ジョンクーパーワークス(JCW)は、ミニのスポーツモデルに与えられたネーミングだ。ミニといえば「クーパー(ミニクーパー)」が有名だが、じつはこの「クーパー」の正式名称が「ジョンクーパー」なのだ。1960年代に〝オールド・ミニ〟を駆り、モンテカルロラリーで3回も優勝している名チューナー&ドライバーの名前である。BMWがミニを製造・販売するにあたり、JCWの名称をスポーツモデルに冠したのは2006年のこと。この時は3ドアのミニだった。
その後、本格的にモータースポーツ、とくにラリーに参戦することになり、3ドアよりロングホイールベースで直進性に優れていたクロスカントリーにJCWの名を冠したスポーツモデルを設定。実戦にはメーカーチューンのクルマを投入した。しかし、市販のクロスカントリーJCWはイメージ先行のスポーツモデルだった。ところが2023年11月に日本でも発表され、ようやくデリバリーが始まったクロスカントリー、改めカントリーマンのJCWは、これまでのチューニングモデルとは別次元のクルマとして登場した。
新型「JCWカントリーマン」はブラックアウトされた八角形のフロントグリルやCピラーの「JOHN COOPER WORKS ALL4」のプレートや245/40R20のタイヤ/ホイール、さらにホイールの奥に見える大径のディスクブレーキが、ノーマルの「カントリーマン」との違いを感じさせる。
もちろん内装もクロームパーツやレザーを排し、代わりにリサイクルのポリエステルやアルミニウムを利用しているのは、ノーマル車と同じ。インパネ中央の大径有機ELパネルや、その下のスイッチ類のレイアウトも同じだ。全車標準装備のエクスペリエンスモードも7パターンが用意されているが、唯一「GO-KART」モードは操作方法が異なる。
そして、異なるのはモード選択による「GO-KART」の走りの違いだ。ノーマル車は次元の異なる走りを体感させてくれる。その走りこそJCWのワークスレーシングチューンに近い、かなり過激なものなのだ。それを体験すると、先ほどクルマに乗り込む前に見た20インチホイールの奥の大径ディスクブレーキ装着の目的がわかる。コーナー直前までフルスロットル、間髪入れずに急制動。こんな時、大径ディスクが役に立つ。
足回りの強化はブレーキだけではない。サスペンションは専用のスポーツチューンを採用。コーナリング時のトラクションとハンドリング性能を向上させるエレクトロニック・ディファレンシャル・ロックコントロール(EDLC)、パフォーマンスコントロールを備えたダイナミック・スタビリティ・コントロール(DSC)、4輪駆動システムALL4も専用のチューンが施され、走行性能を向上させている。
心臓部も強化された。ノーマルモデルの直4、2.0Lガソリンターボは、JCWの専用チューニングが施され、最高出力は204PSから316PSに、最大トルクは400Nmのままだが、発生エンジン回転数は2000~4500rpmから1750~2500rpmになり、低回転域でのトルクが強化された。車両重量は1680kgと同じなので、JCWがいかにパワフルな走りを実現しているかがわかるだろう。
トランスミッションは8速ATから、7速ダブルクラッチトランスミッションに変更され、シフトも強化された。セミワークスマシンだ。ドライビングポジションを合わせて、スタートする。エンジン始動はセンターパネル下のスイッチをひねるという最近のクルマでは珍しい儀式が要求される。エンジンを切る時も同じようにスイッチをひねる。シフトはコラム右に生えているレバーで行なう。Pはレバー先端のボタンを押す。このシフト動作だけはスポーツモデルらしくない。
走行モードはスタート/ストップスイッチの横にあるスイッチを押して、決める。全部で6ポジションだが、エンジン、ミッション、足回りが変化するのは3ポジションのようだ。一般走行は「GREEN」モード。効率的な走りを提供してくれる。このモードでも十分に速いし、コーナーでの動きも軽快。以前のゴーカートフォーリングを楽しめる。
しかし、JCWの本領は、「GO-KART」モードだ。このモードを使うには、センターパネルでの操作が必要になる。ノーマルモデルにはない操作だ。そして、ここからがJCWの強烈な世界が始まる。まず、エキゾースト音が大きく低く響いた。走り出すと3000回転までは基本的にシフトアップしない。減速すれば1速までブリッピングしながらシフトダウンする。「GREEN」モードでは大人しかったハンドリングも過敏になる。これは現代版のボーイズレーサーだ。
ミニがかつてパリダカールラリーなどに出場した時、ベース車両に2BOXミニではなく、このカントリーマン(クロスオーバー)を選択した理由がわかった。スポーティーさは断然、カントリーマンのほうが高いのだ。そして、このJCWは当時のワークスカーの再来。だから、今度のJCWチューンのカントリーマンは、これまでのミニにあったJCWと同じようなスポーツモデルと思わないほうがいいだろう。JCWカントリーマンALL4は、セミワークスのスポーツカーなのだ。
■関連情報
https://www.mini.jp/ja_JP/home/range/new-mini-countryman/model-hub.32GA.S07KQ.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博