「家族と仲が悪く毎日イライラしている」「職場の上司と性格が合わなくてつらい」「恋愛がうまくいかず苦しい」。
私たちの人生には、このような乗り越えるべき「壁」がたくさんあります。その中でも最も大きな障害は「自分自身」かもしれません。なぜなら、悩みや苦しみは、「他人」が生み出しているのではなく、紛れもなく「自分」から生まれているものだから。
YouTube登録者数約70万人を誇る大人気僧侶・大愚和尚こと大愚元勝氏による累計5万部突破のベストセラー『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』から一部を抜粋・編集し、自分を知り、受け入れ、変えていくためのヒントを紹介します。
「あの人よりマシ」というちっぽけな優越感は幸せを遠ざける
■相手を軽蔑したところで、自分のレベルが上がるわけではない
仏教における「慢」とは、他人のことを、自分より上か、下か、同じくらいかで判断したくなる衝動のことです。
この「慢」が原因で生まれる負の感情が「軽蔑」です。相手は自分よりも下であると見下したり、バカにしたりする際に生じる感情だからです。
これは人間が本能的に持つものではなく、きわめて〝社会的な感情〟と位置づけることができます。
軽蔑は、私たちが生きるうえでまったく必要のない感情です。
無意味で無価値。そう断じてしまっても構いません。
自分が誰かのことを蔑んだとします。
「あいつは俺よりも学歴が低いから、たいしたことないな」
「あの子、たいしてかわいくもないのに無理して厚化粧しちゃって」
このように思うと、一瞬は優越感に浸れるかもしれません。
でも、状況はなにも変わらないのです。誰かを軽蔑しても、仮にそれが客観的な事実であったとしても、あなた自身の能力が格段に上がるわけでも、容姿が良くなるわけでもありません。
著名人のスキャンダルに対してもそうです。
ルックスも、経済力も、社会的知名度も、なにもかも自分とは別次元で勝てないと思っていたアイドルや俳優が、不祥事を起こしたり、異性関係のトラブルに巻き込まれたりすると、ここぞとばかりにバッシングを始める人がいます。
著名人を「そんなことをする人だとは思わなかった」と軽蔑して叩いて、不倫をしない自分、ドラッグなどに走らない自分のほうがマシだ、上だと思う。自分は正しく相手は間違っているのだ、自分のほうが優れているのだと思いたいわけです。
しかし、それになんの意味があるのでしょうか?
どんなに対抗意識を燃やしたところで、あなた自身にも、あなたを取り巻く環境にも、いっさい変化が生じることはありません。
また、仮に純粋な気持ちで「相手に反省をしてほしい」と思ったとしても、直接の知り合いでもなんでもないあなたの言葉が相手の心に届いたり、「心を入れ替えよう」などと思ったりするはずもありません。
影響があるとしたら、昨今社会問題になっているような誹謗中傷の一環ととらえられ、相手の心身を追い込み、最悪な結果をまねくことに加担してしまうだけでしょう。
軽蔑をしても、なんの戒めにも救いにもならない。
しかも、イライラした感情はあなたの心身に悪い影響を与え、自分が損をするだけで、決して幸せにはなれない。
まずはこれを認識していただきたいと思います。
■バカにするのではなく相手に寄り添う
誰かに対して軽蔑の念を抱いている自分に気づいたら、まずはその軽蔑の感情が、どんなタイプのものであるかを冷静に分析してみましょう。
「残念だな」「かわいそうだな」という哀れみに近い感情であれば、「軽蔑」を「同情」に置き換えられるように働きかけてください。
同情とて、問題解決の決定打にはなりませんが、軽蔑よりははるかにまし。相手の気持ちを理解し、寄り添っていくことができるようになるからです。
相手の行動の裏側や真意を想像しようとしないことは、無知なる行為、すなわち「痴」になります。
例えば、食事のマナーが著しく悪かったり、言葉遣いが乱暴だったりする人がいたとしましょう。
それを目の当たりにして軽蔑したくなったとき、「最悪だな。どうしようもない。こうはなりたくない」ととらえるのではなく、「育ってきた環境があまり良くなかったのかな」「おそらくご両親の躾の問題であって、この人の責任ではないはず」「なにか精神的につらいことを抱えているのかな」などと考えるようにするのです。
ブッダは「人間は等しく愚かであり、誰もが病気を患っているようなもの」という見方をしています。
パーフェクトな人間なんて、存在しません。
蔑んでいる暇があったら同情してあげてください。
そうなってしまったのは仕方がない。
その人だけが悪いわけではない。
このように考えれば、ネガティブな感情を心の中で育てなくて済むようになります。
あなたの精神状態は、今よりもいっそうおだやかなものになるでしょう。
■「軽蔑」の多くは「怒り」に発展する
軽蔑には、蔑みではなく怒りに近いタイプの感情もあります。
「なんであの人はこんな簡単なこともできないんだ。ありえない」
「めちゃくちゃ狭い道なのに、横に広がって歩くなんて非常識で迷惑だ」
