全国の鉄道・バスのタッチ決済導入を実現した功労者、三井住友カードの決済ソリューション「stera transit」とは?
2025.01.24
全国各地の公共交通機関で、クレジットカードのタッチ決済乗車ができるようになっている。
去年2024年から連鎖的に起こった「鉄道・バスのタッチ決済導入」だが、この背後には三井住友カードの決済ソリューション『stera transit』が存在する。「タッチ決済乗車に対応」というのは、即ち「stera transitの導入」と表現してもいいだろう。
しかし、このstera transitとは一体何なのか?
収集した情報をビッグデータとして活用
キャッシュレス決済とは、言い換えれば「顧客データ収集プラットフォーム」である。いささかナンセンスな表現かもしれないが、実際そうなのだ。
たとえば、タッチ決済の日本国内でのライバルである交通系ICカードのSuicaは、収集データを活用した都市開発や新サービスの提供を目指している。その最たるものが、去年12月にその計画が公表された「ウォークスルー改札」だ。これは利用者のスマホの位置情報と連動した仕組みで、自動改札機にSuicaをかざさずとも改札認証とそれに伴う決済が行われるというもの。「Suicaを取り出す」という動作すら必要なくなるのだ。
また、それ以外にも利用者の移動にまつわるデータをイベントや新商品の販促などに活用することもできる。実はそうしたことは、Suicaの十八番ともいえるものだ。
が、それに近いことをクレカでは全くできないということでもない。さすがにウォークスルー改札の優位性はSuicaに譲るしかないかもしれないが、収集した情報からビッグデータを構築し、それを活用することで新たな商機を見出すということならクレカもSuicaに引けを取らない。
データ解析サービスも実施
stera transit加盟店でのタッチ決済は、逐次データとしてクラウドサーバーに蓄積される。
三井住友カード自身は「加盟店」と表現しているが、要はstera transitを採用した鉄道やバスを指している。
当サービスの導入により、タッチ決済が可能になるだけでなく、上限金額の設定など柔軟なサービス提供や移動と消費を掛け合わせたデータの分析ができます。今後、全国各地で順次拡大を予定しております。
(三井住友カード公式サイトより)
要は、データの分析・解析もstera transitの事業者向けサービスの内訳に入っているということだ。これに関しては、データ分析支援サービス『Custella』というものが用意されている。
地方都市の中小交通事業者にとって、デジタルマーケティング分野は得手とは言えない場合が多い。それは地域交通のDX化や鉄道・バス運行の効率化にも大きな影響を及ぼす。交通業界に限らず、「せっかくのデータを活用し切れていない」という悩みはよく聞くことだ。そうした「中小事業者の苦悩」の解消も考慮されているのが、stera transitの大きな特徴である。
これらの複合的なサービスは、目に見える結果として既に表れている。外国人観光客の多いインバウンド路線だけではなく、沿線住民の利用が最も多い生活路線でもstera transitとCustellaを導入する動きが多く見られるようになったのだ。
交通系ICカードでは「完全キャッシュレス」は不可能?
もちろん、これにはSuicaを旗手とする交通系ICカードのシステム更新料の問題もあるだろう。これは中小交通事業者の財政を圧迫するほどの高額で知られ、去年は熊本県の交通事業者数社が交通系ICカードの取り扱いを中止したことが大きな話題になった。
だが、要因は他にもあるはずだ。考えられるのは、交通系ICカードの「キャッシュレス」は実は「完全キャッシュレス」ではないという点だ。敢えてややこしい表現を使ったが、交通系ICカードには「現金を出して残高チャージする」という概念がある。しかしこれは、バス運転手にとっては少なくない負担になっているのではないか。
バス車内で現金を使って残高チャージする利用者は少なくないはずで、これは結果的に「完全キャッシュレス」の実現を阻害している。が、クレカもしくはデビットカードであればチャージは必要ない。そういう意味でも、stera transitは「現金取り扱いの大幅削減」に大貢献しているのだ。
次のステップは「デビットカードの普及」
stera transit、というより三井住友カードの次のステップは「デビットカードの普及」ではないか。
クレカというものには、審査という名のハードルがある。これを忌避してクレカを作っていない、という人も日本では珍しくない。が、デビットカードはクレカと同じ国際ブランド(Visa、Mastercard等)が付与されているにもかかわらず、その仕組みはクレカと大きく異なる。銀行口座と紐付けされていて、残高はそこから引き落とすのだ。故に、デビットカードを作る時の審査はそもそもない。
しかし、日本ではこのデビットカードなるものは極めて影が薄い。「普及していない」と言い切ってもいいくらいだ。が、これは逆に言えば「日本でのデビットカードは普及の裾野がある」ということ。
このデビットカード普及に関しては、三井住友フィナンシャルグループだけでなく各地の地方銀行・信用金庫からの支援も必要になるはずだ。我が国の金融を下支えしているのは、メガバンクではなく地域密着型の金融機関である。「デビットカードとは何か?」を地元住民に説明する役目は、ひとえに地銀と信金が担っていると言ってもいいだろう。
文/澤田真一