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「レジ袋はご入用ですか?」
そう聞かれて「いいえ」と答えた直後、
「ポイントカードはお持ちですか?」
と、聞かれる。これは利用客にとっても店員にとっても非常に煩わしいやり取りではないか。
キャッシュレス決済は着実に普及・浸透しているにもかかわらず、なぜ未だにレジでの口頭質問に応じなければならないのか? 考えてみれば、おかしな話である。
そんな不便を解消しようと、クレジットカードのJCBとベンチャー企業の株式会社イマーゴがタッグを組んだ。
「レジ店員からの質問」をショートカットする仕組み
UWB(Ultra Wide Band)とBLE(Bluetooth Low Energy)。この2つの通信規格は、広大な可能性を有している。
たとえば、AppleのAirTagもUWBとBLEを採用している。これにより、高精度の位置情報の割り出しが可能になり、紛失物を迅速に探し出せるのだ。2020年代も中葉に差しかかった今、UWBとBLEは「モバイルガジェットの進化」のための重要な鍵になっている。
これが組み込まれたスマホを使って、「その人の情報」を迅速かつ自動的に送信することはできないだろうか?
そう書くと警戒されてしまうかもしれないが、ここでPR TIMESのプレスリリースを覗いてみよう。
「現在、キャッシュレス決済の多様化や各種ポイントサービスの増加、会員証アプリやデジタルクーポンの普及、企業の環境対策など様々な理由により、レジでの決済時にお客様の選択と意思表示が必要なタスクが増加しています。これにより店員との口頭確認が増えており、レジでの購買体験は煩雑なものとなり、また、聞き間違いや伝え間違いによるトラブル発生の原因となっています。
(中略)
『近づいてチェック』は購買体験をワンストップ化するソリューションです。支払い方法やポイントカードの有無、酒類やたばこ購入時の年齢確認、レジ袋の有無など、店頭で確認される内容について、スマートフォンのアプリに『チェック項目』として事前登録します」
平たく言えば、「レジ袋は必要ですか?」「ポイントカードはお持ちですか?」「クレカでお支払いですか?」といった質問をゴッソリ省くことができる仕組みである。
スマホとレジ機材が自動通信
キャッシュレス決済銘柄とポイントサービスは、必ずしもイコールではない。
たとえば、キャッシュレス決済銘柄Aは同系列のポイントサービスAへ自動的にポイントを反映させることができるが、店舗によってはポイントサービスBも活用することが可能……といった場合、決済とポイント付与は別々の作業として行われる。となると、当然ながらレジ店員の口から発せられる質問も増えていく。
「働き方改革」が叫ばれて久しい今、これは労働環境を著しく損ねるものではないのか? 客にとっても「何度も同じことを質問される」という状態になっていて、とても心地よいとは言い難い。このあたりをキャッシュレス決済サービスやポイントサービスの運営会社は考えていなかったのか、とも思えてしまうが……。
そこで、JCBとイマーゴは「近づいてチェック」プロジェクトを立ち上げ、アプリのプロトタイプを開発。これにより、煩雑化した購買手順を一気に簡略化する狙いだ。
アプリには予め年齢や支払い方法、ポイントサービスの種類、レジ袋の有無などを登録。レジ前に立った時、上述のUWBとBLEがスマホとレジ機材との通信を開始し、必要情報を店員に伝える。レジ店員はそれを見て、利用者のリクエストを把握。その間、いつものような多岐に渡る質問は一切必要ない。
利用者側には別途タッチパネルを設け、その場で設定を変更する仕組みも整えるという。
実店舗での実証実験を予定
また、店舗側UIを多言語対応にすることにより、外国人スタッフの働きやすさにもつなげるとのこと。
ただ、「言葉の聞き取り」はスタッフが日本人だったとしても決して簡単なものではない。
筆者自身、コンビニ店員だったことがあるからよく分かっているつもりだが、「客の言葉を聞き取れない」「同じことを聞き返す」というのは最悪クレームを生み出してしまう。が、客が望んでいることを画面に文字で表示されていれば、交わす言葉も最小限で済むはずだ。
そんな「近づいてチェック」の今後の展開は、以下のような形になるという。
「JCBとイマーゴは今回開発したリファレンスモデルを基にした、実際の店舗での実証実験を予定しています。また、九州大学を拠点にするイマーゴ社のシンクタンク「iQ Lab」においてユーザー調査や商用化に近い環境での実証実験を計画しているほか、東京都内の和洋九段女子中学校高等学校などの協力を受けながら、お客様と加盟店様に受容されるサービスを目指して課題抽出とUXモデルを改善し、次世代の購買体験として早期の商用化と社会実装を目指していきます」
(同上)
今現在は、この仕組みが実店舗に本格展開されているというわけではなく、あくまでも実験段階だ。また、「近づいてチェック」が実証実験を経て実用化に達したとしても、アプリが一般に普及するかどうかは全くの未知数である(だからこその実証実験であるが)。
しかし、この斬新な仕組みがより効率的な購買体験と低負荷の労働環境を同時に実現させる可能性を秘めていることは間違いない。筆者としては、これと同様の仕組みが自治体の窓口に設置されていたら行政の効率化に直結するのではないかと考えている。
21世紀も中葉に差しかかろうとする今、若い力が日常の煩わしい部分を解消する新機構の開発に着手し、DX時代に即した快適な環境を我々に提供しようとしている。
【参考】
JCBとイマーゴ、新たな購買体験を実現する「近づいてチェックTM」プロジェクトを開始-PR TIMES
文/澤田真一
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