人工赤血球
#次世代医療 #新技術
奈良県立医科大学の研究チームが実用化を目指す人工赤血球は、赤血球中のヘモグロビンを濃縮し、カプセル化したものだ。
「従来の赤血球製剤の有効期間は採血後、冷蔵庫で28日間です。一方で、人工赤血球なら常温で2年ほどもつ。どの血液型の人にも使える利点もあります。献血された血液が29日後に捨てられるのはもったいないし、感染症のリスクのない安全な血液の確保は重要。災害時などの備えとしても人工赤血球が果たす役割は大きいです」
そう話すのは製剤・製造担当の酒井宏水さん。人工赤血球は世界中で長く研究され、日本でも約40年前から行なわれている。これまで多くの研究者が実用化に漕ぎ着けなかったが、酒井さんは人体に投与できる技術をついに確立した。
「100ccを投与する治験では重篤な副作用などは報告されず、次のフェーズとして400ccの投与に進むことになりました。人工赤血球は輸血用製剤としてだけではなく、貧血の治療をはじめ、ほかの疾患への応用も期待できる」と研究・開発担当の松本雅則さんは言う。
2回投与した際の効果やリスクなど不明な点も多いが、まずは緊急時の輸血用製剤として2030年の保険適用を目指している。
【DIMEの読み】
事故や災害、テロ発生時などの緊急輸血として使われることで、救命率の向上が期待できる。常温で2年ほど保管可能なため、冷蔵庫がないような発展途上国での医療行為でも活躍しそうだ。
少子高齢化で献血者数の減少による血液不足も解決!?
人工赤血球は使用期限が切れた輸血用赤血球を加工して再利用。赤血球から酸素を運ぶヘモグロビンだけを取り出し、これを人工的な膜で包む。血液型を決める物質は赤血球の表面にあり、ヘモグロビンのみを精製管理している人工赤血球に、血液型は存在しない。
搬送中のドクターヘリ内での使用や、離島や僻地での保存も可能に
ヘモグロビンは酸素が結合していない状態にすることで非常に安定する。冷蔵庫に入れることで5年ほどの長期保存も可能になる。万一の備えとして期待は大きい。
取材・文/田村菜津季