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すべては米国の覇権維持のために!トンデモ発言の背景にあるトランプの一貫した国家戦略

2025.01.19

1月20日の米大統領就任式を目前に、トランプ次期大統領の周辺が騒がしくなってきた。というのも、これまでにも関税引上げや不法移民の強制送還を訴えてきたトランプ氏ではあるが、ここへきて「カナダの併合」「パナマ運河の奪還」「グリーンランドの割譲」などに言及。

その実現には軍事的なオプションも排除しない、と表明して関係国を当惑させているからだ。

このようなトランプ氏の言動を「予測不能」「不見識」とする論調もあるが、三井住友DSアセットマネジメント チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏はそれらを「的外れに思えてなりません」と指摘。

「一連の〝とんでも発言〟の背景には、トランプ氏の一貫した国家戦略が垣間見える」という白木氏から、関連リポートが到着しているので、概要をお伝えする。

1:老いる帝国のトランプ

米国は現在も世界最大の経済・軍事力を誇る覇権国だが、世界における存在感は20世紀のように圧倒的なものではなくなってきている。そして、21世紀に入り中国が新しい大国として台頭してきたこともあって、経済規模の米中逆転が一部で取沙汰されるようになってきた(図表1)。

■歴史は繰り返す?覇権国の衰退パターン

米大手ヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツ社の創業者で元共同CIOのレイ・ダリオ氏は、その著書「The Changing World Order(変わりゆく世界秩序)」の中でローマ帝国以来の世界史を振り返り、「時の覇権国はそろって同じような衰退パターンを辿ってきた」と分析している。

ダリオ氏は、「覇権国はその繁栄の絶頂期に基軸通貨の強みを活かして世界中から資金を集め」、「巨額の出費で圧倒的な軍備を構築し」、その一方で、「国民に豊かな暮らしを提供するため世界中から膨大な物品を買い集める」、としている。

その結果、覇権国はもれなく、
「(1)巨額の財政赤字と貿易赤字を抱え、
(2)そのファイナンスのために貨幣を大量に発行し、
(3)無理なファイナンスの弊害が露呈して経済的な苦境が深まり、
(4)貧富の差が拡大して国内の分断・内乱を抱えつつ新興勢力の挑戦(戦争)を受け、最終的には、
(5)経済的に破綻して基軸通貨発行国の地位を失うことで、覇権国の座から引きずりおろされる」、
と指摘している。

こうした分析は、現在の米国に良く当てはまるように見える。
(1)貿易赤字と財政赤字の所謂「双子の赤字」に苦しみ、
(2)巨額の国債発行により世界中から資金をかき集め、
(3)リーマンショックなどの経済危機を乗り切るため大規模な金融緩和を繰り返し、
(4)貧富の拡大から国内では分断が進む中で、
中国などの新興勢力の挑戦に直面しているからだ。

2:「アメリカ・ファースト」の真意

米国はダリオ氏のいう「覇権国の衰退パターン」に既にはまってしまっているように見える。そして、改めてトランプ氏の政策を確認すると、その多くが「老いる帝国の衰退」を食い止める処方箋となっていることに気づかされる。

トランプ氏の経済政策は、
(1)規制緩和や減税で米国経済の成長力・競争力を高め、
(2)関税による国内産業の振興や資源エネルギーの増産・輸出により貿易赤字を削減し、
(3)同盟国に応分の防衛負担を求めることで軍事費・財政負担の軽減を図り、
(4)大胆なリストラ策で知られるマスク氏を起用して大幅な財政赤字の縮小に取り組む、
としている。

さらに、
(5)覇権に挑戦する新興勢力である中国に対峙し、
(6)将来的に米ドルにも対抗できる準備通貨の候補として仮想通貨に注目し、
他の主要国に先駆けて米国の金融・経済システムに取り込もうとしている。

トランプ氏はこれまで、「米国を仮想通貨の首都にする」と明言し、仮想通貨の規制緩和を掲げ、そうした政策に消極的な米国証券取引委員会のゲンスラー委員長を退任に追い込み、さらに、国家の準備資産として仮想通貨を保有することで自国の経済システムに深く組み込み、米国の基軸通貨発行国としての地位を維持しようとしているように見受けられる。

