世界13か国にオフィスを構える市場調査会社「Mintel Group」の日本法人で、美容やライフスタイル、食品・飲料分野におけるグローバル調査に強みを持つミンテルジャパンは、2024年10月にミンテルジャパンレポート「レディース衛生用品トレンド– 日本 – 2024年」を発刊。世界のレディース衛生用品市場と日本における実態、発展が見込まれるフェムケア・フェムテックに関する認知について明らかにした。
このレポートによれば、日本では「フェムケア」や「フェムテック」という言葉で連想されるのは「デリケートゾーンのケア」が、全ての年代を通じて最も多かったことから、同社ではデリケートゾーンケア市場について米国市場と日本市場を比較。先日、結果がリリースされたので、その概要をお伝えする。
デリケートゾーンケア、米国で65%が使用も専用品の魅力は未開拓?
日本・英国(2022年、2023年)とドイツ(2022年)は実績値。それ以外は見通し
出典: Mintel Market Sizes Feminine Hygiene and Sanitary Protection Products
世界のレディース衛生用品市場の二強は中国、アメリカだ。中国、アメリカを含めたレディース衛生用品市場の主要5か国はこの3年は安定して推移している。また、アメリカはインフレのため、レディース衛生用品の販売額は上昇傾向にある。レディース衛生用品で最も大きな売上のカテゴリーは生理用品で、5割程度を推移している。
近年、消費者のセルフケア意識は高まっており、これはデリケートゾーンケア製品の使用状況にも見られる。2024年現在、アメリカでは65%の女性またはトランスジェンダー男性がデリケートゾーンケア製品を使用しており、2023年の61%からやや使用率が上昇している。
主に使われているのはウェットティッシュや洗浄剤など、汚れやにおいを取り除くことを目的にした製品だが、2023年と2024年を比較すると、どのタイプの製品も少しずつ使用率が伸びている。
また消費者の3割がデリケートゾーンケア専用のウェットティッシュや洗浄剤を使用している一方、専用でない製品も3割が使用していることがわかっている。
■デリケートゾーンケアの新製品では人や環境に害がない「クリーンビューティ」の訴求率が上昇
過去5年、デリケートゾーンケアの新製品では、保湿性・持続性(※)といった機能、さらに安全性やエコ・エシカルなどといった、人・自然環境に害がない「クリーンビューティ」の訴求率が上昇している。
消費者は主に汚れやにおいを取り除くことを求めてデリケートゾーンケア製品を使用していると思われるが、ブランドはこうした付加価値を訴求してプレミアム感を演出していると考えられる。
※特定の効果が長時間続くこと
<ウェットティッシュの代替としてエコを訴求>
画像出典:ミンテル世界新商品データベース(Mintel GNPD)
Dr. Vivien Karl 03 Intimate Care Foamは、トイレットペーパーに吹き付けて使うケア製品。ウェットティッシュ125枚分を節約できる。(ドイツ)
過半数が言葉を知らず、想起率が高いデリケートゾーンケア専用製品の使用率はわずか2割
現代女性の多くが高等教育を受け、仕事もしているが、職場では依然男性との間に地位・賃金の格差がある。国連は、男女格差が解消され、女性が経済的にもっと力をつけることによって世界経済に7兆ドルの押し上げ効果があると推定している。
女性のさらなる活躍が経済にこれほどプラスの影響をもたらすなら、もっと女性の活躍を後押しすべきだろう。そこで女性特有の健康を扱う製品やサービスのカテゴリー「フェムテック」(デジタルテクノロジーを使って健康問題を解決するもの)や「フェムケア」(デジタルテクノロジー以外を使って解決するもの)が注目されるようになった。レディース衛生用品は、「フェムケア」の重要な要素の一つだ。
しかし、ミンテルが「フェムケア」または「フェムテック」という言葉の認知度を18歳以上の日本人女性を対象に調査したところ、全体の6割は「フェムケア」や「フェムテック」という言葉を知らなかった。年齢が高くなるほど知らない割合が多く、50代では7割、60代以上では8割が知らないという結果が出ている。
■実際の領域は幅広いが、消費者は「女性の健康や体のケア=デリケートゾーンケア」という認識
また、「フェムケア」や「フェムテック」という言葉で連想するのは「デリケートゾーンのケア」がどの年代でも最も多く、おそらくこれはデリケートゾーンケア製品には「フェム○○」のような製品名のものが多いからだと考えられる。
実際の領域は幅広いが、消費者の頭の中では「女性の健康や体のケア=デリケートゾーンケア」という図式があるようだ。
なお、デリケートゾーンケア製品使用者では「フェムケア」、「フェムテック」という言葉の認知率が6割と非利用者と比べて高いという調査結果が出ている。
