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まもなく、年に一度のバレンタインデー。
デパ地下のチョコレート売り場にいそいそと出かけたものの、価格の高さにびっくりした方は多いのではないだろうか。
電気や米といった必需品の値上げの陰に隠れ、異常なまでに高騰しているのが、チョコレート。原材料のカカオ豆が、2023年から24年にかけて約3倍の高さになっているのである。
年が明けても価格は高止まりで、「バレンタインチョコ1粒当たりの平均価格は418円」(帝国データバンク調べ)と、過去最高額を記録した。
価格高騰の大きな原因が、カカオ豆の不作だ。需要は世界的に高まっているのに、供給は不足しているのだから、価格が上がるのも道理。それに円安といった他の要因が追い打ちをかける。
気候変動で収穫量が激減
チョコレートの世界に、一体何が起きているのだろうか?
ネット通販でチョコレートなどを扱う(株)インユーの代表取締役CEO、松浦愛さんに詳細をうかがった。
――そもそもカカオ豆が不作なのは、なぜでしょうか?
一番大きいのは、気候変動の影響です。
ガーナやコートジボワールといった大生産地の気温上昇が激しく、カカオが正常に生育しないままダメになってしまうのですね。
日本が依存するカカオのメインの生産地、ガーナやコートジボワールでは、近年の気候変動でカカオの収量に大打撃を与えています。
コートジボワールでは例年になく豪雨が続き、農園が冠水しました。ガーナでは、2023年後半から雨不足の干ばつと強い季節風の影響でカカオ豆が育たず、不作の一因となったと聞きます。
加えて気温上昇が病害虫被害を助長していて、高気温でカカオにストレスがかかり、黒色菌核病などのカビによる病害が蔓延しました。
金の採掘場所にされるカカオ農園
――カカオの不作は、気候変動以外の要因もあると耳にしますが、それはなんでしょうか?
日本ではあまり知られていませんが、ガーナでは「ガラムシー」と呼ばれる違法採掘が横行していて、カカオ農園を掘り返して金を採ろうとする動きがあるのです。
たとえば、アジア方面から“出稼ぎ”感覚で来た人たちが、金脈があるかもしれない土地を勝手に掘り返してしまう。
もちろんこれは違法行為ですが、他にも、農家と交渉して農地を買収し、合法的に見せかける手口もあります。そうすると、当然カカオの木が伐採され、栽培環境も荒れてしまう。
弊社はオーガニックカカオを使ったチョコを作る際、良く仕入れコストの話になりますが、値上がりの背景として現地の実態について、仕入れ現場や工場側からそういった話を良く聞きます。
幾つもの要因がカカオ豆の価格を引き上げる
――解決しがたい悪い要因が重なっているのですね。では、カカオ豆の価格は高止まりのまま推移していくのでしょうか?
そうですね、当面はその可能性が高いと思います。
日本はガーナなどに大きく依存してきたうえ、円安で輸入コストやエネルギーコストが上がり、国内の輸送費も上がっています。そうなると、どうしても販売価格に転嫁されやすい状況で、それらが全部原価に跳ね返ってきます。
いわゆる中小企業だと、販売価格がかつての2倍以上に上がるケースも普通にあると思います。
ただ、値上がりしすぎると需要が下がり、供給サイドが価格を調整してくるタイミングもいずれ訪れるでしょう。気候変動だからと、永遠に不作が続くとも限りませんし。まだ見通しは分かりませんが、いずれ価格が落ち着く可能性もあると考えています。
国内商品の販売価格は上がっていく
――カカオ豆の価格が落ち着くまでの間、チョコレートのメーカーはどのような対策をとるのでしょうか?
大手メーカーも含め、日本はガーナに頼ってきた面があるので、ほかの産地からも輸入して供給の多様化をはかると思います。
弊社も、最近、エクアドルの希少性が高く差別化できるカカオ豆を使ったりと工夫しています。大手メーカーでもいろいろ対策を講じているはずです。
あとは、どうしても販売価格を上げていくのがメインの対策となるでしょうね。
あるいは、価格は据え置いて、内容量を少し減らす、カカオの配合比率を下げるとかですね。
例えば、一般的な小売店で販売される比較的安価な製品ですと、高額なカカオバターをあえて、別の油(パーム油などに)に置き換えて..といった消費者からは分かりにくい細部の調整をする動きも出てくるかと思います。
ただ、弊社の方針に限って言うと、商品価値や素材の価値を下げたり、安価な材料でかさまししてまで、無理に安く売ろうとは考えておらず、無添加、オーガニック、自然農法といったこだわりは捨てるつもりはありません。
希少でハイクオリティなものは、価格が高くなるのは必然ですので、そこは妥協しないつもりです。
ハイクオリティのものは高くなるのは当然ですが、そのぶん満足感や健康面でのメリットを提供していきたい、という考えです。
インユーが取り扱う自然農法で作られた「マカデミアナッツ パーフェクト・チョコレート」
お話をうかがった方:松浦愛さん
株式会社インユー代表取締役 CEO /オーガニック専門家。日本で最も厳しい基準を目指したオーガニック製品を企画・開発するほか、オーガニック・マーケットプレイス事業「IN YOU MARKET インユーマーケット」を運営する。
IN YOU MARKET公式サイト:https://inyoumarket.com/
取材・文/鈴木拓也