3:「トンデモ発言」に見るトランプの国家戦略

トランプ氏が「カナダの併合」「グリーンランドの割譲」「パナマ運河の奪還」について言及し、その実現には軍事力の行使も辞さない(“Would not rule out the use of military force”)と発言したことで、関係国に衝撃が走っている。

こうした一連の発言について、その道徳的な是非はひとまず置くとして、そこには一貫した国家戦略や経済安全保障上の動機を垣間見ることができそうだ。

■カナダ併合発言の真意

カナダは政治経済の両面で米国と極めて密接な関係にある隣国で、その規模は人口約4000万人、GDP約2.1兆米ドルとなっている。

ちなみに、米国がカナダ全土を一つの州として併合すると、GDPではカリフォルニア、テキサスに次ぐ3位、人口では全米最大のカリフォルニアの3900万人を上回り最大の州となる。

そんな、米国から見れば決して大きくないカナダだが、石油埋蔵量で世界第3位、天然資源の輸出額では世界第1位の資源大国でもある。2023年の米国の対カナダ貿易赤字は約748億ドルにのぼり、日本の約715億ドルを上回る世界4位の規模に達している(図表3、2023年時点)。

つまり、米国はカナダを併合することで、巨額の貿易赤字を削減することができるということになる。

豊かな天然資源に恵まれたカナダは、米国も羨む世界でも有数の高等教育機関、充実した医療制度、寛大な年金制度を公的支出により維持している。

その一方、カナダの防衛費はGDPの約1.3%に留まり、同約3.4%を負担する米国と比べて極めて少額にとどまっている。こうして改めて見ると、「カナダは防衛費負担を米国に押し付けて、節約した税金で優雅に暮らしている」という米国人の恨み節が聞こえてきそうだ。

つまり、米国はカナダを併合することで、日本一国分に相当する貿易赤字を削減すると同時に、世界有数の豊富な天然資源を手に入れ、またカナダ国民に応分の防衛負担を負わせることで米国としての財政負担も緩和できる、といえるだろう。

こうした「カナダ併合へのインセンティブ」をさらに高めているのが、気候変動問題だ。

というのも、地球温暖化により北極海の氷が大量に溶けだしたことで、
(1)大西洋と太平洋を結ぶカナダ北岸の「北西航路」が航行しやすくなり、
(2)未開拓の北極海周辺の資源開発のハードルが下がり、
(3)同地域における通信設備を始めとするインフラの開発競争が激化しつつあるからだ。

カナダは世界最長の非武装の国境を米国と共有する同盟国だが、日本やドイツのように国内に米軍基地は存在しない。

米軍は「特定の条件下」でカナダ国軍の基地を利用可能とされているが、カナダはこれまでも米国の軍事行動に全面的に協力してきたわけではない。

例えば、ベトナム戦争には参戦せず、イラク戦争にも反対して派兵を拒み、対テロ戦争にも非協力的な態度を貫き、米軍のミサイル防衛構想にも参加していない。

そして、戦略的な重要性が高まる「北西航路」の往来について、カナダは航路の一部が「自国の領海・内海」にかかるため、米国を含む諸外国に自由な航行を認めていない。

トランプ氏の「カナダ併合」発言の背景には、「老いる帝国」の衰退を食い止めるための経済政策と、安全保障に関するカナダの「是々非々」な姿勢を問い直そうとしていることがあるのではないか。

PART1:まとめとして

米国がレイ・ダリオ氏の言うような衰退のプロセスにあるならば、トランプ氏の繰り出す一連の政策や発言はそのセンセーショナルな響きとは裏腹に、米国という「老いる帝国」の地位を維持するための戦略的で合理的な動きとすることができそうだ。

そして、「併合」という、あからさまで強力なメッセージを突き付けられたことで、カナダとしても経済面や安全保障面で最大限の妥協に追い込まれる可能性が高まっているように見える。

次回「衰退する帝国のトランプ PART2」では、トランプ氏によるグリーンランドやパナマ運河に関する発言に触れつつ、今後予想される日米の相互依存・互恵関係の深まりと、それに付随する投資機会について解説する。

関連情報
http://www.smd-am.co.jp

構成/清水眞希

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