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あのヘミングウェイも愛したという〝うま味〟はアメリカでどう受け入れられたのか

2024.12.16

『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』などの諸作品で知られる文豪アーネスト・ヘミングウェイはかなりの料理好きでもあった。数多くのオリジナル・レシピを世に残していることでも知られている。そのなかにはアメリカの国民食とも言えるハンバーガーも含まれており、その凝った独特な味付けの秘訣が実は「うま味」だったという説を最近になってよく見聞きするようになった。

ヘミングウェイが「うま味」という言葉を使ったわけではない。そのレシピで使われているさまざまな食材、とくにスパイスとの組み合わせが、このアメリカで最近流行りの味に似ているというわけだ。

アメリカでうま味がどのように受け入れられているのか、うま味の歴史と共にみていきたい。

ヘミングウェイ邸宅(フロリダ州キーウエスト)。現在は博物館になっている。

明治の巨人と世界的発見

「うま味」とは酸味、甘味、塩味、苦味、に次ぐ第5の味と言われている。明治時代の化学者、池田菊苗によって発見され、適当な訳語がないままに日本語がそのまま英語(”Umami”)でも使われている。日本人による世界的発見のひとつである。

ヘミングウェイが活動した20世紀前半にはすでにその発見はなされていた。しかし、その頃はまだ”Umami”の概念がアメリカでは一般的に知られてはいなかった。

池田菊苗はまだ江戸時代が続いていた1864年(元治元年)に薩摩藩士の次男として生まれた。32歳で東京帝国大学助教授となり、35歳でドイツ・ライプツィヒ大学に留学し、短期間ながらイギリスでも学んだ。ロンドンでは3歳年下の夏目漱石と親交が深かった。まさに『坂の上の雲』世代の人である。

明治国家を背負った化学者として華々しい経歴を持つ池田だが、その名を後世不朽のものにした「うま味」成分(グルタミン酸ナトリウム)の研究および発見はライプツィヒ大学や帝国大学の研究室で行われたものではない。

ヨーロッパ留学から帰国した池田は、だし昆布からヒントを受け、そこには4基本味である酸味(さんみ)、甘味(かんみ)、塩味(えんみ)、苦味(にがみ)とは別の「うまい」という味があると考え、自宅に設けた私的な研究室で昆布からグルタミン酸ナトリウムを抽出することに成功した。いわば日本の家庭で生まれた発見である。

池田は1908年(明治41年)にグルタミン酸ソーダを主要成分とする調味料の製造方法特許権を取得し、商品化を委託された鈴木三郎助(鈴木商店の創設者)がそれを「味の素」という商品名で製造販売を開始した。日露戦争が終結してからわずかに数年後のことである。鈴木商店はのちに「味の素」へ社名を変更した。

「MSG = 不健康」の誤解を乗り越えて

池田が命名した「うま味」と「味の素」調味料は世界中に広まっていったが、その道は必ずしも順調であったわけではない。とくにアメリカでは、「うま味」のもとであるグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate)、略してMSGは不健康な調味料を象徴する言葉だった時期が長かった。

つい最近まで、「中華料理にはMSGが多く含まれ、それが頭痛を始めとしたさまざまな健康被害を引き起こす」とする、いわゆる「チャイニーズ・フード・シンドローム」説が、まことしやかに語られていたものである。ほとんど風評被害に近いものではあったが、その影響は深刻だった。レストランのメニューや食品ラベルなどにわざわざ「No MSG」と表記されていることは今でもよく目にする。

MSG非添加を謳った「うま味」冷凍ギョーザ

その後さまざまな研究によって、現在では「MSG = 不健康」説は学術的にはほぼ否定されている。しかし、人々の意識は急には変わらないようだ。

MSGに代わり、美味しい食べ物をイメージさせる好ましい単語として、”Umami”が米国一般に広く使われるようになったのは2000年以降ではないだろうか。各地にその単語を冠したレストランが開店し、またスーパーマーケット等で販売される食品に見ることも珍しくなくなった。

日本でも食べられる「UMAMI BURGER」

UMAMI BURGER店舗外観(カリフォルニア州アーバイン市)

筆者の近所にあるショッピングモールの1角に「UMAMI BURGER」と、そのままずばりの名をつけたレストランがある。ハンバーガー単体で12ドル(約1,800円)以上、ポテトと飲み物をつけたセットメニューだと20ドル(約3,000円)以上はするので、マクドナルドなどのファストフード・チェーンに比べると値段はかなり高い。店の外観も内装も高級店のような雰囲気だ。

UMAMI BURGER

さて、その「うま味」を活かしたハンバーガーだが、むろんヘミングウェイのレシピを再現したものではない。美味しいのか、そうでないかも、人それぞれの好みによって異なるはずだから、それについての論評は避ける。そもそも味覚が鋭い人間ではまったくないので、だし昆布に似た「うま味」を感じたか? という質問にも答えることはできない。ただ、少なくとも、もう一度食べてみたいとは思った。

UMAMI BURGER公式ウェブサイトによると、同社はカリフォルニア州ロサンゼルスに本社を置き、日本にも5店舗を展開している(2024年12月現在)。今のところは首都圏に限られているようだが、興味のある人は訪れてみてはどうだろうか。

文・写真/角谷剛

日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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