F1層を熱狂させる “平成女児カルチャー”を深掘り。平成ガールズ文化に詳しい専門家のTajimaxさんにインタビューし、その魅力とビジネス的盛り上がりの背景を探った。
平成時代を小学生として過ごしたZ世代が、いま社会の中心に躍り出るなかで、一気に火が付いた「平成女児カルチャー」。可愛いキャラクターや独自のファッションが再び脚光を浴び、関連グッズやコラボ企画が次々と登場している。
かつて平成女児だった人々の“拡散力”と市場の需要が相まって、いま大きなビジネスのうねりへと発展しているのだ。今回、平成カルチャーの動向をウォッチし続け、SNSや様々なメディアなどで発信を行なうTajimaxさんに、その背景や今後の展望を聞いた。
Tajimaxさん
平成ガールズカルチャーの魅力を発信し続けるライター・コレクター。2018年よりSNSを中心に、90年代から2000年代の若者文化をテーマにした情報発信を開始。『東洋経済オンライン』『オリコンニュース』『現代ビジネス』『クイック・ジャパン』などでのコラム執筆やインタビュー取材を行なっている。平成ガールズカルチャーの収集家としても知られ、特に1990年から2018年頃に発行された女性誌の膨大なバックナンバーを所蔵。
平成女児カルチャーとは?
平成女児カルチャーとは、一体どのようなカルチャーで、なぜ盛り上がっているのか。その背景には、子供時代の懐かしさと大人になったいまの消費意欲が絶妙に絡み合う現象がある。
ここでは、“ギャル文化”から“女児文化”へと流行の源が移り変わっている経緯や、Z世代を中心に盛り上がる様子を具体的にひも解いていく。
h3:「ギャルから女児へ」──いま起きている進化
「いま、ギャルカルチャーから女児カルチャーに流行の中心が移り変わっているんですよ」
そう話すのは、1990〜2000年代のガールズ文化に関する執筆やコレクションを行なうTajimaxさん。
「2018年頃から80年代リバイバルが盛り上がる一方で、平成カルチャーは『ついこの間のもの』として扱われがちで、80年代ブームほど目立っていませんでした。ところが、元号が平成から令和に変わる2019年頃から一気に盛り上がりを見せ始めました」
平成カルチャーのなかでも、とくに盛り上がっているのが“平成女児カルチャー”。
Tajimaxさんはこのカルチャーを「2000年代初頭に小学生だったZ世代が、その頃に夢中だった文化」と定義する。その世代が懐かしがるものが、周年記念などをきっかけに再び流行している動きが多い。
女児たちを魅了した『エンジェルブルー』のメインキャラクター・ナカムラくん(Tajimaxさん提供)
例えば、2000年代初頭に人気を博したブランド『エンジェルブルー』は2010年に百貨店での展開を終了したが、近年、復刻アイテムの発売により話題を呼んでいる。ほかにも多くの企業がブームに参入し、カプセルトイ化や展覧会・コラボカフェの開催、VRコンテンツ化など、多角的な展開が見られる。
令和になり、復刻アイテムが話題を呼んだ
Tajimaxさんは「当時のカルチャーは『キャラクターもの』が目立つため、グッズ化や体験型コンテンツ化しやすい」と話す。これに加えて、SNSや動画サイトを使いこなすZ世代が、自分たちの“懐かしい”を発信し始めたことで、平成女児カルチャーは一気に表舞台へ引き上げられている。
■どうして「女児」なのか?
このカルチャーは、“女児”という言葉が使われているのがキモ。独特のインパクトをもつこのワードが使われるのにはどういった理由があるのだろうか。
「昭和レトロブームでは“少女”という表現がよく使われていましたが、平成カルチャーでは“女児”という言葉が当たり前に使われています。昔は女子高生を“JK”なんて呼んでいなかったのが、気づけば当たり前になっていたのと同じではないでしょうか。JKは一部でネットスラングとして使われていた言葉。“女児”も同じように、ネットスラングがマスにまで広がって、気軽に使われるようになった印象があります」(Tajimaxさん)
「女児」という言葉自体に少し刺激的な響きがあることも、逆にSNSでのバズを生んでいるのかもしれない。
平成女児カルチャー旋風が起きている背景
平成女児カルチャーがなぜこれほどまでに注目を集めるのか。
その背景には、かつての女児たちが大人になり、高いSNS発信力を持っていることや、企業側が次々と打ち出す復刻企画が影響している。商品が売れればSNSで拡散され、さらに企業が参入しやすくなる好循環も存在。そんな現象が、大きな経済効果をもたらしている。
■懐かしさだけじゃない、SNSでの圧倒的拡散力
「いまは、Z世代が小学生だった頃に流行っていたキャラクターやグッズが、ちょうど20周年を迎える時期なんです。例えば、女児にヒットしたセガのキッズカードゲーム『オシャレ魔女 ラブ and ベリー』も今年20周年。それによって記念イベントやコラボ企画が立てやすいのがブームの理由の一つです。しかもターゲットはSNSでの拡散力が高い人が多いため、Instagramのリール動画やYouTubeを経由してその情報があっという間に広がる」。とTajimaxさん。
さらに昭和レトロとの違いについて、Tajimaxさんは以下のように分析する。
「純粋に懐かしいという気持ちに加え、平成女児カルチャーは“購買欲”や“承認欲求”を刺激するコンテンツが多いですね。昭和レトロは『癒し』の側面が強かったのですが、平成女児カルチャーは単純にノスタルジーへの刺激だけで盛り上がっているわけではないと感じます。だからこそ、多くの企業がビジネスチャンスとして注目しているんだと思います」
百〜数千円と購入しやすい価格設定や手に入りやすさ、デザイン性、「復刻版」という限定感などで情報の受け手は購買欲を刺激され、新たな消費行動が生まれる。そして、SNSで映える可愛いキャラクターアイテムに身を包んだり、当時をイメージした写真を投稿したりすることで、“いいね”やコメントがもらえる。人と共有できる楽しさが、購買や行動の意欲をさらにかき立てているのだ。
■企業の積極参入が生む好循環
平成女児カルチャーは、企業側も積極的に参入しているのが大きな特徴。懐かしさとキャッチーなデザインを兼ね備えたグッズは売れ行きが良く、企画の幅も広い。結果的に“ビジネス”として仕掛ける企業やブランドが増え、いっそう世間の目に触れる機会が増えている。
実際に、『エンジェルブルー』を展開するナルミヤ・インターナショナルが、レディースファッションブランド・ADAM ET ROPÉのような異なるテイストのアパレルブランドとも手を組むケースも増えている。