
「まさしく四面楚歌の状況だ!」といえば、かなり切迫したシチュエーションと考えられます。四面楚歌という言葉を聞いたことはあるけれど、詳しい意味や由来についてはうろ覚え……という方もいるかもしれません。意味や由来、また、使い方を類似する言葉を例文でわかりやすくご紹介します。ぜひ適切な場面で使ってみてください。
目次
よく耳にする故事成語「四面楚歌」ですが、その由来や正しい意味をご存じでしょうか。今回は、覚えておきたい言葉の正しい使い方を解説します。
四面楚歌の意味をわかりやすく紹介
四面楚歌(しめんそか)とは、敵に囲まれて孤立し、助けがないことを指す故事成語です。周囲の者が反対者ばかりの状況を指すこともあります。
参考:デジタル大辞泉
■四面楚歌の由来
四面楚歌は、中国の歴史書『史記』の項羽本紀に記載されたエピソードに由来する言葉です。楚の項羽が漢の高祖(劉邦)に敗れ、垓下(がいか)で漢軍に包囲されたとき、夜更けに四方から楚の歌が聞こえてきました。
項羽は自分の故郷である楚の人々がすでに漢軍に降伏したのだと理解し、故郷の人々もすべて自分の敵になってしまったと絶望します。その後、宴会を開き、自作の歌を歌います。項羽が寵愛していた虞美人はその歌に合わせて舞い、自刎しました。また、項羽も長江の渡し場で自刎し、長く続いた劉邦との争いが終焉します。
四面楚歌は敵に囲まれた状況であることから、「楚=敵」と誤解しがちです。項羽は楚人のため実際は「楚=味方」なのですが、四方から楚の歌が聞こえてくるほどに、漢軍(=敵軍)には多くの楚人がいたことを示しています。
■四面楚歌を使った例文
四面楚歌は日常生活でも使われる表現です。周りがすべて敵のとき、孤立無援の状況のときなどは、「四面楚歌」の言葉を用いて表現できるかもしれません。
- いつの間にか皆、会長派に寝返っていたよ。現社長派のわたしは四面楚歌の状況だった。
- 電車の遅延でわたし以外の全員がまだ会議場に到着していない。四面楚歌の状況でプレゼンを始めることになり緊張した。
四面楚歌と類似する意味の言葉
四面楚歌のように、敵に囲まれたり追い詰められたりした様子を指す言葉は数多くあります。よく使われる言葉としては、次のものが挙げられます。
- 孤立無援
- 万事休す
- 絶体絶命
- 行き詰まる
- 後がない
それぞれの意味や使い方について、例文を通して見ていきましょう。
■孤立無援
孤立(こりつ)とは、一つまたは一人だけ他から離れて、つながりや助けのないことです。また、無援(むえん)とは、助けのないことです。
- 敵に包囲されて孤立無援の状態になった。
- 営業先で孤立無援だと感じたら、相手を巻き込んで味方につけてしまおう。
四面楚歌と同じく周囲に味方がいないことを示しますが、孤立無援には「助けがない」という意味が含まれます。単に味方がいないだけでなく、助けを得られない状況であることを強調したいときには孤立無援と表現できるでしょう。
参考:デジタル大辞泉
■万事休す
万事休す(ばんじきゅうす)とは、もはや施す手段がなく万策尽きたこと、また、もはやおしまいで何をしてもだめだという場合に使う言葉です。すべてのことが休止して動きを停止したように、あらゆる手段が通じなくなったことを意味します。
- パソコンが起動しない。設定を変えたりリセットしたりしたが万事休すだ。
- こちらのミスで発注が遅れてしまった。万事休す、先方はもう取引しないと怒っている。
「困窮する」の「窮」を使って、「万事窮す」と書くのは誤りです。「窮する」は行き詰まってどうにもならなくなる、困り切るといった意味があるため、まさに「万事休す」にふさわしい漢字と思われます。しかし、「万事休す」は、後がなくなるやおしまいになるの意味を持つ「休する」を使うのが正解のため、正確に覚えておきましょう。
なお、「万事休す」は中国の歴史書『宋史』に記載されたエピソードに由来する故事成語です。荊南の王子の保勗(ほうきょく)は甘やかされて育ち、人が怒ったり睨んだりしても笑顔を見せるような子だったため、人々は「これで荊南は終わりだ(万事休す)」と思ったそうです。
また、「万事休す」は、唐の詩人、白居易の詩にも詠まれています。年老いた白居易は、酒に酔うと心が満ち足りて、何の欲望も感じなくなくなったことを「一飽百情足 一酣萬事休」と歌いました。
参考:デジタル大辞泉
■絶体絶命
絶体絶命(ぜったいぜつめい)とは、どうにも逃れようのない、差し迫った状態や立場にあることです。
- 絶体絶命の苦境に追い込まれた。
- クライアントから預かった資料を紛失した。今まで隠していたが、いよいよ隠しきれなくなっている。絶体絶命とはこのことだ。
なお、「絶体」と「絶命」はともに九星術でいう凶星の名称です。九星術とは、古代中国の『洛書(らくしょ)』の図にあるという九つの星に基づいた占いを指します。
一白(いっぱく)・二黒(じこく)・三碧(さんぺき)・四緑(しろく)・五黄(ごおう)・六白(ろっぱく)・七赤(しちせき)・八白(はっぱく)・九紫(きゅうし)があり、陰陽道の五行と方位に配し、人の生まれた年に当てて運命の吉凶を占います。
参考:デジタル大辞泉
■行き詰まる
行き詰まる(いきづまる、ゆきづまる)とは、行く手がさえぎられて先へ行けなくなること、物事がうまく先へ進まなくなることです。
- 突き当たりで道が行き詰まった。
- 経営が行き詰まっている。会社自体を手放し、優秀な経営者に引き継いでもらいたい。
四面楚歌とは異なり、敵に囲まれた状況ではありませんが、行きたいように行けないことを表現するときに使われます。
参考:デジタル大辞泉
■後がない
後がない(あとがない)とは、もうこれ以上、後ろには下がれないことや、これ以上は負けられない状況を指す言葉です。
- 後がない立場に立たされた。
- わかっているかもしれないが、我が社にはもはや後がない。
参考:デジタル大辞泉
四面楚歌の意味を確認しておこう
四面楚歌は、四方を敵に囲まれた状況を指す故事成語です。由来となったエピソードを理解しておくと、楚が味方であることや、垓下の戦いなども理解しやすくなります。
また、絶体絶命や万事休すなど、類似する表現も多数あります。合わせて覚えておくと、言葉のバリエーションが広がるでしょう。
構成/林 泉