24年は“咳・のど”に関連する処方がランクイン 余分な水分を輩出する『五苓散』もトレンドに
病気ではないものの、なんとなく身体がだるい。調子が悪い。そういった状態が続くと、ウェルビーイングな生活から遠のいてしまう。日々の生活の中でストレスや不調と向き合いながらも、上手にセルフケアすることができれば、よりウェルビーイングな状態に近づけるかもしれない。
漢方薬を中心とした一般用医薬品と医療用医薬品を販売するクラシエ薬品株式会社は、12月10日に「KAMPO OF THE YEAR2024」を開催し、漢方薬市場の同行や、2024年に売上を伸ばした注目の漢方薬を発表した。漢方薬やドラッグストアなどで一般用としても販売されている。生活の中にうまく取り込むことで、不調の改善につながる可能性がある。
同社は22年から独自の視点で1年間の漢方薬市場の動向を読み解き、生活者が抱える不調や漢方のトレンドを発表している。今回は同社の代表取締役役社長・草柳徹哉氏と、同社・薬品カンパニーヘルスケア事業部・マーケティング部の砂橋久瑠実課長が、24年の漢方市場の動向について解説した。
24年は猛暑や寒暖差などの異常気象、マイコプラズマ肺炎の流行などが漢方薬市場にも影響を及ぼしたと考えられるという。直近6箇年で漢方薬市場は一般用・医療用ともに拡大。今年度の一般用漢方薬市場では50~54歳前後を分かれ目に、若年層需要の増加傾向が見られた。その一方で高齢者層には減少傾向が見られたという。
また、23年11月から24年10月の期間で最も伸長率が高かった漢方初処方は、『麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)』。痰が切れづらい激しい咳に対応するものだ。2位は、のど関連の処方である『響声破笛丸(きょうせいはてきがん)』、3・4位は『五虎湯(ごことう)』『桔梗湯(ききょうとう)』が入り、これら上位はすべて“咳・のど”に関連する処方がランクインした。8年ぶりのマイコプラズマ肺炎の流行や、24年度上半期のインフルエンザ流行などが要因と考えられる。
24年の漢方のトレンドとしては、『五苓散』の需要が増加している点に注目が集まる。『五苓散』は全身の水分バランスの乱れを整え、余分な水分を輩出することで頭痛やむくみを改善する漢方薬。直近5年間で『五苓散』の販売数は69%増と急速に成長している。医療用市場では新型コロナウイルスの5類移行に伴う“受診控え”の解消からの受診者総数の増加や、頭痛や急性胃腸炎で受診する患者数の増加などから、『五苓散』の処方増加がみられたと考えられる。一方、一般用市場では気象病や天気頭痛など近年になって顕在化された病名の広がりと共に、頭痛やめまいのへの対処として『五苓散』の使用が広がった。また二日酔いやむくみ対策としても使用されている。
実際にSNS上では23年から24年にかけて、『五苓散』に関連する投稿数が昨年対比269%と急増している。『五苓散』というキーワードに対し、23年では“気象病”、24年は“二日酔い”対策というワードが見られている。購入商品のランキングを比較したところ、男女共に 20~40 代で『五苓散』が上位に入っており、特に20代の男性で顕著に表れた。SNS 上での『五苓散』の拡散と効能に対する認知の拡大が、20~40 代の購買に影響を及ぼした可能性がある。
病気になっていない“未病”のうちに“養生”で身体を整えていくことが重要
こうした24年の漢方の動向から、25年以降は「セルフケア」の定着が進んでいくと考えられるという。超高齢化社会の到来や健康寿命の延伸といった社会の変化に伴い、生活者の 予防医学や健康寿命への意識がより一層高まることが予想される。漢方薬は、冷え症やイライラといった「病院に行ってよいのかわからない」「行くほどでもない」ような、日常の些細な不調にも対応できるという特徴があるため、社会の変化に伴い不調が多様化する中で、漢方薬の視点からも「セルフケア」の定着は加速していくと思いわれる。
この日は、クラシエのヘルスケア営業本部・ヘルスケア学術部の山本政春課長と、国際中医専門員・漢方薬膳コンサルタントの多田有紀さんによるトークセッション『東洋医学の視点で見るセルフケア』も行われた。東洋医学の漢方的な養生として、病気にはなっていないが体の調子が悪い“未病”のうちに、食事や運動・睡眠などの生活習慣を見直し、漢方を取り入れて不調を改善することの大切さを述べた。
国際中医専門員・漢方薬膳コンサルタントの多田有紀さんとヘルスケア営業本部・ヘルスケア学術部の山本政春課長(左から)
多田さんは「“養生”というのは、一般的に言われている睡眠や食事や運動のことですが、特に漢方の中で重視しているのは食事で、“食養生”と言います」と語り、「食養生は健康を維持するため、健康を予防するための食事方法ですが、例えば健康を意識するために生姜を紅茶やお味噌に入れる方もいると思いますが、身体を温める効果あるので、それも“食養生”のひとつです」と説明した。
また「漢方や薬膳は体質を知ることが一番大切です。例えば生姜が身体にいいからと言って生姜を大量に食べても、ある方には身体が温まるけれど、ある方はお肌が乾燥してしまいます。漢方薬や食事は体質や症状によって使い分ける、選ぶことが大事です」と語った。会場では、「気・血・水(き・けつ・すい)」の自身の体質をチェックする体質診断も行われた。
自身の体質を把握し、自分の体質に合った食材や漢方薬を取り入れることで、日々の不調の改善につながるかもしれない。健康な状態を維持することで、よりウェルビーイングな生活を送れるようになるだろう。
取材・文/コティマム