダメージを負いやすくなる。特に、守ってくれるはずの存在が、安全を脅かす存在となってダメージを与えてきたとしたら。それが虐待やネグレクト、支配やDV(ドメスティック・バイオレンス)であり、愛着トラウマとなって、さらに愛着障害の最も深刻な状態である複雑性PTSDを引き起こす

愛着トラウマの最も深刻な複雑性PTSD

愛着はうまく機能すると、その人を守る最大の力となる。しかし、一つ間違えるとその人を支配し、主体性を奪う拘束具ともなる。不適切な養育しか与えられなかった人ほど親を求め、偽親に支配されてしまいやすい。

愛着トラウマの最大の難しさは、傷つけられた部分と、傷つけられたにも関わらず親を求めてしまう部分が、同居してしまう点にある。親から植えつけられた部分は、その人の考え方や行動スタイルに組み込まれ、親に支配される必要がない状態になっても、同じことをし続けてしまう。

こうした愛着障害の中でもっとも深刻な状況が、複雑性PTSDである。通常のPTSDではトラウマの原因となる出来事は、命を脅かされるような非日常的な災害や事件、事故であるが、複雑性PTSDの場合では一回の出来事は軽微でも、それが逃れられない状況で長期にわたり繰り返されることで深刻なダメージとなる

アメリカ精神医学会の最新の診断基準では、こうした安全性を著しく脅かす出来事が、長期にわたり繰り返された結果、1)侵入症状、2)回避、3)過覚醒や神経の過敏反応、4)感情や認知のネガティブな変化といった症状が現れる場合に、PTSDと診断される。

さらにWHOでは1)感情抑制の困難、2)否定的な自己概念、3)対人関係の困難といった症状が出た場合に、複雑性PTSDと診断される。また、岡田先生によると、これら症状の他にも複雑性PTSDでは慢性的な身体不調や認知機能の障害、疑似発達障害といった症状がみられるという。

回復は難しいが回復につながる向き合い方はある

残念なことに、複雑性PTSDを医療的に改善しようとするのは通常の医療では難しいと岡田先生は言う。一般的に薬物療法による対処療法が行われるが、薬の効果によって症状の一部は軽減するかもしれないが、根本的な解決にはならない。

解決は難しいが、回復につながる向き合い方がある。親や周囲の人から受けた傷に一生、支配されるのではなく、支配をはねのけて、自分の人生を取り戻そうとしたら、人は前に進んでいくしかない。多くの人は程度の差はあれ、支配から脱し、前向きに生きて行くことが可能になる。その分岐点となるのは「ずっと悩みや嘆きに囚われ続けるのか、それとも自分らしい人生を取り戻すことにエネルギーと時間を使おうと考えるか、どちらを選択するか」だと、岡田先生は言う。どちらの選択肢を選ぶかは回復の分岐点に繋がり、その選択が回復につながるケースは多い。

そして岡田先生は「大事なのはトラウマの克服がゴールではない」と主張している。「たとえトラウマを抱えていようと人生を取り戻し自分らしく生きることができる」という。

トラウマを治すことでなく、自分が望むことに向かって苦闘しているうちに、気が付いたらあれほど苦しんでいたはずのトラウマが大した問題ではなくなっていると気づくことが多い。岡田先生はトラウマを完全に解消しようと思わないことが大切だとアドバイスしている。確かにトラウマが全くなくなれば、今とは違う人生が生きられると思いたくなるのは当然だが、それは幻想でしかないのだ。

岡田先生は「未来を失いたくなければ過去にとらわれすぎず前に進むしかない。人生の時間は待ってくれない。そして過去は変えられないが未来は変えられる。トラウマの克服とは結局過去を取り戻すことではなく未来を取り戻すこと」と教えてくれた。

トラウマを克服するとどんな人生が待っているのか

岡田先生は、トラウマを克服するとは、傷を完全に癒すことでも、傷を防ぐことでもないとしている。そうではなく、何回傷ついても、回復する力を手に入れることであり、意に反することに出くわしても、傷つきにくくなることだと教えてくれた。

過去のとらわれごとから脱するにつれ、物事に対する見方や感じ方が少しずつ変わってくる。楽な時や心地よさを感じる時が前より少しずつ多くなってくる。そして、人に対しても自分に対しても、ダメと思っていたのがだんだんそうでもないところがあるように感じてくる。いいところがあると思えるようになる。それこそが心の傷に克つということだと、岡田先生は指摘してくれた。

新刊書ではマリリン・モンローなどたくさんの著名人の事例を紹介しながら、愛着障害と複雑性PTSDについて解説している。全391ページと新書としてはかなりボリュームがあるが、読み応えは十分すぎる程ある。生きづらいと感じている人は、ぜひ手に取って欲しい。苦しく感じる内容であっても、岡田先生が優しく背中を押してくれる。

岡田尊司先生
1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。医学博士。東京大学文学部哲学科中退。京都大学医学部卒。京都大学大学院医学研究科修了。長年、京都医療少年院に勤務した後、岡田クリニック開業。現在、岡田クリニック院長。日本心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達段階治療の最前線に立ち、現代人の心の問題に向かい合っている。著書に『アスペルガー症候群』(幻冬舎)、『愛着障害』(光文社)、『母という病』(ポプラ社)、『パーソナリティ障害』(PHP研究所)、『発達段階「グレーゾーン」その正しい理解と克服法』『発達段階「グレーゾーン」生き方レッスン』(ともにSBクリエイティブ)などベストセラー多数。小説家・小笠原慧としても活動し、作品に横溝正史賞を受賞した『DZ』、『風の音が聞こえませんか』(ともに角川文庫)などがある。

文/柿川鮎子

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