
日本の教育の問題点が議論される中、海外に根付く優れた教育への考え方に感心させられることがある。その一つが、スイスの教育だ。自然豊かな環境の中でのびのびと育まれる子どもたちの心身、そして教育制度が深く影響している自立心の高さなどに特徴があるという。
日本の家庭が学ぶべきこととは? 主に幼少期の家庭教育における違いや、スイスの子どもと日本の子どもの違いなどを、スイス教育の有識者に聞いた。
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スイス教育は自立心の育み方に特徴あり
今回話を聞いたのは、日本の子どもをスイス国内の「ボーディングスクール」という寄宿学校への留学の斡旋を行っている「スイス留学.com」の代表、田山貴子氏。アメリカ留学や就職、スイスでの就業などを経て、現在はスイスに在住しながら同事業に従事している。留学の対象となるのは3歳からの幼児~高校生。数多くの幼い子どもをスイスへと留学させてきた経験や自身の育児体験から、スイスの家庭教育にも関心を寄せている。
幼少期の家庭教育について、スイスと日本とを比べた際に、真っ先に挙がるのが「自立心の育み方」にあるという。
【取材協力】
田山 貴子氏
スイス留学.com代表。日本の子どもたちが将来、国際社会の中で、充実した生活を送ることができる成人になるための最適な教育環境を提供すべく、日本とスイスの架け橋をするなど、留学サポート活動を行っている。
「スイスでは4歳から義務教育の一環として幼稚園が始まりますが、日本と比べて親元を離れる時間が急に長くなる点が特徴的です。例えば、スイスの一部の地域では、幼稚園の通園時間が朝から夕方までと長く、子どもたちは昼食を含む日常生活の多くを自分でこなす必要があるのです。また、幼稚園の通園は親が付き添わないことを推奨する地域もあり、より一層、自立心の育成につながります」
自立心が育まれやすい環境下では、子どもたちにも特徴的な考え方が根付いているように感じるという。
「スイスでは幼少期から『自分でできることは自分でやる』という考えが根付いています。また、子ども自身に『選ぶ権利』を与え、自分の意見を表明することが奨励されます。例えば、着る服や遊びたいおもちゃの選択など、日常のささいなことでも、子どもが主体的に決めるような環境があります。この自己決定の習慣は、のちの独立心や責任感の形成につながります。
一方、日本では親が子どもの生活を細やかに管理する傾向があり、子どもの選択肢は限られることが多いです。この違いが将来の意思決定能力や自己主張力に大きな影響を与えると感じています」
家庭だけでなく、幼稚園のスタンスにも表れているという。
「現地の幼稚園の先生がたも、子どもの個性を尊重し、信頼して距離感を保ち、失敗を『学びの機会』として見守ります。これにより、スイスの子どもたちに早い段階で自己管理能力や責任感が育まれる要因になっていると感じます」
自然環境と家族時間を尊重する姿勢
その他にも「自然環境を活かした教育」と「家族との時間を尊重する文化」について違いを感じるという。
●自然環境を活かした教育
「スイスでは天候や気温にかかわらず、野外で身体を動かしながら学ぶ機会を意識的に増やします。3~4歳の段階から山や湖など豊かな自然の中で、遊びを通じて五感を刺激し、心身ともにバランスよく成長させるねらいがあります。屋外での活動を日々取り入れる『森の幼稚園』のようなプログラムも存在するのです。
日本でも、公園や屋外活動を大切にする保育は増えていますが、安全性や衛生面、近隣への配慮から、どうしても室内での活動が多くなり、自然との触れ合いが制限される場合もあります。スイスは国全体が自然に積極的にアクセスしやすい環境にあるため、幼児期のアウトドア体験が、教育の基盤の一部としてしっかりと位置づけられています」
●家族との時間を尊重する文化
「スイスでは『家族の時間』を最優先に考え、幼少期から親子が一緒に過ごす時間を大切にする風潮があります。3~4歳の時期は情緒面の発達が重要になるため、夕方以降や週末は家庭での団らんを重視し、教育的なやり取りもその中で自然に行われています。
日本の場合、働き方や生活習慣の多様化から、保育や習い事に重きを置く傾向がありますが、スイスでは仕事と生活のバランスを取り、子どもが安心して自分の気持ちを言葉や行動で表せる環境を整えている点に大きな違いを感じます」