聴いてみて音が別格だったのは?
レコードを買ったからにはすぐに聴きたいところだが、すぐにとはいかなかった。ちょうど、プレーヤー(LINN/LP12)をメンテナンスに出していた時だったからだ。メンテとともに、筐体の外枠をウッディなブラウンからブラックに変えた。音の向上は当然として、インテリア的にもグッとよくなったと自分では喜んでいる。
さて聴いてみると、多くは盤面こそ傷もなく綺麗なものの、かなり聴き込んだようでノイズが多かったり、またそもそもの録音がパッとしないと思われたりで、オーディオ好きの僕としてはもう一度聴こうという気にはなれなかった。だが「バラ色の雲」と「昭和ブルース」は例外で、ノイズはないし録音もいい。また未知との遭遇のはずの「昭和ブルース」は聞き覚えがあった。高校生の時にたまに見た刑事ドラマ、天知茂主演「非常のライセンス」のエンディング・テーマ曲なのだ。ただしその曲は、ザ・ブルーベル・シンガーズではなく天知茂が歌っている。いわゆるカヴァーということだろう。
そして「う・ふ・ふ」の音は別格だった。見本盤=初回プレスである上に再生回数が少ないのか、驚くほど鮮烈でまさに“掘り出し物”の音だ。
これら音のいい3曲を、導入後すっかり重宝している高音質音楽配信サイト、Qobuz/コバズの音と聴き比べてようとした。だが「バラ色の雲」と「昭和ブルース」は検索にかからない。Amazon MusicやApple Musicには、「バラ色の雲」はあるが「昭和ブルース」はない(フランク永井や杉良太郎のカヴァーはある)。そこで「バラ色の雲」をレコードとAmazonで比べてみると、Amazonは44kHz/16bitのCD音質ながらレコードの方がはるかにいい。
Qobuz/コバズの「う・ふ・ふ」も、44kHz/16bit。
次に「う・ふ・ふ」をレコードとQobuz/コバズで比べる。「Qobuz/コバズ」の「う・ふ・ふ」も44kHz/16bit で、「バラ色の雲」と同様にレコードの圧勝だった。いかなる高音質音楽配信サイトでも、そもそもの録音が古くてはレコード相手には勝負にならないのかもしれない、というよりそれが当然だろう。
「ムーン・リヴァー」/エリック・クラプトン&ジェフ・ベック。
Qobuz/コバズの「ムーン・リヴァー」は、96kHz/24bit。
では録音が新しい曲で、ハイレゾ配信とシングル・レコードを比べてみることにする。曲は「ムーン・リヴァー」、エリック・クラプトンとジェフ・ベックの共作で2023年の録音だ。「Qobuz/コバズ」は96kHz/24bitの紛うことなきハイレゾ。ハイレゾは曲頭のドラムからアタックが強くメリハリの効いた音で、レコードはハイレゾに比べて柔らかく耳に優しい音だ。デジタルとアナログの音の違いの見本のような聴き比べ結果で、どちらがいいかは好みとしか言いようがない。ただし僕の「ムーン・リヴァー」は、10回くらい聴いただけなのにノイズが少々入る。プレーヤーを操作する手間まで考慮するなら、レコードオタクの僕でもハイレゾに軍配を上げる。
Qobuz/コバズの「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」はリマスター音源で、96kHz/24bit。
では「バラ色の雲」や「う・ふ・ふ」と異なり、Qobuz/コバズでハイレゾ配信される古い録音ながらリマスターされた曲ではどうだろう。一例だけだが、1969年録音(同年1月発売なので厳密には68年か?)の『レッド・ツェッペリンⅠ』(曲は「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」)をハイレゾと当時の初回プレスを比べてみると、誰が何と言おうと初回プレスがいい。いいというより、モノが違う。
というわけで今回の結論は、音がいいのは古い録音ならレコード、新しい録音なら好みによるとなる。ただし僕の場合の古い録音とは1960年代から80年代前半くらいまでなので、それ以降のCD時代に入った録音ではどうなのかは不明だ。
そしてもうひとつの結論は、“ボロ市行くべし”!! 僕は古いシングル盤9枚を総額4850円で手に入れてノスタルジーと温故知新(と言っていいのかな?)を楽しんだが、人それぞれの価値観による楽しみを安価で見出せるはずだ。
文/斎藤好一