
2025年1月20日、中国発のAI開発企業DeepSeek(深度求索)が新型生成AIモデル「R1」を発表。欧米AI企業に劣らないその性能により業界に衝撃を与えた。
同時に半導体株の世界的な下落なども引き起こした、この〝DeepSeekショック〟に関するリポートが三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から届いているので概要を紹介する。
中国DeepSeek社の最新AIモデルに対する警戒からハイテク株が急落
主要国の株式市場では1月27日、中国のAI(人工知能)開発企業「DeepSeek」が発表した最新の高性能生成AIモデルによって米ハイテク企業の優位性が揺らぎかねないとの警戒が強まり、半導体関連などのハイテク株に売りが広がった。
国内市場では、米ナスダック100指数の先物が下落するなか、アドバンテストや東京エレクトロンなどの値がさの半導体関連株が大きく崩れ、日経平均株価を押し下げた。
続く欧州市場では、オランダの半導体製造装置メーカーASMLホールディングや、AIインフラ事業を担うドイツのシーメンス・エナジーなどの下げが目立った。
米国市場でもハイテク株売りは止まず、米半導体大手のエヌビディアやブロードコムなどが急落し、ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数や主要な半導体関連銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数(SOX)が下落した(図表1)。
■同社は最新AIモデルについて米モデルと同等かそれ以上の性能を持ち低コストで開発したと説明
DeepSeekは、中国のヘッジファンドであるハイフライヤー・クオント(幻方量化)が2023年に中国の杭州で設立した新興のAI開発企業だ。
同社は2024年12月に言語を処理し対話アプリを動かす生成AIモデル「DeepSeek V3」を開発。直近では数学などのより専門分野に特化した最新モデル「DeepSeek R1」を公表した。R1はライセンスを付与された外部開発者が利用・改善できるオープンソースとして提供される。
同社によると、R1は生成AIの性能を評価するAIME 2024(数学能力のテスト)、MMLU(知識や推論能力のテスト)、AlpacaEval 2.0(質問への応答能力のテスト)などの主要なテストで、既存の米AIモデルと同等か、それ以上の性能を有するとしている。
また、最先端の半導体を入手しにくい環境のなか、1モデルの開発費用はわずか約560万ドル(約8億6,800万円、1ドル=155円で換算)と説明している。
■現段階で米ハイテク株などに過度な悲観は不要、長期でみれば一時的な調整となる可能性も
市場の動揺は、同社の開発費用が従来の米AIモデルの10分の1以下であることから、AI開発に莫大な資金は必要ないのではないかという疑問が生じたことが1つの要因と思われる。
ただ、開発費用について同社から詳細な情報の開示はなく、R1モデルの詳しい性能やコストについても、今後分析が進み、明らかになることが予想され、現段階で米国を中心とするハイテク株に過度な悲観は必要ないと考えている。
仮に低コストでの開発が可能となれば、競争激化の一方で、さらなる技術革新も期待されることから、米ハイテク株などは、目先は不安定な動きが続いても、長期でみれば一時的な調整となる可能性も想定される。
また、1月27日には半導体関連の急落は目立ったが、それ以外は落ち着いた動きもあり(図表2)、少なくとも金融危機時のように、株式市場全体がリスクオフ(回避)に傾く状況には至っていないとみている。
◎個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
構成/清水眞希