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世田谷名物ボロ市をご存じだろうか? 始まりは安土桃山時代まで遡るという、毎年1月15、16日、12月15日、16日に開催される冬の風物詩で、テレビのニュースなどでご覧になったことがある方も多いはずだ。東急世田谷線上町駅に近いボロ市通りとその周辺に、約600と言われる露店がビッシリと立ち並ぶ。
ろくなものがない…どころか興味が惹かれる露店が!
3年ほど前にその辺りをジョギングしてあまりの人の多さに驚き、初めてボロ市の存在を知ったが、なんの興味も湧かなかった。何せその名もボロ市、ろくなものがないだろう。ましてやあの人混み、ものを探すにも一苦労のはずだ。冬の寒空に行くものじゃない。上町周辺に長く住む2人の友人に尋ねても、「一度、行っただけ」、「行くには及ばない」、名物とされる代官餅を買うには「2時間は並ぶ」、と否定的な評価。以降、この4日間だけはジョギングでもボロ市周辺は走らないように心がけてきた。
ところが齢68歳にもなると物忘れが激しくなる。今日はボロ市と知っていたはずがすっかり忘れて、上町近くのスーパーに足を向けてしまった。1月16日木曜日午後2時頃、最高気温は前日の16度から8度も低い8度と天気予報で聞いて厚着をしたせいか寒くはなく、人生で一度くらいはいいかとボロ市通りに足を踏み入れた。人、人、人、これは凄いと思うも束の間、意外にスイスイ歩ける。左右に立ち並ぶ露店も、覗きたければ存分に覗ける。
人が多いと言っても、渋谷駅周辺の歩道やセンター街に比べれば可愛いものだ(?)。これには平日だったことも関係しているかもしれない。だが何よりの渋谷との違いは、外国人観光客の少なさ(一人もいなかったかも)だろう。逆に言えば日本人だってこれだけ来るのだから、外国人が知ったら大変な混雑になるはずだ。
というわけでブラブラ歩いていると、ろくなものがないどころか興味が惹かれる露店が意外にある。ニルヴァーナ他の古着ロックTシャツを売る露店で物色し、毎朝必ず飲む大好きなドリンク(?)日本茶を試飲できる露店ではお茶を3袋購入。包丁他金物を扱う露店は人だかり、おでんや沖縄そば、グラスシャンパン(1杯1500円也)を提供する店まである。とにかく多種多彩な露店があり興味深く、次回はスーパーの買い物ついでなどではなく、本気で欲しいもの探しに来ようと思った。
9枚のシングルレコードを購入
そしてここからが本題。こういう趣向のイベントなら、中古レコードを扱う露店もあるのでは? CDは全て処分して所有する音源は全てレコードというレコードオタクの僕は、レコードの掘り出し物があるのではと思い至ったのだ。するとあった。古書と共に、アルバム(LP)とシングル(EP)がそれぞれ100枚くらい。2日目の午後でボロ市の終了が近いせいか、レコードは全て半額とある。アルバムから見るが、惹かれるものはない。シングルを見ると、由紀さおりの「う・ふ・ふ」なる曲がある。中古レコード市場では市販盤より高く取引される見本盤だ。ちょうどこの時期、朝日新聞朝刊「語る-人生の贈りもの-」欄で由紀さおりの自叙伝が連載中で、毎朝読んでいたのも何かの縁だろう。
中古レコードはアルバムであれシングルであれ、大ヒットしたものは生産枚数が多いので一般に価値は低い。「夜明けのスキャット」や「手紙」は(下手ながら)歌えるほど熟知しているが、「う・ふ・ふ」は存在さえ知らない。この原稿を書くためにWikiを見ると、1977年5月5日発売の28枚目のシングルで、チャートは「夜明けのスキャット」と「手紙」は1位なのに対して100位にも入っていない。つまり生産枚数は少ない。
しかもこの見本盤のラベルには5/5発売と印刷されているが、黒インクの手書きで5を消して20に訂正されている。発売延期となったのだろうか。こういうオフィシャルな手書きは持ち主の手書きと違い、評価はプラスのはずだ。と、僕の中古レコード売買10年以上(と言ってもほとんどが洋楽ロック・アルバムだが)のキャリアが、これは価値ありと訴えてくる。値段は800円の半額で400円。アメリカのジャズ・オーケストラ、ピンク・マルティーニとコラボして世界的にヒットしたアルバム『1969』を買ったこともあり、由紀さおりは好きなアーチスト。このシングルは買いだ。
さらに“掘っていく”と、気になるシングルが続々と出てきた。どれも古いので音質には不安があるし、聴いたことも聞いたこともない曲もあるが半額ならいい。気に入らなければ中古レコード買取店に出す手もある。ということで、あれこれ9枚を買い込んだ。以下、買ったシングルと買う気になった理由、その値段だ。
「う・ふ・ふ」/由紀さおり(当時の定価/購入価格=半額の価格 600円/400円)
購入利用は前述の通り。作曲は宇崎竜童だ。
「夜明けの街」/石原裕次郎(700円/600円)
僕が小学館に入る前年の1979年から5年間にわたり放送された、あの「西部警察」の主題歌。新入社員時代の日曜日夜の楽しみで懐かしい。
「硝子のジョニー」/アイ・ジョージ 「初恋のブルース」/坂本スミ子(300円/500円)
両A面? どちらもタイトルすら知らない曲だが、2人とも子供の頃にテレビでよく見た。今の記憶では坂本スミ子は歌手ではなく、いわゆるタレントだったような?
「キャンディー・ムーン」/ザ・ピーナッツ(300円/1000円)
「恋のフーガ」「恋のバカンス」「モスラの歌」他いくつかのヒット曲は知っているが。この曲は全く知らない。ピーナッツはロックの名曲、キング・クリムゾンの「エピタフ」をカヴァーしているので好感度が高い。
「バラ色の雲」/ヴレッジ・シンガーズ(370円/750円)
グループサウンズ全盛だった小学校高学年時、ブルー・コメッツと並んで好きだったGS。ロックに目覚めて長髪になる前の僕は、“髪が長いなんて女の子みたいだ”と長髪を嫌い、髪の短いGSに好感を覚えた。
「君こそわが命」/水原弘(330円/400円)
第1回レコード大賞に輝く「黒い花びら」同様、子供の頃にテレビの歌謡番組でよく聴いた。水原弘は“おみず”と呼ばれていたが、今思うと銀座好き(かどうかは知らないが)とのWミーニング?
「柔」/美空ひばり(300円/400円)
説明不要の大ヒット名曲。こちらは“おじょう”。
「星空のロマンス」/ピンキーとキラーズ(370円/400円)
(たぶん)小学6年生の時に大ヒットした「恋の季節」と「涙の季節」はイントロだけでもわかるが、この曲は全く記憶にない。それでもオリコン10位だ。メンバーの一人が高校の大先輩と知り驚いた覚えがある。
「昭和ブルース」/ザ・ブルーベル・シンガーズ(400円/400円)
原稿を書くにあたり調べると、1969年10月にオリコン7位、80万枚を売り上げた大ヒット曲。だが曲名もアーチスト名も初耳で、今回のシングル購入最大の未知との遭遇。あまりの無名ぶりが購入理由だ。ジャケットの写真、左から2番目が田中邦衛のようで、このグループを経て俳優になったのかと思ったら大間違い。写真はメンバーではなく、この曲が主題歌のドラマ「若者はゆく」の出演者だった。左端の女性は佐藤オリエで、寅さんの第2作「続 男はつらいよ」のマドンナだ。なお裏ジャケットの写真が、ザ・ブルーベル・シンガーズのメンバー。