
押印と捺印は同じ意味だが、実務上では使い分けられることもある。本記事では、押印の正しい意味や押印と捺印の違いをわかりやすく解説する。
目次
押印はビジネスシーンで耳にすることの多い言葉だが、正しい意味を理解できているだろうか。「シャチハタや電子印でも良いのだろうか?」「捺印と何が違うのかわからない」と疑問を抱く人は、少なくないように思う。
本記事では、押印の正しい意味や読み方、捺印との違い、法的効力などを詳しく解説する。普段何気なく使っている言葉だが、ぜひ一度チェックしてみてほしい。
押印とは
はじめに、押印の正しい意味についておさらいをしよう。読み方や文章における押印の使い方、捺印との違い、そして押印が必要な場面について解説する。
■押印の意味と読み方
押印とは、自筆以外の方法で自分の名前が記された書類に対し、印章(はんこ)を押す行為を指す。例えば、宅急便を受け取る際に印鑑を押す行為が押印に当たる。ただし、名前の有無にかかわらず、単純に印鑑を押す行為を指す場合もある。
なお、読み方は「おういん」であり「記名押印」が正式名称だ。「おしいん」は誤った読み方なので注意しよう。
■文章における押印の使い方
押印をビジネスシーンで使用する場合、「ご押印」と表記することで敬語表現が可能だ。ビジネスメールなどで押印を使用する際は、以下の例文を参考にしてほしい。
- 書類の2枚目にご押印いただく箇所がございます。
- 書類下部の枠内にご押印ください。
ただし、「ご」や「お」の使用によって敬語表現が重複する場合には、以下のように「押印」と表記することもある。
- 内容をご確認の上、押印をお願いいたします。
事務的な場面においては多少敬語表現が重複しても意味は通じるものの、回りくどく感じられることもあるため十分に注意しよう。
■押印と捺印の違い
押印と捺印は、「印鑑を押す」面では同じ意味を持つ。デジタル大辞泉でも、以下の通り押印と捺印を同じ意味として説明している。
おう-いん【押印】
[名](スル)印を押すこと。捺印 (なついん) 。「署名して—する」
[補説]当用漢字の制定などにより、捺印に代わって用いられるようになった語。
ただし、ビジネスシーンなど実務上では、押印は印鑑のみ、捺印は印鑑に自筆署名を加えたものとして使い分けられることもあるため注意したい。
■押印が必要な場面
ビジネスシーンだけでなく、プライベートでもしばしば押印する場面がある。押印が必要な場面は以下の通り。
- 宅配便を受け取る時
- 回覧板を確認した時
- 書類や伝票の決済印を押す時
- 発注書や見積書に印鑑を押す時
など
なお、契約書類においては、押印を使用せず、自筆署名と印鑑を組み合わせた捺印を利用することが多い。また、高額商品の購入にも捺印が使われる傾向にある。
契約書・法律における押印と捺印の違い
ここではわかりやすく、押印と捺印、それぞれのパートに分けて法的効力を解説する。
■押印の法的効力
民事訴訟法では、文書の成立について以下のように定めている。
民事訴訟法 第二百二十八条
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
つまり、本人や代理人による自筆署名、または印鑑による押印があれば法的効力が働くわけだ。ただし、次に解説する通り、押印と捺印では法的効力の強さに差がある。
■捺印の法的効力
自筆署名と印鑑によって捺印をした場合、民事訴訟法 第二百二十九条によって押印よりも法的効力が強まることを理解しておきたい。
民事訴訟法 第二百二十九条
文書の成立の真否は、筆跡又は印影の対照によっても、証明することができる。
上記の文章は、筆跡に証拠能力があると伝えている。このことから、自筆署名のある捺印は押印よりも法的効力が強いと判断できる。
押印のやり方
押印は、厳密に正しいやり方が定められているわけではない。しかしながら、印鑑の朱肉がかすれていたり、一般的ではない場所に押印したりすると、やり直しの手間がかかってしまう場合もある。
押印をしたり、押印をもらったりする際は、以下のポイントを参考にしてほしい。
■押印する場所
押印する場所に決まりはないが、署名や記名の右隣に押印するのが一般的だ。署名や記名に重ならないよう、右隣に押印すれば問題ないだろう。
ただし、書類によっては押印の場所が指定されていたり、「印」の文字によってガイドが印字されていたりすることもある。この場合は、案内通りに押印しよう。
なお、角印(会社の印鑑)の場合は、一般的に署名や記名に重なるように押印することが多い。署名や記名の最後の文字と、角印の中心が重なるように押印すると良いだろう。
■きれいに押印するポイント
きれいに押印するには、スタンプ台もしくはそれに代わる平らな台を用意すると良い。スタンプ台がなければ、不要な雑誌や頑丈な箱でも代用できる。平らで安定した場所の上に書類を置くことが重要だ。
朱肉に印鑑を2、3回ほど軽く押しつけ、印鑑の上下を確認する。利き手ではない方の手で書類を固定し、利き手で書類の真上から印鑑を押そう。
押印する際は、書類から印鑑が離れない程度に気をつけながら、「の」の字を表すイメージで圧をかけると、よりはっきりと印影を付けられる。
押印に関するよくある質問
押印に関して、よくある質問と回答をまとめた。気になる項目があれば参考にしよう。
■押印は電子印やシャチハタでもいい?
電子印やシャチハタは、使える場面と使えない場面がある。例えば、シャチハタの場合、公的書類での使用は認められないことが多い。具体的には、婚姻届、離婚届、住民票、転入届、転出届、雇用契約書などだ。
また、シャチハタを使った押印は、ひと目でシャチハタと判断できてしまう。そのため、履歴書などでは、「シャチハタ不可」の記載がない場合でも使用しない方が良いだろう。
電子印は複製が簡単であるため、印影のみの電子印に法的効力を期待することはできない。法的効力を持たせるためには、電子証明書が付された電子印が必要だ。
※シャチハタはシヤチハタ株式会社の登録商標
■「押印いただく」は敬語として合っている?
謙譲語の「~いただく」を使用する場合、「お」「ご」といった接辞を付けるのが一般的だ。そのため、取引先や上司などに押印してもらう場合は「ご押印いただく」とするのが正しい使い方となる。
■押印の案内文の例が知りたい
押印を依頼する際は、へりくだった表現を意識した文章を作成しよう。具体的には「ご押印」「ご署名」「ご捺印」といった尊敬語に加え、「お願い申し上げます」などといった敬語表現を用いる。
押印の案内文に使える基本的なフレーズは、以下の通り。
- 内容をご確認いただき、ご押印の上、〇月〇日までにご返送くださいますようお願い申し上げます。
- 書類〇枚目の下にご押印をお願いいたします。
- お名前とご住所をご記入いただき、ご押印の上ご送付いただきますようお願い申し上げます。
■署名押印と署名捺印の違いは?
本来「署名捺印」の言葉は存在するが、「署名押印」の言葉は存在しない。押印と捺印が混同し「署名押印」が使われていると考えられる。押印、捺印の方法について心配な場合は、書類の提出先に問い合わせてから押印、捺印するのが安心だ。
■押印省略が進んでいる背景とは?
印鑑を使用せず、署名や記名によって書類に同意することを「押印省略」と呼ぶ。行政では、内閣府が発行する「地方公共団体における押印見直しマニュアル」により、押印廃止が進んでいる。押印廃止は、行政手続きにおける負担を軽減し、利便性を高めることが目的だ。また、業務効率化やコストの削減の観点から、押印省略を進めている企業も増えている。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部