ビューティーディレクター MICHIRUさんとおくる、連載「Wellbeing Beauty by MICHIRU」。
連載第三回目は、化粧品からサプリメント、食品までを幅広く扱う国産オーガニックブランド「アムリターラ」代表の勝田小百合さんにお話を伺っていく。
中編では、多くのオーガニックコスメファンから信頼を寄せられるアムリターラのコスメラインについて深堀していく。
アンチエイジングの鬼が率いるコスメブランド「アムリターラ」に聞く、不老なオーガニックの実現度
オーガニックとアンチエイジング。なんだか川の対岸にある価値観のように感じるが、実際はどうなのだろう? ビューティーディレクター MICHIRUさんとおくる、連載...
(写真・左)ベストセラーの「ホワイトバーチモイストウォーター」がリニューアル。北海道・美深町(びふかちょう)周辺の白樺樹液と、青森県の木村秋則さんの「奇跡のリンゴ」から採取したLPS細胞(パントエアバガンス培養液エキス)を配合した。(写真・右)勝田さんが創業以来からこだわってきたものの一つ「ソフトクレンジングジェルウォッシュ」。合成界面活性剤も石鹸成分も不使用で、朝の洗顔やノーメイクの日におすすめ。
納得できないことをするくらいなら、化粧品会社をつくった意味がない
前編で紹介したアムリターラが創業時から守り続けている、化粧品についての「10の約束」。そこからは世の中にサステナブルという言葉が行き渡る以前から、人と環境、両方を慮る製品づくりをしていたのが伝わってきた。
とはいえ、スタートアップのいちブランドが、10もの約束を守り続けながら多様なコスメアイテムを生み出し続けるのは大変なことだっただろう。
ここからはアムリターラのこだわりの製品づくりの内側を聞いていく。
MICHIRUさん(以下、MICHIRU):アムリターラ創業時はどのような製品からスタートしたのでしょう。
勝田:クレンジングと化粧水、美容液、クリーム、美容オイル。それから朝の洗顔料のソフトクレイの6商品です。そもそもブランドを立ち上げようと思ったきっかけの一つが、クレンジングを作りたい、だったんですよね。ブログ「アンチエイジングの鬼」をやりながら、化粧品について様々なことを調べて、自分自身を実験台にしていろいろなものを試しました。
その結果、肌のバリアを壊してしまう合成界面活性剤を使わずに、肌のバリアを強化もしてくれるレシチン乳化によってクレンジング剤を作りたかった。アムリターラの製品は、クリームなども全てレシチン乳化です。
コスメについても、食品についても同じ流れの中で語るのが印象的だった、アムリターラ 勝田小百合代表。
MICHIRU:メイクはしっかり落としたいですが、肌には負担をかけたくないですもんね。
勝田:食品も展開している私たちにとって、微生物との関係性は切っても切り離せません。それは肌にとっても同じ。たとえば顔には1センチ四方に20万個もの微生物がいて、潤いの元となる成分を作ったり弱酸性の分泌物を出して悪玉菌から守ってくれたりしています。合成界面活性剤が多いクレンジング剤によって、常在菌であるそれらを洗い流してしまうのは絶対に嫌でした。
MICHIRU:前編ではアロエジュースの保存のためにビタミンCとクエン酸を使わずにシークワーサーを使ったというお話しを聞かせていただきましたが、化粧品でも工夫していることはありますか?
勝田:一般的に使用されている防腐剤も使用しないので、制菌性のある大根エキスなどを入れています。また真空状態を保ち外界との空気の通行を完全に断つエアレス容器を採用しています。殺菌はせず、制菌しているだけ。もちろん、まかり間違って何かが入ってしまってもバランスが取れるように仕上げてはいますが、それもあって私たちの基礎化粧品は期限が短いんです。
MICHIRU:初めてアムリターラの化粧水に出会ったときにその消費期限の短さに驚きました。消費者の楽さを提供する以上に、製品に対する信念が勝っているのを感じたのを覚えています。
アムリターラ初期の頃から製品を知っているというビューティーディレクターMICHIRUさん。眺めているのは、新しくなった「ホワイトバーチモイストウォーター」。
勝田:ブログや書籍でファンになってくださった方がいたからこそですが、そこはご理解いただいて……。やっぱり最初に決めた10の約束を違えないと売れないのだったら、無理して化粧品会社をつくる意味がないですから。あと、うちはエコサートやコスモスといったオーガニック関係の認証を一切取っていません。それは、それらの認証よりも厳しい基準でつくっているからです。
MICHIRU:そうは言っても、初めの頃は流通に乗せるのも大変だったのでは?
勝田:そうですね。夏場はクール便で送らないといけない製品も多くありますし、初期の頃は店舗にも冷蔵庫を置いてもらわないといけなかったですし。今は実績や改良を重ねて、冷蔵庫がなくてもある程度大丈夫なようなりましたけどね。今でも夏場はクール便配送が必須なので、卸先オンラインショップの多くではそれらの製品は取り扱いがなくなるんですよ。その分、売り上げも減りますが、そこは絶対に曲げられない部分です。
アムリターラで生産する米の細胞水を使った「ライス&グレープ ラディエンスクリーム」(写真・中)は、MCHIRUさんも撮影時のモデルのスキンケアに使っているそう。(写真・左)「エイジソリューソンクリーム」、(写真・右)「アクティブリペア タイムレスセラム」
自然の揺らぎを受け止める責任と覚悟はありますか?
MICHIRU:アムリターラさんの創業時と比べて、今は国産のオーガニックコスメブランドも増えました。今の状況をどのように見ていらっしゃいますか?
