ビジネス書は、起業家や経営者が試行錯誤の末に得た知見やノウハウを、疑似体験できる貴重な情報源です。
経験豊富な経営者の視点、困難を乗り越えた起業家の物語、最新のビジネスモデルの解説など、その内容は多岐にわたります。
今回は、数あるビジネス書の中から知識やスキルを身につけたいビジネスパーソンはもちろん、起業を目指す人にとっておすすめの3冊を紹介します。
商売は、インサイトを読み取る心理ゲーム
『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』
「丸亀製麺」などの飲食ブランドを約2000店舗展開しているトリドール。その出発点は、兵庫県の地方都市で始めたカウンター10席の焼き鳥居酒屋だった。外食産業の約4分の3が個人経営といわれ、しかも多くの飲食店は開店からすぐに潰れてしまう業界にあって、なぜトリドールは成長することができたのか。
粟田社長は「商売は崇高な心理ゲームだ」と言う。顧客の心理を読み取り、それに対して業態や商品を世に出していく。トリドールも「洋風焼き鳥居酒屋」「ファミリー焼き鳥居酒屋」と業態を変え、「丸亀製麺」出店という試行錯誤の連続だった。
顧客の心理を読むためには、洞察力が欠かせない。流行の店にも足を運び、行列を見たら、その理由を考える。うどんの本場香川の製麺所から着想を得た「丸亀製麺」の大繁盛はまぐれではない。飲食店に限らず商売を繁盛させるヒントになるはずだ。
経営とはただひたすらサバイバル
『アットコスメのつぶれない話
困難を乗り越え成長を続けるベンチャー企業の要諦』
化粧品クチコミサイト「@cosme」を運営するアイスタイルが創業したのは1999年。日本のネット業界は黎明期で、SNSもなければスマホもない時代。きっかけは、化粧品開発の仕事をしていた共同創業者が「化粧品を使っているユーザーの声が聞こえない」と、メルマガを配信し始めたところ多くの購読者がついたことだった。そこに可能性を見出した。
ベンチャー企業が成功するセオリーの1つは、市場成長の波に乗ることだ。スマホ、SNS、クラウドなど新たな市場が創造されるタイミングで、うまく顧客のニーズを発見できるかが重要になる。
もちろん、事業を始めたとしても成功するとは限らない。本書では、アイスタイルの創業後の数々のピンチの連続と、それを乗り越えてきたリアルな体験が語られている。普段、何気なく使っている身近なサービスの裏には、様々なドラマが潜んでいる。
仕事はすべて「人」から始まる
『名前のない仕事 UUUМで得た全知見』
YouTuberのマネジメント事業を展開し、2017年に上場を果たした「UUUM」の原点。それは、すべて「人」だった。まだYouTuberという言葉もなかった2013年に原宿のビルの6畳一間に設立されたUUUMは、当時お金も仕事もなく、「何のビジネスをするか」すら決まっていなかったという。
偶然、イベントで出会ったHIKAKINから話を聞き、YouTuberに関するビジネスを模索する。とにかくYouTuberに会いに行き、彼らの悩みを聞いて何でも手伝う。これが「名前のない仕事」だ。外に出て、人に会うことで仕事が生まれ、やがて「名前のある仕事」に変わっていく。
相手が人である以上、そこには様々な礼儀や、想いが必要で、信頼を獲得することが何より重要となる。泥臭く、アナログで手触り感のある創業物語から、仕事とは何か、ビジネスを立ち上げるとはどういうことかが伝わってくる1冊だ。
〈選者〉
bookvinegar
坂本 海さん
ビジネス書の書評メディア『bookvinegar』編集長。大学卒業後、半導体商社、ベンチャーキャピタルを経て、2011年ブックビネガーを設立。これまで2500冊以上のビジネス書を紹介している。
撮影/黒石あみ