サウナの若年層への拡大は一時のブームに終わらず、国内外各地での旅の目的化、ファッションアイテムやグッズの登場など市場も拡大し、いまだハマる人を増やし続けている。
カシオ計算機で社員のサウナ好きが高じ、サウナー専用の時計「サ時計」を開発。「Makuake」におけるクラウドファンディングで2024年12月2日12時より支援募集を開始したところ、わずか9分で2300個が完売した。
なぜここまでの人気を集める時計を作るに至ったのか? 担当者に話を聞いた。
社員の新規事業の創出の仕組み「IBP」を活用 提案から3年かけて実現
カシオでは、マーケティング視点で顧客価値を生み出せる人材の育成を兼ねて、2020年から社員が新規事業の創出に挑戦できる仕組み「IBP(Idea Booster Program)」を実施している。これは、社員の人材教育とボトムアップ型の新規事業創出の提案をサポートするものだ。
製品開発において、技術者が技術ありきで開発してしまう傾向に対し、マーケティングの視点で顧客価値を生み出せる人材を育てたいということで採用されている。今回の「サ時計」もこの仕組みから生まれた。
一般販売ではなくMakuakeにおけるクラウドファンディングを選択したのは、サウナ好きな層に向けた「サ時計」の価値が、市場から受け入れてもらえるのかを試す場として実施した。
サ時計 サウナイキタイモデル 1万1,300円(税込)
「サ時計」の提案を始めたのは、本プロジェクトのリーダーを担った山田真司さん。現在入社5年目で、普段は時計の中身を設計する業務を担当している。
「サウナブームがこの企画を始めた3年ぐらい前に盛り上がっています。弊社で取ったアンケートでも、年代・男女で見ても、若い人がいまかなりサウナに行っています」(山田さん)
当時入社2年目、20代前半の「若者サウナー」というターゲットのど真ん中だった山田さんは、自分の入社同期3人に段階的に声をかけ、「TEAMサ」として今回の時計の開発に挑戦した。
「サ時計」の開発プロジェクトリーダーの山田真司さん。
サウナビギナーも開発中にサウナ好きに 同期4人で「TEAMサ」結成
メンバーのなかで、「サ時計」の外装部分の設計を担当した小林義弘さんは、実は企画に参加するまでは全くサウナに興味がなかった。
しかし、開発チーム参加でサウナで使う時計の必要要件の調査など、サウナ体験を重ねていくなかで、毎週サウナにいくまでのサウナ好きになったという。
「サ時計」の外装設計を担当した小林義弘さん。
プロジェクトスタートの初期は主にこの2名で始まり、あとから2名が加わった。
そのうちの1名、デザインを担当した鈴木千裕さんは、普段は時計ではなく、楽器などのデザイン業務を担当している。
「IBPのステップが進むなかで、山田くんと小林くんがこういった企画を行っていてデザイナーを募集していることを知り、参加しました」(鈴木さん)
「サ時計」のデザインを担当した鈴木千裕さん。
百貫将吾さんは、「サ時計」の内部のソフト開発を担当。プロトタイプの作成の段階からメンバーとして参加した。
「サ時計」のソフト開発を担当した百貫将吾さん。
ちなみに、チーム感を高めるためなのか、今回の製品のためにデザインした「サ」のロゴ入りのトレーナーを全員で着用。サウナ店のスタッフのような雰囲気や檀上での「くん」呼びといい、「会社のなかで青春している感」を香ばしく味わってしまうのは私だけだろうか?
メーカーの新商品発表会の檀上でスーツ着用で話す姿を日々取材しているものからすると、東証一部上場企業のカシオ計算機も「人材教育」「ボトムアップ型の新規事業創出」と難しい字面をうまく解釈し、アウトプットすることを許容しているのだなとふむふむ思ってしまう。
「Makuake」でのクラウドファンディングページも、トーンを揃えたり、マンガで開発秘話を掲載するなど、同世代のターゲットにささるデザインに仕上げている。