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商業ビル?それとも公園?「Ginza Sony Park」がグランドオープン、ソニーが提案する新しい都市空間とその見どころ

2025.01.29

■連載/阿部純子のトレンド探検隊

銀座のソニービル建て替えプロジェクトの最終形となる「Ginza Sony Park」が、1月26日にグランドオープンした。その名の通り『都会の中の公園』として、多くの人が自由に訪れることができる空間として機能する。

「Ginza Sony Park」はその名の通り、ソニーが銀座に作った“公園”

銀座・数寄屋橋交差点に面した「ソニー ビルディング」が建てられたのは1966年。2017年に建替えのため閉館され、解体の途上であった2018年~2021年も「Ginza Sony Park」として、一部のフロアで飲食店や各種イベント、屋外も公園として開放。コロナ禍を含む約3年間で854万人が来園した。

グランドオープンとなった最終形の「Ginza Sony Park」は、街に開かれた施設という設計思想のもと、「ジャンクション建築」「縦のプロムナード」といった、ソニービルの建築的要素を継承している。

建替えプロジェクトを推進してきた、ソニー企業株式会社 代表取締役社長 永野大輔氏は、

グランドオープンを迎えるにあたり「Ginza Sony Park」(以下、ソニーパーク)にかける想いを語った。

「1966年に建設されたソニービルが、この場所で新しい建物でお客様を迎え入れるのは、59年ぶり2回目となります。建て替えプロジェクトは2013年にスタート、当初は公園を作るプロジェクトではなかったのですが、途中でよりソニーらしくユニークに建て替えを行おうと、ソニーパークとして公園を作るプロジェクトに切り替わりました。

ソニーパークってなに?と聞かれたら答えはずばり、『ソニーが銀座に作った公園』。ソニーが街に開かれたパブリックスペースとして作った場所です。なじみの街や場所のことを『ここは自分の庭だよ』とよく言いますが、ソニーパークもそんななじみの場所にしてもらって、自分の庭のように使ってもらう施設にしたいと思っています。

プロジェクトを進める中で、パブリックスペースについて勉強をしてきましたが、代官山のヒルサイドテラスや青山のスパイラルビルを作った、建築家の槇文彦さんの『パブリックスペースとは、プライベートスペースの集合体である』という言葉が非常に印象に残っていました。

最初はその意味がさっぱりわからなかったのですが、解体途中のソニーパークのとき、毎日コーヒーを飲んでいる方がいたり、ランドセルを背負った小学校帰りの女の子がノートを出して宿題をしている姿を見ました。そこにお母さんが来て、親子が揃うと地下鉄のコンコースへ去っていきました。おそらく、学校が終わったお子さんとお母さんの待ち合わせ場所として使っていたのでしょう。

銀座で児童と安全に待ち合わせができ、かつ無料で使える場所はそうあるものではなく、こちらの親子は両方を兼ね備えた場所としてソニーパークを選んでくれたと思います。

パークの中でみなさんが思い思いにプライベート空間を作っている姿を見たことで、槇さんの言葉の意味が、なんとなくわかった気がしました。

私もソニーパークの中で好きな場所がたくさんありますが、そのひとつがソニーパークの中から見える銀座の街の借景。例えば、地上1階の吹き抜けから見るメゾンエルメスのガラスブロックは、夜になるととても美しい風景です。

ソニーパークは街に開かれている建物だからこそ、ビルの中から様々な銀座の借景を見ることができます。みなさまもぜひお気に入りの場所をぜひ見つけてください」(永野氏)

ソニービルはショールームとして機能していたが、新しいソニーパークは“公園”という立ち位置であるため、テナントやショールームは一切入っていない。唯一、地下3階にあるカジュアルダイニング「1/2(Nibun no Ichi)」はソニー企業が運営する。こちらの飲食フロアには、ソニービルから受け継いだネオンサインが飾られている。

「ソニービルが建てられた1966年当初、ソニーはエレクトロニクス事業しかなかったため、ソニーブランドの情報発信としてはショールームビルであれば十分だったのです。しかし現在は、ゲーム、音楽、映画、エンタテインメントテクノロジー、半導体、金融と事業が多角化しています。

ショールームビルだけでは多角化する事業を吸収できないため、変化し続ける事業に対応するプラットフォームとして、さまざまな事業の存在価値を示す役割を担うのがソニーパークになります。

来るたびに変わっている場所でありたいという意図があり、固定したテナントは入れていません。プラットフォーム的な発想であるため、商業ビルではなく、公園というインターフェースにしています。

収益はソニーパークの使用料がメインとなります。ここはソニーグループのブランディングのための活動場所となるため、例えば、ソニーミュージックのアーティストのイベントやソニー・ピクチャーズの映画のプロモーションなどでパークを使った場合、使用料がソニー企業に入ります。

また、壁面を広告媒体として使います。オープン当初は『ただいま』という看板が出ていますが、こうした壁面をソニーグループの広告として使うことで、ソニーパークのプラットフォームとしての収益になります。ハードだけでなくソフト面の収益として、パークでのイベントを希望した場合、企画立案からオペレーション、施工まで請け負います」(永野氏)

ソニーパークは地上5階・地下4階(地下4階は機械室等)の建物。公園を構成する重要な要素は「余白」であると考え、余白4割、アクテビティ6割としている。

公園であるため、街とビルの境界もあいまいで、数寄屋橋交差点に面した吹き抜け空間は、内と外を隔てず街と一体化させることで、目的がなくても休憩としてぶらりと立ち寄ることができる。

