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インフルエンザA型の流行は落ち着いてきたように感じるが、まだまだ感染対策の手を緩めるのは早そうだ。
感染対策のひとつが湿度を高く保つということ。コロナ禍では、呼吸器症状を引き起こすウイルスは、湿潤環境に弱い傾向があることが広く伝わり、多くの人が加湿器の購入を検討したのではないだろうか。
しかし、この加湿器も正しく使わないと、思わぬ病気を招くという。呼吸器内科医で、感染症やアレルギー疾患の診療経験が豊富な、藤崎メディカルクリニック副院長の佐藤留美先生に教えてもらおう。
カビでアレルギー反応を起こしてしまう「過敏性肺炎」
加湿器が原因で起こる肺炎のことを、一般的に加湿器肺炎や加湿器肺と呼ぶが、医学的にはいったいどのような病気になるのだろうか。
「“過敏性肺炎”と言います。アレルギー反応で起こる病気で、加湿器の中にあるカビが原因です。蒸気と共に空気中に舞い、それを吸い込むことでアレルギー反応を起こし、咳などを引き起こします。この過敏性肺炎は加湿器に限らず、ハトやニワトリなど鳥類の飼育・羽毛製品(羽毛布団、ダウンジャケットなど)が原因で起きたり、古い木造建築に存在するカビなどを反復して吸い込むことで起こることもあります」
カビの繁殖には湿度や温度が大きく関わっている。加湿器というのはカビが繁殖するにはうってつけの場所だといえるのだ。
「過敏性肺炎」の症状
「症状は咳、発熱、倦怠感などです。重症化すると、肺が硬くなるので、息がしにくくなるという症状も出ます。初期だと感染症の症状と似ているため、見分けがつきにくい。一般的な感染症として治療を受け、薬を飲んでいるのになかなか治らず、原因が加湿器だったというケースはたまにあります」
アレルギー反応であるため、インフルエンザなど感染症による肺炎とは治療法が違うというわけだ。
「感染症の肺炎は、原因が細菌であれば抗菌薬、ウイルスならば抗ウイルス薬を使います。しかし、加湿器内のカビが原因の場合、軽症の場合は原因となる物質を生活環境から取り除き、自分の力で回復することをまず目指します。しかし、重症化してしまった場合は、炎症を抑えるステロイドを使用します」
治療法が違うということは、症状の原因を医師にきちんと特定してもらうことが大事となる。そのために重要なのが問診だ。
「“ニワトリなどの鳥類を飼いだしたら咳が出始めた”や“熱はなくて咳だけがだらだら続いている”など、気になることがあれば、ぜひ話していただければと思います。そしてたかが咳だと放置せず、2週間くらい咳が継続する場合は医療機関を受診してください」
肺炎を起こしやすい加湿器のタイプはあるのか?
「超音波式」「スチーム式」「ハイブリッド式」「気化式」と4つのタイプがあるが、加湿器による肺炎を起こしやすいタイプはあるのだろうか。
「特に雑菌が繁殖しやすいと言われているのが超音波式です。しかし、大前提として、どの加湿器でも過敏性肺炎が起こる可能性はゼロではない。水をつぎ足しせずに交換する、フィルターやタンクの掃除はこまめに行うなど、清潔な状態を維持することを心がけてください。水については、水道水がおすすめです。水道水は塩素などが入っているので、雑菌繁殖を抑制する効果があります」
加湿器の使い方は注意が必要だが、湿度が高いことで感染対策になることは間違いない。冬場の湿度は50~60%くらいが理想だ。加湿器を上手に使ったり、洗濯物を部屋に干したりするなどして、感染対策を続しよう。
佐藤留美医師プロフィール
2002年久留米大学医学部卒業後、久留米大学病院で研修医として勤務。現在は同大学の関連病院で呼吸器科・感染症科・アレルギー科として勤務する傍ら、2023年10月より藤崎メディカルクリニック 副院長に就任。医学博士、日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本化学療法学会抗菌化学療法認定医・指導医、 日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、日本アレルギー学会アレルギー専門医等を取得。
取材・文/田村菜津季