勝田:喜ばしいことだと思います。世の中が気づき始めたということだと思うので。ただ、自然のものを扱ううえで、覚悟を持ってやっていらっしゃる方はどのくらいいるのかなと感じることはあります。
自然のものは揺らぐのが当然。だから製造過程でいろんなことが起きるんです。
今でこそ安定していますが、初期の頃はロッドアウトが出てしまうこともしょっちゅうありました。私たちは基本的にOEM会社に委託していますが、そういった時の責任は全部こちらでも取るお約束をしています。それだけ無理難題をお願いしているという自覚がありますから。ナチュラル・オーガニックのコスメブランドをやるならそれだけの責任感と覚悟が必要だと思っています。
MICHIRU:そもそも起業されることには、もともと興味をお持ちだったのですか?
勝田:自分が欲しい化粧品を作りたい気持ちはありましたが。自分が会社を起こすというイメージは持っていませんでした。演劇や芸術の分野で生きてきた人間だったので商売の感覚に疎すぎて。「アンチエイジングの鬼」のブログの時代も、ブログでは1円も稼いでいないんですよ。「商品を紹介してほしい」というようなご連絡は全部断っていました。変に「聖職」気分だったんですよね。
MICHIRU:そうだったからこそ、たくさんの読者の方に信頼されてファンができたんじゃないですか?
勝田:そうかもしれませんね。それにアムリターラを始めて16年になりますが、今もその頃と気持ちは変わっていないように思います。アンフェアトレードなことは絶対にしたくない。自分が納得できないような関係性の結び方や製品開発は、絶対にやりたくないしやりません。納得できなくてお蔵入りしたものも少なくないですよ。
関わる人、生き物、環境の涙の上に立つブランドは続かない
勝田:あと一度始めたことは、たとえ収益的に厳しくてもできるだけやり続けようと決めています。
たとえばアムリターラフーズを始める以前から稲作をしていて、販売も行っています。今では毎年収量が足りないくらい売れているのですが、始めた頃は「化粧品会社がなぜお米?」と好奇の目でしか見られませんでした。当然のことながらあまり売れませんでした。
自社農園でとれた玄米から生まれた「玄米麺」(写真・左)と玄米甘酒(写真・右)。玄米麺はグルテンフリーにするために菊芋のイヌリンを採用。甘酒には雑穀を入れるのがチャレンジだったという。
MICHIRU:それでもやり続けてきたのは、それだけ思い入れがあったから?
勝田:はい。それに何をつくるにしても、生産者さんがいますから、始めたらそう簡単にやめるわけにはいきません。稲作も他の化粧品原料も多くは植物を使用しているので、天候などによって質や収量は変わりますが、どんなとしも必ず生活を続けていっていただけるだけの対価をお支払いするというのも、当然のことと考えています。
そもそもアムリターラも、人に助けていただけて始められたブランドです。初めの商品が作れたのも初めからブログや書籍で知って下さったお客さまがいらっしゃって、取引先の方々が翌々月払いでいいと言ってくださったおかげ。だから誰かが泣いている上で成り立つブランドになるのは絶対に嫌なんです。そういうのは商品に宿ってしまうと思うし、結果継続もできないと思っています。
MICHIRU:その勝田さんの考え方は人だけでなく、植物や生き物、地球環境などにも同じように感じていらっしゃるように思います。
勝田:それはありますね。化粧品で色を作る際に虫を使用する場合もあるのですが、うちでは使うことはありません。作れる色に限りが出てしまいますが、それが理念ですから。また環境問題も小さいところからですが、色々とアプローチしています。
MICHIRU:表参道にあるアムリターラ直営店の電力は、グリーン電力が100%だと伺いました。
勝田:電力もそうですし、店内で使用している木材は国産の無垢材。塗料も亜麻仁油やえごま油、酸化鉄をブレンドしたオリジナルの塗料を塗ったんですよ。今私たちがお話ししている事務所も同じで内装に化学物質をいっさい使っていません。接着剤も使っていないんですよ。自然栽培の米のりと膠で接着剤の代わりにしました。
MICIRU:工夫さえすればそんなこともできるんですね!
勝田:意外にできちゃうんです。小さなことですが、全てはやがて自分の口に入るものとなって元に戻ってきますから、そういう気持ちでやっています。
表参道にある直営店「アムリターラ オーガニック」。無垢材の気持ち良い空間に、コスメ、サプリ、フーズが所狭しと並ぶ。
☆ ☆ ☆
続く後編では、今回話にも出てきたアムリターラのフード部門について掘り下げていく。勝田さんが「やり続けなければ」と考える、化粧品会社によるフード販売の社会的意義とは?
<プロフィール>
勝田小百合(かつた・さゆり)
1968年大阪府生まれ。カイロプラクターとして骨の歪みの矯正や、食事・生活指導も行う代替医療の治療家。30代からエイジレスな生き方の研究を始め、2005年に始めた「アンチエイジングの鬼」はインナービューティーから美容を語る先駆的な目線で超人気ブログとなる。2008年、国産オーガニックコスメ&フーズブランドの草分け「アムリターラ」を創業。代表と商品開発を兼務。『アンチエイジングの鬼』『老けないオーガニック』『FLOWで不老』等著書多数。
※アムリターラにおける「オーガニック」とは、前編で紹介した「化粧品の10の約束」のほか、サプリメント、フードも自社独自に取り決めた「10の約束」と言う厳しい基準をクリアしたものを言う。(詳しくはコチラより)
MICHIRU(みちる)
メイクアップアーティスト・ビューティーディレクター/渡仏、渡米を経て、国内外のファッション誌や広告、ファッションショーやメイクアイテムのディレクション、女優やアーティストのメイクなどを数多く手がける。また体の内側からきれいになれるインナービューティを提唱するなど幅広く活躍中。本連載ではナビゲーターを務める。