旧ソニービルは、狭い敷地面積の建物を有効に使うために、フロアを4分割にしてそれぞれが少しずつつながっていく「花びら構造」によって、地上階のフロアを連続した空間でつなぐ「縦のプロムナード」を実現していた。ソニーパークはこのコンセプトを進化させ、地下から屋上へと続く「縦のプロムナード」を踏襲している。

数寄屋橋交差点につながる空間にある階段を上り、ソニー通りに面した緩やかなスロープの先には、屋上まで続く晴海通り側のらせん状の階段がある。

踊り場は雨や風といった自然が感じられる半屋外空間に。らせん状階段は地下3階から屋上フロアまでつながっており、「縦の銀ブラ」が楽しめる趣向になっている。

地下鉄コンコースの接続部には、かつてのソニービルの躯体の面影が残されており、解体工事途中で発掘された50年以上前の青いタイル壁は、ソニービルの歴史としてそのまま使われている。

Ginza Sony Park第一弾プログラム「Sony Park展 2025」

グランドオープンと同時にスタートする第一弾プログラムとして、ソニーグループのゲーム、音楽、映画、エンタテインメントテクノロジー、半導体、金融の6事業をテーマに、6組のアーティストと共に創るクリエイティブな体験型プログラム「Sony Park展 2025」を開催している。

3月30日までのパート1では、Vaundy『音楽は、旅だ。』、YOASOBI『半導体は、SFだ。』、羊文学『ファイナンスは、詩だ。』の3アーティストのプログラムを実施している。

Vaundyのプログラムでは、地下2階にVaundyがキュレーションする「音楽の地層」空間が出現。「僕の心の曖昧な地層」をテーマに、Vaundyが約200曲の楽曲を選曲。これらの楽曲が積み重なってできた「音楽の地層」の空間で、来園者はヘッドホンを片手に、発掘するように音楽を探しながら聴く体験となっている。音楽のジャンルや年代の垣根を越えて積層された、音楽の地層空間を旅するような音楽体験を楽しむことができる。

YOASOBIのプログラムは、NHK総合 『YOASOBI 18祭(フェス)』テーマソングとなった「HEART BEAT」の楽曲を用いた「HEART BEAT:Resonance」という参加型の音楽体験。

楽曲のテーマでもある「心音」をモチーフに、来園者の心拍をセンシングして、来園者ひとりひとりの「心音オブジェクト」を制作。生成された心音オブジェクトは、スマートフォンで持ち帰ることができる。

YOASOBIと来園者の心音オブジェクトが共鳴する音楽体験となっており、YOASOBIのAyaseとikuraの心音オブジェクトが登場したり、来園者と「心音オブジェクト」の動きをセンシングして、床面の「Haptic Floor」が振動するなどの仕掛けが施されている。

「Haptic Floor」とは、ソニーの触覚提示技術「Haptics(ハプティクス)」を用いたもので、床からの振動フィードバックのみでありながら、ソニーが培ってきた信号処理技術とノウハウを駆使して、繊細で臨場感の高い感触を全身に届ける技術だ。

羊文学のプログラムでは、中央に大きな水盤が広がる空間が出現。メインプログラム「Floating Words」では、羊文学の「歌詞」にフォーカスをあて、羊文学が生み出した楽曲・歌詞と、水と光が融合することで、楽曲の世界に入り込める音楽体験となっている。

羊文学の言葉が浮かんでは解けていく映像演出と、このプログラムのために特別に収録された塩塚モエカのナレーションで、来園者は楽曲の世界観へ引き込まれる。羊文学の楽曲「more than words」「光るとき」が響き渡る空間で、様々な表情を見せる水面のゆらぎや、羊文学の音楽と言葉がたゆたう文学的なプログラム。

こちらもソニーの触覚提示技術「ハプティクス」を活用した「Active Slate」を用いて、「Floating Words」の余韻にひたりながら床面を歩くと、水辺を歩くような感覚が味わえる仕掛けがある。「Active Slate」は、人の歩行にあわせて多彩な振動フィードバックを実現したもので、Haptic Floorにインタラクティブ性をもたせ、床が水たまりや砂浜に変わったかのように感じさせる技術だ。

「Sony Park展 2025」は入場無料だが事前予約制のため、詳細はサイトを参照のこと。

【AJの読み】「Ginza Sony Park」はビルなの?公園なの?

夏になると出現する大きな水槽や、マキシム・ド・パリ、ソニープラザ(現PLAZA)などの店舗があった昔のソニービルを懐かしく思い出しながら、新しい「Ginza Sony Park」を歩いていると、ここは一体なんの建物なのかと戸惑う。

地上からも地下コンコースからもアクセスでき入りやすいのだが、地下3階のカジュアルダイニング「1/2」以外は店舗もなく、現在開催されている「Sony Park展 2025」の展示施設があるだけだ。

商業ビルだと思って来場すると驚くかもしれないが、地下コンコースからの出口や通り抜け、休憩場所として自由に使える「公園」でもあるため、公共空間としても機能している。

永野氏が話していたように、新しいソニーパークは事業が多角化したソニーグループのプラットフォームであるため、様々なイベントや展示に対応する新しい形のショールームなのだろう。

来るたびに違った風景が見られるのは、確かにソニーらしいユニークな発想。銀座に来たときに「今日はソニーパークでなにをやっているのかな?」と、ふらりと立ち寄りたくなる場所になるかもしれない。

取材・文/阿部純子

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