このように、自分が簡単にできることをできない人、場の空気を読めない人、社会的ルールを守れない人に対して生じる軽蔑は、たいていの場合、怒りに発展するものです。
芸能人のスキャンダルに対するバッシングも「清純派だと思っていたのに、ルールを破って不倫するなんて許せない」などと、怒りの感情で叩いている人もいるでしょう。
相手をバカにする気持ちが怒りに変わってしまっているな……。
そんな自分の気持ちに気づくことができたら、P68でお伝えした「怒り」の対処法(怒りの炎に妄想による燃料を投下しない、怒りの対象から離れるなど)をもって臨んでください。
そこに気づけずにいると、さらに怒りを募らせて、自ら面倒なシチュエーションを生み出してしまうこともあります。
とくに日本人に多いのは、あえて相手に聞こえるようにぼそっと嫌味を言うケースです。
「あ~あ、ここは公共の場なんだけどなぁ」
「そんなことをするなんて、どういう神経をしているんだろう」
根底に軽蔑の念がありますから、言い方にはとかくいやらしさが伴います。
言われたほうは当然、カチンときますよね。自分は確かに良くないことをしていると思っていても、嫌味を言ってきた相手に対する怒りが生まれます。そのまま口論になってもなんら不思議ではありません。
社会的ルールを守らない人に対して軽蔑の感情が生まれ、それが怒りに転じようとしていたら、ひとつ深呼吸をして、冷静に指摘してあげたほうがよほどお互いのためになるのではないでしょうか。
嫌味口調や喧嘩腰ではなく、丁寧に、理路整然と正論を向けられたら、言われたほうはけっこう素直に従うものです。
ただし最近は物騒な世の中になり、マナーの悪い人に注意をしたら突然ナイフで刺されたなんて事件を聞くこともありますので、指摘を躊躇う場合は、その場(怒りの対象)から離れることが最善だと思います。
■嫌味のない外国人から学んだこと
私は学生時代にこんな経験をしたことがあります。
ある日、空手の道着や防具などが入った大きなカバンなど、たくさんの荷物を持って満員電車に乗り、その荷物を自分の足元に置きました。当然のごとく、ほかの乗客からは「邪魔だな」という白い目で見られました。
その自覚はありましたが、あまりに荷物が多かったので、しょうがないよな……と思っていたのです。
すると、あとから私の近くに乗車してきた外国人男性が「きみの荷物が邪魔になっているから網棚に載せてくれ」と言ってきたのです。
私は突然話しかけられたことに驚き、一瞬警戒してしまいました。しかし彼には怒っているとか嫌味な感じは、まったくありませんでした。ただ単に、そうしたほうがいい、そのほうがお互いにとって良いだろう、ということを伝えてきている様子でした。
そして、重たい荷物を網棚に載せるのを手伝ってくれたのです。
もし、誰かから「邪魔なんだよ」「非常識だろ」といったような言葉をブツブツと言われたら、若かった当時の私はムッとしていたかもしれません。
でも、淡々と指摘して手伝ってくれた外国人男性に対しては、「どうもありがとう」という感謝の気持ちがこみ上げてきました。
このように、同じ感情を抱いた場合でも、接し方ひとつで相手への伝わり方は大きく変わるものなのです。
私たち日本人は比較的シャイで、他人に対してこのような指摘をしたり、はっきりと物を言うことが苦手だったりする傾向にありますが、余計な含みを持たせずにストレートに行動する外国人のみなさんから、こういう姿勢を学ばないといけないかもしれませんね。
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いかがだったでしょうか?
『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』は、自己との向き合い方を深く考えさせてくれる一冊です。
人生の壁に直面した時、それを他人や環境のせいにするのではなく、自分の内側を見つめ直すことで新たな道が見えてくるかもしれません。
大愚和尚のメッセージは、読む人の心にそっと寄り添い、勇気を与えてくれます。本書を通じて、人生に立ちはだかる「壁」を超える力を、一緒に見つけてみませんか?
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■著者情報
大愚元勝
佛心宗大叢山福厳寺住職。慈光マネジメント代表取締役。慈光グループ会長。佛心僧学院学長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。 駒澤大学、曹洞宗大本山總持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。 僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。
YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」
構成/DIME編集部