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「人間のパーツを描きたい!」世界が注目するボディペイントアーティスト、チョーヒカルの現在地

2025.01.03

人間の体に生息する植物、顔だけ動物に姿を変えた被写体……。リアルで独創的なボディペイントが国際的に注目を集め、メディア出演や大手企業とのコラボレーション、国内外での個展など、多岐にわたって活躍するアーティスト・チョーヒカルさん。ボディーペイントを始めるきっかけから、作品作りのソース、現在のアメリカ・ニューヨークでの暮らしまで、彼女の足跡をたどります。

絵を描くことだけが唯一自分を“キャラ立ち”させてくれた

中国人の両親のもと、日本で生まれ育ったチョーさん。両親も姉も東大の大学院を出ているという超インテリ家系にあって、自身が選んだのは美術大学への道でした。

「幼少期から、じっと席に座っていられずにすぐに走り回ってしまったり、急に木に昇り出しちゃったりするような子どもでした。両親は、そんな私が集中して取り組めることを探して、いろんな習い事を試したそうなのですが、その中で唯一、お絵かき教室で絵を描いている時だけはずっと座っていられたのだそうです」

小学校低学年から始めたお絵描き教室がきっかけで、その後中学まで美術部で絵を続け、高校に入るころには美大に進学したいという意志があったという。

「インテリ家系で唯一勉強ができない人間として生まれて(笑)、どう頑張っても勉強で姉に勝つことはできなかったけれど、絵を描くことだけは認めてもらえるというか、自分のキャラが立つなと感じていました。美大への進学は、最初は両親に抵抗されたのですが、必死に説得しましたね」

「人間のパーツが描きたい!」始まりは1つのSNS投稿

美大への進学を決心して、アーティストとして注目を浴びるまで、そう時間はかからなかった。1つのボディペイントが、SNSでバズったのだ。

「受験のために、みかんとかお花とか、静物を描く練習を毎日している中で、『人間のパーツが描きたい!』という欲求が高まっていきました。描く紙を買いに行くのが面倒で、どこか描ける場所……と見渡した中で目を留めたのが、自分の左手。そこに友人の目を書き写すように描いたのが、最初のボディペイント作品です」

その絵を写真に収めて、当時まだ黎明期だったX(旧・Twitter)に投稿したところ、どんどん「いいね」の数が増えていった。

「いわゆる、“バズり”の初期の波に乗った感じで、それからSNSで作品をアップするようになりました。でも、次第に『いいね』の数で自分の作品を判断するようになってしまって……。インターネット上での評価と自分の価値観を分断しなくてはいけないと思うようになりました。ボディペイントが面白いと感じた初期衝動をもっと自分の中で掘り下げて、しっかり作品として見てもらわなくてはいけないと感じたんです。それからは、毎回しっかりコンセプトを立てて、モデルを選定し、フォトグラファーに撮影してもらうという創作の形を確立していきました」

CGやAIには出せない“人間が作った形跡”を大事に

1つのボディペイントにかける時間は、多い時で7時間。コンセプトを決めたら、資料集めからラフ作成まで、準備には余念がない。

「例えば、“コンプレックス”というテーマなら、体のパーツにコンプレックスを抱えたモデルさんを探して、下取材をしてイメージを固めていきます。これまでの作品で心に残っているものは多々ありますが、NHKの仕事で戦争をテーマに描いた作品は特に印象深いですね。目からニョキニョキと花が生えている作品なのですが、毒のあるトリカブトの花をモデルに描いています。美しいものは、人を盲目にしやすい。戦争においても、『自分は祖国を守っている、これが正義なんだ』と思った瞬間に、人を殺めてしまう。正義ってきれいな言葉に捉えられるけれど、実は盲目で、ときに残酷であることを表現しています」

一目見て、「あれ?」と目を奪われる、独特の錯視効果があるのも、彼女の作品の特徴。CGの技術が発達し、あらゆるものがAIで生成できる現代においても、手書きであることにこだわる。

「人を惹きつけるものは人間が作った形跡だと思っているので、ちょっと色調整をする程度で、基本的に描いたものの編集はしません。作品は素通りされたら意味がないので、とにかく『何これ、面白い!』と足を止めてもらいたい。誰もが見てちょっと引っかかる“仕掛け”は大切にしています」

テーマ「コンプレックス」。胸が小さいことをコンプレックスに思っているモデルの裸体に、華やかな植物を描いた作品。

NHKの依頼で戦争をテーマに絵がいただく品。美しいけれど毒があるトリカブトがモチーフ。

擬態が好き ♥「ありそうでない」のギリギリを攻める

ボディだけでなく、モノに描くことも好きだというチョーさん。手がけた絵本『じゃない!』(フレーベル館)は、きゅうりがバナナに、かぼちゃがピザに……と、彼女ならではのユニークな発想の転換で読む人を引き込む。

「本来の姿じゃない、何か別のものに見立てることが好きなんです。例えば、昆虫の擬態にもすごく興味があります。生きていく環境の中で、葉っぱの色や形に似たものが生き残っていく現象があるなら、自分の身近にも、もっと可能性が広がるんじゃないかと想像するんです。コロナ禍に家にこもっていた時は、『フードデリバリーの袋に擬態した虫が大量に発生したら』とか、『タンスの肥やしになった冬物のボタンに虫が擬態したら……』なんて妄想をしていました」

イメージの源は主に外的刺激から。上野の国立科学博物館やニューヨークのアメリカ自然史博物館に足を運んでは、昆虫の標本や動物の剥製を前にイメージを膨らませているという。

「作品にするときは、“ありそうでない。でも、なんかありそう!?”というギリギリを攻めたいと思っています。それにはしっかりとしたリサーチが必要。今の技術で可能なことや自然現象として起こり得ることを把握してこそ、その“ギリギリ”が実現すると思っています」

グレープフルーツをドーナツ、リンゴをコーヒーに見立てた作品。絵本「やっぱり じゃない!」収録作品。

ニューヨーク生活6年目。“生きづらさ”と“自由”の先に……

現在はアメリカ・ニューヨークを拠点に創作活動を続けるチョーさん。

「ニューヨークは、正直生きづらい街です。物価も高いし、治安も良くないし、病院にすら気軽にいけなくて、安心感が異常にない……。それでも、『他人にとやかくいうなよ』という風潮があって、その自由さはすごく感じています。多様性がある分、諍いも起きやすいけどマイノリティの人が無視される確率が低い。私自身、在日中国人という出世で、ニューヨークでいう“エイリアン(=移民)”として生きてきた自覚があるからこそ、その自由さをより肌で感じるのかもしれません。今後はピックアップされにくいエイリアンの人たちにフォーカスを当てて、マジョリティの人に届けられるような活動もしていきたいなと思っています。作品においては、単にビジュアル的に面白いだけではない、芯をくったものを残していきたいですね」

SNSで「いいね」がたくさん付かなくても、自分がかっこいいと思えるものを作り続ける生き方を選びたいと語るチョーさん。彼女の揺らがぬ“芯”が、どう作品に反映されていくのか、今後の活躍からも目が離せない。

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『あ、あな!』
著者:チョーヒカル
1540円(ポプラ社)

取材・文/坂本祥子  撮影/廣 健吾

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