「ヴィーガンワイン」という言葉を耳にしたことのある人は多いだろう。ただ、その定義や価値については、まだそれほど知られていない。気になるその魅力について、ヴィーガンワイン、また「エコフレンドリーワイン」という新たなジャンルのワインのインポーターであり、ソムリエの資格ももつ株式会社アトラクティブテックの代表・内田香里さんに伺った。
オーガニックワインと何が違う?
--そもそもヴィーガンワインとは、どのようなワインを指すのでしょうか。オーガニックワインとはまた違うものですよね?
内田さん(以下、内田):まったく別のものです。オーガニックワインとは、オーガニック農業で栽培されたブドウをオーガニックワインの規定のもとに醸造し、認証を取得したワインのこと。一方、ヴィーガンワインとは、製造工程において動物由来の物質を使用していないワインを指します。
――ということは、一般的なワインづくりのプロセスでは、動物由来の物質が使われている、と。
内田:実はそうなんです。ほとんどのワインは製造工程で澱(おり)と呼ばれる浮遊物や沈殿物を取り除く作業を行っています。この清澄(せいちょう)と呼ばれる作業を行う際、動物由来の素材が使われることが多いんです。ちなみに、ワインの生産で有名なフランスのボルドー地方では古くから卵白を清澄剤として使用するのが伝統で、余った大量の卵黄を活用するために生まれたのが、かの地の銘菓であるカヌレなんですよ。
――カヌレとワインにそんな関係があったとは! 卵白以外にはどのようなものが使われるのでしょうか。
内田:牛や豚のゼラチン、牛乳のタンパク質などですね。こうした動物由来のものではなく、植物由来や鉱物由来の素材を清澄剤として使用するのがヴィーガンワインです。
――よくわかりました。内田さんはかつてジョルジオ・アルマーニ・ジャパンでVVIPサロンの立ち上げやサービス指導を担当し、銀座の「アルマーニ リストランテ」では女性初のレストランサービススタッフを務められ、ソムリエの資格もお持ちです。2023年に株式会社アトラクティブテックを起業し、ワインや日本酒の輸出入業をされています。これまで何千本というワインを味わってきた内田さんがヴィーガンワインに惹かれたきっかけを教えてください。
内田:友人を通してオーストラリアの「タンバレンオーガニックワイン」というワイナリーに出会ったのがきっかけです。創業者で自らブドウ栽培を行い、醸造最高責任者を務めるマーク・デイヴィッドソンさんは、今から40年前にブドウのオーガニック栽培をいち早くスタートさせたパイオニア。現在では一般的となった、コルクよりエコだと言われているスクリューキャップの開発に携わった人物でもあります。
「私たちが地球に出会ったときよりも、さらによい良い状態にして後世に残すこと」をモットーとする彼が手がけたヴィーガンワインを一口試飲したときは、衝撃が走りました。まるで上質な美容液のようにすっと沁み渡り、心が躍動する……こんなワインは初めてで。私自身はヴィーガンでありませんが、地球にも優しく、人にも優しい。そして安心・安全。しかも、ヴィーガンの人もそうでない人も楽しめるのであれば、ぜひ日本の方たちにも紹介したい!と思ったんです。
エコであることが美味しさにもプラス
――現在は「エコフレンドリーワイン」として注目を集めるタンバレンオーガニックワインの日本の輸入総代理店「タンバレンジャパン」を経営されています。創業者のマークさんは「地球にも人にも優しいワイン造り」にこだわっているということですが、タンバレンでは具体的にどのような取り組みをされているのですか。
内田:ワイナリーの運営にあたっては再生可能エネルギーを活用する、水を再利用するなど、環境に配慮しています。特に干ばつの多いオーストラリアでは、水はとても貴重な資源です。タンバレンでは雨水をバクテリアの力できれいに再生し、ワイン畑にドリップするシステムを採用しています。また、生態系をできるだけ壊さないように工夫することも大切です。ブドウはオーガニック栽培で、ワインに使用したあとの皮や残滓(ざんし)を肥料にして畑に戻すなど、循環を目指しています。
――地球に優しいワインは、私たちの身体にも優しそうですね。
内田:おっしゃるとおりです。できるだけ自然なかたちで造られたワインには、人間が体内で消化・分解できない成分は基本的に含まれていません。またブドウの樹は根が深く、育った場所の土壌の性質が味わいにダイレクトに反映されるもの。農薬や化学肥料を使わない土地で育ったブドウから造られるワインは、ブドウのもつ本来の味わいと香りが生きてきます。つまり、エコであることが美味しさにもプラスの影響をもたらすのです。そして土壌に雨が降り、地中に流れた後は私たち人間の元に水として戻ってくるわけですから、結局、すべて繋がっています。生態系のループを考えても、地球にも人にも優しいエコフレンドリーワインであることは、非常に大切なことだと考えています。
――タンバレンのワインは、オーストラリア国内でもたくさんの賞を受賞しているとか。
内田:現地では300を超える受賞歴があります。また日本では昨年、輸入前のマーケット調査としてサクラアワード2024に初出品したのですが、「最高峰ダイヤモンドトロフィー」をはじめ、複数の賞を同時受賞することができました。これは日本で展開するにあたり、自信につながるうれしい出来事でしたね。
――ぜひ飲んでみたいです。
内田:現在、弊社のオンラインショップで取り扱っているほか、一部のオーガニック専門店でも販売されています。これからの季節はホームパーティーの手みやげとしてもおすすめですよ。また、都内のレストランなどの飲食店でも扱っていただいているところが少しずつ増えてきています。
――最後に、今後の展望を教えてください。
内田:オーストラリアでは既に販売中の再生プラスチックを用いたエコフラットボトル入りのワインを、日本でも来年から展開する予定です。また最後に、アトラクティブテックとしての新規事業「icchiⓇ」についてもお話しさせてください。例えば、勧められたものの味わいが自分の好みと違うときや、思い出の味に近いワインを飲みたいとき、あるいは、相手の好みに合うワインを贈りたいときなど、「探している味が簡単に見つかればいいのに」と思ったことはありませんか? 私たちは料理とのベストなペアリングや、その人の味の好みにピタリと合うマッチングを提案する、新たな技術の開発を進めています。
これからは既成概念にとらわれず、自分にふさわしい生き方を積極的に選ぶのが当たり前の時代。ワインの楽しみ方ももっと自由であっていいし、それこそがウェルビーイングであると考えています。SNSを中心に、日々新しい情報が展開される世の中で、自分にとって本当に必要なものは何か。本質を見極め、自分自身を基準に置く能力が試されているような気がしています。私はタンバレンワインやicchiⓇを通して、選択の自由、個性を尊重し互いを認め合う世界観を創造していきたいと考えています。
取材・文/志村香織