専用製品利用者が「フェムケア」、「フェムテック」と聞いて連想するのはやはり「デリケートゾーンのケア」が最も高く、このデータも、消費者がフェムケア=デリケートゾーンケアと思っていることを裏付けている。
「フェムケア」や「フェムテック」という言葉に対してはデリケートゾーンケアの想起率が比較的高いが、実際に専用の製品を使ってデリケートゾーンの手入れをしている日本の女性は少数派で、全体で2割程度。若い人ほど使用率は高いが、18ー29歳でも3割程度だ。
専用のウェットティッシュや洗浄剤、専用品でない製品をそれぞれ3割が使用しているアメリカの消費者と比べると、専用製品を使ってまでデリケートゾーンを手入れするという意識が日本では低いようだ。日本の消費者にとってデリケートゾーンケアは、馴染みの薄いことなのかもしれない。
専用製品の使用率が低い一方、2人に1人が「デリケートゾーンに悩みがある」
日本はデリケートゾーンケア専用製品の使用率が低い一方で、全体の2人に1人がデリケートゾーンについて何らかの悩みを持っており、特に若い人ほど悩みを持つ人の割合が高い。つまり、日本の消費者の多くには、デリケートゾーンが気になっているにもかかわらず、積極的に対処しようとしていない現状がある。
店頭では、デリケートゾーンケア製品が棚の下の方など目立たないところに置かれていることが多く、日本のデリケートゾーンケア製品の市場規模は、統計として表記できないほど小さくなっている。
フェムケアに対する意識調査では、「生理の貧困(※)」問題がメディアで広く取り上げられるようになり、消費者の間でも生理について話題にすることは抵抗がなくなってきたと見られる一方、デリケートゾーンケアは話題にしにくいようだ。
これはミンテルが行なった「フェムケアに対する意識調査」からも言える。女性のデリケートゾーンについては、子どもの頃から触れてはならない話題となっており、大人になっても話題にしにくくなっていると考えられる。
※ 経済的な理由で生理用品を購入できない女性がいるという状況を示す言葉
このような状況は、日本人が性器の話題を避けてきた結果かもしれない。特に女性器についてはその傾向が強く、NHKのアンケートによると、日本では男性には子どもでもわかる男性器を指す言葉がある一方、58%が家庭において女性器を指す名前がなかったと回答している。日本社会では女性器を話題にするのはタブーとなっており、このような状況でデリケートゾーンのケアを呼びかけるのは困難だったと考えられる。
■ビジネスチャンス:消費者の5割はデリケートゾーンケアに何らかの悩みを持っている
日本のデリケートゾーンケア市場は統計で示せないほど小さく、実際に消費者の8割はデリケートゾーンケア専用製品を使用していない。
しかし、消費者の5割はデリケートゾーンケアに何らかの悩みを持っている。これは、日本においてデリケートゾーンケア製品の伸びしろが大きいことを示していると言えるだろう。
また、アメリカでは、消費者の3割がデリケートゾーンケア専用のウェットティッシュや洗浄剤を使用している一方、専用でない製品も3割が使用している。日本の消費者で専用製品を使用していない人の中にも、専用でない製品を使用してデリケートゾーンケアをしている人がいるかもしれない。
日本の各企業やブランドは、まずデリケートゾーンケアに専用製品が必要な理由を消費者に伝える必要がありそうだ。
■花王のウェブサイト:FemCare LAB
花王株式会社は「健康な肌は弱酸性(pH4.5~6.5)ですが、デリケートゾーンはそれよりもさらに酸性に傾いた弱酸性(pH3.8~4.5)。そのおかげで、外からの細菌が腟の中に侵入するのを防ぐことができます。普通の石けんやアルカリ性のボディソープで洗ってしまうと、刺激が強すぎて腟の自浄作用を失うこともあります。デリケートゾーン専用の肌にやさしい弱酸性の洗浄料をおすすめします」と述べて、専用製品をすすめている。
花王株式会社ウェブサイト:https://www.kao.com/jp/femcarelab/useful-info/info04/
■「赤ちゃんにも使える」で買いやすくする
デリケートゾーンケア製品を店頭で購入するのが恥ずかしいという消費者には、「赤ちゃんにも使える」というコミュニケーションは有効かもしれない。実際に子どもがいなくても、購入時に「私ではなく赤ちゃんのためにこの製品を買うんだ」というカムフラージュができるからだ。
ピジョンデリケートリフレッシュソープルは妊娠中の会陰ケアとして、心地よくマッサージできる妊産婦向けのデリケートゾーン用洗浄剤。産後は赤ちゃんと一緒にスキンケア用品として使用できるものが販売されている。
妊産婦でなくても、「赤ちゃんにも使える」というコミュニケーションをすることによってより多くの消費者がデリケートゾーンケア製品を買いやすくなるのではないか、とミンテルのアナリストは本レポート内で提案している。
出典/ミンテルジャパンレポート 『レディース衛生用品トレンド 2024年』より
関連情報
https://japan.mintel.com/
構成/清水眞希