すべての男性に突きつけられる排尿を立ってするか、座ってするか問題。外出時に利用する公衆トイレにおける小便器のほとんどは「立ってする」前提の造りのため迷うことはないが、家庭用便器はその限りではない。個々人の判断に委ねられているわけだが、実際のところ、立ちション派と座りション派どちらが多いのだろうか?
一般社団法人日本排尿機能学会はこのほど、その前身である神経因性膀胱研究会の発足から50年を迎える2023年に下部尿路症状に関する疫学調査(疫学調査実行員会 委員長:三井 貴彦/山梨大学医学部 泌尿器科学講座 教授)を約20年ぶりに実施し、その結果を発表した。
今回の調査では、男性参加者の調査項目に「ご家庭での排尿の際には、立位で排尿しますか、それとも座位で排尿しますか」という項目があり、これに関する集計結果が学術誌であるInternational Journal of Urologyに掲載された。
座って排尿している人の割合は?
20歳以上の男性参加者のうち自宅で座って排尿すると回答した人の割合は56%、20~30代で約70%、40代で約60%、50~80代で50%、90代で40%という結果になった。
座って排尿している人の割合
全年代で結婚の有無が排尿の姿勢に関係
座って排尿する理由として、従来から、「下部尿路症状の改善のため」といった理由が考えられていた。座って排尿すると骨盤の筋肉が緩みやすくなり、また、腹圧もかけやすくなるので、尿が出にくい症状が緩和される可能性がある。他に、「姿勢が安定すること」なども座って排尿する理由として想定されている。しかし、「排尿症状あり」や「全身的な状態が不良」な人の割合には排尿の姿勢別で差は認められなかった。
そこで、様々な要因を検討した結果、最終的に「結婚している」人の割合が座って排尿する人で高いという結果が得られた。さらに詳しい解析を行なった結果、結婚しているかどうかが、年代に関わりなく「座って排尿」に関係していることが示された。
トイレの衛生環境への配慮が主因?
今回の結果を報告した研究チームによれば、結婚している割合が座って排尿することに関係していたことから、男性の立位排尿時のトイレ汚染への対策、すなわちトイレの衛生環境への配慮が、「座って排尿」することの主な原因であろうとしている。また、以前の本邦からの報告よりもその割合が高かったことについては、コロナの流行初期にトイレでの感染を危惧させるような情報が流れたことも一因ではないかとしている。
他の国と比較しても本邦の「座って排尿」派は多い
研究チームによれば排尿の姿勢に関して学術誌に発表された報告は少ない一方、本邦からのものを含めてインターネット上にはそれなりの数の情報があるとのこと。例えば、YouGovの調査によれば、毎回~ほぼ毎回「座って排尿」すると回答した男性の割合は、欧州諸国で24~62%(62%はドイツ)、米国で23%、カナダで35%、オーストラリアで39%、メキシコで21%、シンガポールで20%だった。質問の仕方が異なるが、本邦の約60%という「座って排尿」の割合はドイツとともに世界トップレベルであることが今回の研究から示された。
今後、「座って排尿」派が主流になるとすれば、乳幼児期のトイレトレーニングの方法や学校・職場・公共スペースにおける男子トイレのあり方を考え直さないといけないかも知れない。
<調査概要>
「下部尿路症状に関する疫学調査(JaCS 2023)」
超高齢社会を迎えた本邦で、尿に関する様々な症状である下部尿路症状の有病率やQOLへの影響に関して、実態を把握することを目的に48問の質問に回答いただく形で疫学調査を実施した。
調査期間:2023年5月31日-2023年6月5日
調査方法:調査会社(株式会社マクロミル)のパネル利用によるインターネット調査
対象者 :全国の20代~90代の男女
※各年代において総務省統計局国勢調査の人口比率に基づき、男女、年代、地域性を考慮し実施
回答者数:6,210人(男性3,122人、女性3,088人)
出典元:一般社団法人日本排尿機能学会
構成/こじへい