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トランプ大統領が「エネルギー非常事態宣言」を発令した背景と具体策

2025.01.29

トランプ新大統領は2025年1月20日の就任演説において「米国第一」を掲げ、不法移民対策、関税を徴収する外国歳入庁の設置、資源開発の積極化などの自身の政策に触れながら、「米国の黄金時代が今始まる」と宣言した。

そんな新大統領の政策については、大規模な不法移民の強制送還や、中国からの輸入品などへの高額な関税といった強硬策が話題の中心となっているが、米国経済への影響という意味では、「エネルギー非常事態宣言」を発令して取り組みを加速させる「資源開発の促進策」が注目される。

というわけで今回は、そんなトランプ政権下におけるエネルギー政策を考察した、三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木 久史 氏による新着リポートをお伝えする。

◎個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

1:経済政策の目玉「エネルギー非常事態宣言」

トランプ新大統領は就任早々に「エネルギー非常事態」を宣言。パリ協定からの離脱、バイデン前政権が温暖化対策で凍結した資源開発と輸出の審査の再開、国有地と海底油田の開発の積極化を表明した。そして、「ESG投資の禁止」にまでも言及した。

■破壊王の「ちゃぶ台返し」

トランプ新大統領は、前政権が進めた気候変動問題への取り組みを政権初日から180度転換してみせた格好だが、得意のちゃぶ台返しは、まさに「破壊王の面目躍如」といったところか。

そんなトランプ新政権のエネルギー政策により期待される経済的な効果は、
(1)資源エネルギー価格の下落によるインフレ緩和
(2)資源輸出の拡大による貿易収支の改善
(3)エネルギー収入に国家財政を依存するロシアへのけん制
などが挙げられるが、中でも注目したいのが、
(4)米国内で今後急増が予想される電力需要への対応だ。

2:米国で急増する電力需要

エネルギー多消費型社会の米国で、現在その不足が指摘されているのが「電力」だ。米エネルギー情報局(EIA)による長期予測では、全米の発電所のキャパシティは2022年時点の約1132.7GW(ギガワット)から、2050年には約2199.3GWへと倍増するものと予測されている(図表2)。

こうした電力需要急増の背景には、生成AI向けに急増する大規模データセンターでの電力需要、製造業の国内回帰による生産活動の活発化、そして、車やビルの電動化などがあるとされている。

米エネルギー省(DOE)所管の研究所の報告書では、米国のデータセンター向け電力需要は、2023年の約176TWh(テラワット毎時、電力総需要の約4.4%)から2028年には最大で約580TWh(同12.0%)まで急増することが予想されている。

■トランプ革命は電力革命

トランプ新政権による「エネルギー非常事態宣言」については、「掘って、掘って、掘りまくる(Drill baby drill)」という言葉のイメージの強さから単なるエネルギーの増産と誤解されがちだ。

しかし、その背景にはバイデン政権が差し止めていた資源開発を積極化させ、発送電設備を整備・拡大し、AIを始めとする将来の経済競争力に直結するハイテク開発競争のインフラを整備することにあると言えそうだ。

こうした「国策」の恩恵を受けることが期待されるのが、電力にかかわる(1)発電(2)送電(3)蓄電といった企業群だ。

具体的には、
(1)電力会社、発電機を製造する重電メーカー
(2)送電・変電設備を製造する電機メーカーや電線会社
(3)大容量の送電網の電気を蓄電するグリッドスケール蓄電池の関連企業や、燃料電池、電気自動車用バッテリーメーカー
などが挙げられる。

まさに、化石燃料を最大限活用した巨大な電力供給と、AI時代を見据えた米国のハイテク戦略であり、「電力革命」とも呼ぶべき状況といえそうだ。こうした状況から、例えば日本株では、大手電線メーカーのフジクラや古河電工の株価は昨年から大きく上昇している(図表3)。

また、米国でも、トランプ新大統領の当選以降の株式市場(S&P500)のセクター別騰落を見ても、発電機を製造する重電メーカーなどが入る「重電機設備」や、「独立系発電・エネルギー」が好調に推移しており、既に強い政策の追い風を感じさせる展開となっている(図表4)。

まとめとして

大きな混乱もなく無事にトランプ新大統領が就任した。新政権の政策については不法移民対策や関税と言った強硬策に目が行きがちだが、経済政策としてはエネルギー非常事態宣言により180度転換した資源政策に注目したいところだ。

長期的な視点で見た環境破壊への懸念には目もくれず、資源エネルギーの増産に邁進するトランプ新政権下では、原油や天然ガスの供給増によるインフレの抑制、資源輸出増加による貿易赤字の縮小、そして、電力不足の解消が期待できそうだ。

生成AIの開発競争と社会実装が進む中、データセンター向け電力需要は急増が見込まれています。爆発的な需要増と新政権による規制緩和で、米国の電力事情は激変することになりそうだ。まさに、「トランプ革命は電力革命」と言えるのではないだろうか。

◎個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

関連情報
http://www.smd-am.co.jp

構成/清水眞希

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