高齢者の抗菌薬使用は、認知機能の低下に影響しないという研究結果が発表されました。腸内細菌叢への影響が懸念されていましたが、今回の研究では認知症や認知機能障害のリスク増加は見られませんでした。
高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響しない
高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。
研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。
今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。
2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84~1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94~1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。
このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。
また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。(HealthDay News 2024年12月20日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000210129
Press Release
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/5220
Editorial
https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.0000000000210255
構成/DIME編集部
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