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大人の発達障害、とりわけADHD(注意欠如・多動性障害)が話題に上がることが最近なんとなく増えた気がします。信州大学の調査によれば、日本の大人のADHD診断の発生率は2010年代の間に21倍以上も増加したのだとか。今では世界の大人の約6.7%(およそ3.6億人)がADHDである可能性があるといわれていて、俳優や実業家、アスリートなど、数多くの著名人も公言しています。
適切な治療でQOLが劇的に変わる場合も
集中力が続かなくて仕事が終わらない、衝動的に動いて怪我をする、時間の感覚がズレまくり……など、典型的なADHD症状のオンパレードを30ン年続けてきた私も、最近になって診断された当事者です。贅沢は言わないからもうちょっと人生の効率を上げたい(それが無理ならただポンコツぶりを減らしたい)思いで、ドーパミンやノルアドレナリンなど脳内の神経伝達物質を調節する処方薬を飲みながら、体調やパフォーマンスの変化を地道に観察しているところです(しかし今でも〆切直前はカオスになりがち……)。
症例数の増加にともない、医療機関への負担も大きくなっているようです。例えば、かなり前から国民医療サービスが逼迫しているイギリスでは、ADHDの診断だけで最大8年もかかるといわれており、20万人近くが待機を強いられています。治療薬も各国で不足しており、違法な流通ルートに頼らざるをえない人も……。全てのADHD当事者に当てはまることではありませんが、人間関係やメンタルヘルスに支障が出るほど症状に悩んでいる場合は周りの理解と適切な治療でQOLが劇的に変わる場合もあります。
ADHDでなくても、できるだけ向精神薬に頼らずに脳や神経のパフォーマンスを高めたいと思う人は多いんじゃないんでしょうか。クリエイティブな発想力で課題を解決し、新しいことに挑戦し、ストレスにも負けず、倦怠感にも負けず、心身共に健康で充足感あふれる日々を送れる人……そういうものに私はなりたい!(いきなり宮沢賢治)
ブレインヘルス(脳の健康)や脳の最適化を意識する人たちの間で注目されているのが、ホルモンの1種であるコルチゾールの分泌を調節し、疲労やストレスへの抵抗力を高めるアダプトゲンや、神経細胞の健康やエネルギー生成に作用する「ヌートロピクス(向知性薬)」です。錠剤や粉末、ドリンクやグミなどとして手軽に摂取でき、日々のパフォーマンスや充足感を高めたいユーザーに人気のようで、成分の多くがキノコやハーブなど自然由来なのも魅力のひとつです。
アメリカのヌートロピクス事業「Thesis」のCEOダン・フリードは、極度のADHDで高校を中退した自分がイェール大学の学位とMBAを修得して起業できたのは「間違いなくヌートロピクスのおかげ」と主張しています。その科学的なエビデンスはまだ不十分な産業ですが、今後も幅広い年齢や職業層の人に広まっていくのは間違いないでしょう。ほんの10年前はニッチだったヌートロピクス市場は2033年までに約655億ドル(※2)規模が予測されるほど急成長中です。私の脳力もまだまだ成長できる余地があるといいな……!
ヌートロピクスやアダプトゲンの例
【ヤマブシタケ】
ユーラシア大陸や北米に自生し、漢方薬にも使われるキノコ。免疫力を高めるβ-グルカンを豊富に含み、脳の神経細胞を活発にさせる作用も報告されている。
【アシュワガンダ】
インドの伝統医学アーユルヴェーダで古来より親しまれるハーブ。強力な抗酸化作用によって細胞のダメージを防ぎ、ストレス緩和や睡眠の質向上が期待されている。
【ロディオラ】
日本ではイワベンケイと呼ばれ、高山の岩場など厳しい環境で生息する多年生植物。根の部分のセロトニンやドーパミンの分泌を促進する効果が注目されている。
文/キニマンス塚本ニキ
頭の中のモヤモヤ、晴れるかも?
キニマンス塚本ニキ
東京都生まれ、ニュージーランド育ち。英語通訳・翻訳や執筆のほか、ラジオパーソナリティやコメンテーターとして活躍中。近著に『世界をちょっとよくするために知っておきたい英語100』(Gakken)がある。
※1 掲載のヌートロピクスやアダプトゲンは、事前に医師の診断を受ける、専門界の意見を聞くなど、最善の注意を払い、自己責任で摂取してください。体に合わない場合は、ただちに使用を止め医師にご相談下さい。
※2 Precedence RESEARCH調べ
撮影/干川 修 ヘア&メイク/高部友見