
何らかのトラブルが発生した場合に、当事者同士で解決を合意することを「示談」といいます。
示談では、トラブルの経緯などを口外しない「守秘義務」が定められるケースもありますが、仮に守秘義務を破ったらどうなるのでしょうか?
1. 示談とは
示談とは、トラブルの当事者同士が話し合って解決を合意し、争いをやめることをいいます。「和解」と呼ばれることもあります。
トラブルは裁判手続き(訴訟など)で解決することも考えられますが、示談は裁判手続きを利用しない解決方法です。示談がまとまれば、早期かつ穏便にトラブルを解決できるメリットがあります。
2. 示談のよくある内容
示談における合意事項として、よくある内容は以下のとおりです。
(1)謝罪
(2)金銭の支払いなど
(3)清算条項
(4)守秘義務
2-1. 謝罪
当事者のうちどちらかが一方的に悪い場合は、加害者の被害者に対する謝罪を示談書に明記するケースがあります。
特に被害者側が謝罪を強く希望した場合は、口頭での謝罪にとどまらず、示談書にも謝罪について記載することが多いです。
2-2. 金銭の支払いなど
トラブルをどのような形で解決するかの条件は、示談書において最も重要な事項です。
たとえば物の売買に関するトラブルであれば、物と代金を互いに返還し合うなどの解決方法が考えられます。
交通事故や異性間トラブルなどの場合は、加害者が被害者に対して示談金を支払うのが一般的です。示談金の額は、慰謝料のほか、被害者側が受けた損害を総合的に考慮したうえで決められます。
2-3. 清算条項
「清算条項」とは、当事者間に債権債務関係が存在しない旨を確認する条項です。
示談を成立させても、その後も当事者間で争いが続いてしまうのでは意味がありません。そのため、示談書には清算条項を定めるのが一般的です。
清算条項では、トラブルが完全に解決していることを確認したうえで、追加の請求や訴訟の提起などを行ってはならない旨などが定められます。
示談書に清算条項が定められていると、同じトラブルに関して当事者のいずれかが裁判所に訴訟を提起しても、原則として訴えは退けられます。
2-4. 守秘義務
示談書においては、トラブルの経緯や示談の内容などを第三者に口外してはならない旨が定められることがあります。これは「守秘義務」や「秘密保持義務」と呼ばれるものです。
トラブルの経緯などが外部に漏れると、当事者の社会的評価が低下してしまうおそれがあります。特に、異性トラブルや刑事事件などについてはその傾向が顕著なので、示談書において守秘義務を定める例がよく見られます。
3. 示談書の守秘義務を破ったらどうなるのか?
たとえば、公務員や弁護士などの専門家は法律上の守秘義務を負っており、違反して秘密を漏らすと刑事罰の対象となります。
これに対して、示談書に定められた守秘義務は、あくまでも当事者間においてのみ効力を生じます。
示談書の守秘義務に違反しても、刑事罰が科されることはありません。その一方で、違反者は相手方から損害賠償を請求される可能性があります。
ただし、守秘義務違反を理由に損害賠償を請求するためには、改めて示談交渉や訴訟などの裁判手続きが必要になります。実際に損害賠償を請求するかどうかは、秘密を漏らされた側の判断次第です。
特に訴訟は裁判所の公開法廷で行われるので、提起するとトラブルの経緯などが公になってしまうおそれがあります。
社会的評価の低下などを恐れて、守秘義務違反による損害賠償を請求することが事実上できないというケースがあるかもしれません。その場合、示談書における守秘義務の定めが実効的であるかどうか、疑問符が付いてしまいます。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
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