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「今は、結婚する気がない」という恋人の言葉に期待してはいけない理由

2024.12.16

「yuzukaさんにピッタリだと思いますよ」

担当編集者の方からそうすすめられたのが今回の書籍、『愚恋に説法』である。説法というだけあって、現役のお坊さんである大愚元勝さんが書かれた本だ。普段は約70万人もの登録者を誇るYouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」で人々の悩みに向き合う彼が、今回の書籍ではテーマを恋愛、さらにその中でも「愚かな恋」に絞って説法を繰り広げるというのだから、興味深い。

私はと言えば、この書籍でいう「愚恋」を繰り返した結果で、人生紆余曲折。結果本を出し、人様の恋愛に茶々を入れるような仕事に就く現在がある。現実問題、私の読者層には未だ「メンヘラちゃん」が多く、「愚恋」に関する相談は絶えないわけで、愚恋に敷かれたレールの上で、いまだ愚恋と向き合っている私とこの本は、確かにテーマで言えば「ピッタリ」なのかもしれない。

実際に書籍をパラパラと開いてみると、どうやらこの本は「愚かな恋」に関する質問に、Q&A形式で答えていくような作りになっているようだ。目次をひらけば「出会い」から「失恋」、あるいは「性」の悩みまで、それはもう幅広い分野の悩みが書き連ねられている。

お坊さんは恋愛をどう説くのか?

目次を読んでいくうちに、確かにこれは「愚かな恋」に関する本だ、と、実感する。というのも、多岐にわたる質問内容からは、読むだけでもその「愚かさ」がジリジリと伝わってくるからだ。

「メッセージも食事もダルい!マッチングアプリで恋を探すことに疲れました」なんていう、私が回答すれば一行で終了しそうな、ある意味で「愚か」なお悩みから、「結婚できないまま子どもを持てない年齢になりました」という答えに詰まりそうな深い「愚かさ」を感じるお悩みまで、その愚恋の形はさまざまである。

そんな数々の愚かな恋の悩みに対して、現役のお坊さんとやらは一体どのように寄り添い、喝を入れるのだろう。

目次を読むと、ますます興味が湧いてきた。

だってお坊さんですよ。私達とは送ってきた人生も経験も、「深さ」が違いそうじゃないですか。なんとなく普通の恋愛本以上に、「答え」があるような気がするのは、私だけではないはず。私が「しょうもない!」と切り捨てるような質問にでも、きっと彼なら、彼にしか出せないような答えを提示してくれるのではないか。

愚かな悩み(とりわけ恋愛に関するもの)を抱える人間の心を軽くするには、とにかくいろんなパターンの答えを提示するしかない。数ある答えの中で、自分に出せなかったような納得できる答えを見つけた時、彼女達の中で絡まってこんがらがっていた糸が、嘘みたいにすっと解けて、生きやすくなることがあるのだ。

恋愛本は世の中に溢れるほど存在するが、お坊さんが恋愛に向き合って説法してくれるような本は、何冊あるだろうか。その要素を加味するだけでも、誰かの心を軽くするような「答え」が詰まっていそうではある。

結婚する気のない恋人との向き合い方を別視点で考えてみた

とまあ、ここまで書いた私は、「この書評をただの感想文で終わらせるのはもったいないな」という心境に行き着いた。どうせなら、この文章を読んだ人には少し得をしてほしい。

ということで、今回はただ読み進めて書評をするのではなく、大愚元勝さんが実際に回答した「愚かな恋」の悩みをひとつピックアップ。まずはその質問に私自身が回答したうえで、大愚元勝さんの回答と照らし合わせて感想を述べる、というプロセスをとってみたい。

同じ質問でも、人によって見解が違う。繰り返すが、「愚かな悩み(とりわけ恋愛に関するもの)」を抱える人間の心を軽くするには、とにかくいろんなパターンの答えを提示するしかないのである。

今回取り上げるのは、第3章「恋人・パートナーの悩み」から、「『今は結婚する気がない』と恋人に言われてしまいました」という悩みだ。この愚かな悩みについて、まずは私が回答しよう。

というのも、実は私は今、結婚相談所でも働いているのだ。この悩みを目にしてしまったら、黙っちゃあいられない。

さて、あなた自身に結婚願望があるにも関わらず、愛する恋人に「今は結婚する気がない」と言われてしまった。そんな時にあなたの心には、どんな台詞が浮かぶ?おそらく、「今って、いつならいいの?」とか、そんな台詞ではないだろうか。

これに関しては、結論から言ってしまおう。その台詞が出た時点で、彼が結婚する気になる「いつ」は、未来永劫やってこない。いきなりこんな辛口な言葉でぶん殴りたくはないのだが、どうか最後まで聞いてほしい。

「今は結婚する気がない」

この言葉の中で、彼ははっきりと「結婚する気がない」と述べている。悲しきかな、人は物事を信じたいように信じるから、言葉の中に置かれている「今は」という言葉にどうにか縋りついて、頭の中で「今は結婚する気がないけれど、時が来たら結婚したいな」と、都合の良い言葉をくっつけて解釈してしまうのだ。

だけど実際には、「今は」という言葉にポジティブな要素はない。むしろこの「今は」という言葉、恋愛においてやんわりとした拒絶をする時に頻繁に使われる枕詞のようなものである。

例えば、こんな台詞を言われたことはないだろうか?

「『今は』、彼女がほしくないんだよね」
「『今は』、君とは付き合えない」。

どのパターンも、結末は同じだったと思う。

残念ながら「今」がないなら、「今度」は来ないのだ。

「今は」結婚する気がない彼は、「あなたと」結婚する気がないだけ。

それを何重にもオブラートに包んで、親切にあなたに伝えてくれているわけだ。

この言葉が出た時点で、あなたがとれる選択は二択に限られている。

「結婚を諦めて彼をとる」か「彼を諦めて結婚をとる」か、である。

彼との結婚は、ない。まずはその事実を飲み込んだ上で、自分が幸せになるためにとるべき手段はどっちか、よーく考えてほしいと思う。

と、まあ、ここまでが私の回答だ。これで終わってしまうと、「書評をする」と言いつつ突然お悩み回答をしはじめた変な人になってしまうので、同じ質問に対する大愚元勝さんの回答を読んだ感想を置いておく。

…なんとまあ、非常に深い。優しくはありながら、核心をついている。

この手の話で「明日死ぬとしたら」の話が出てくるのが、大愚元勝さんらしい。私と概ね同意見でありながら、大愚元勝さんが違うのは、「さよなら」までのプロセスに寄り添っていることだ。私がすんなり答えを提示しているのと比べ、大愚元勝さんは最後の選択肢に向かうために、自分で決定するためのプロセスを伝え、寄り添っている。

おそらく、私の回答も、「合う人」に届けば同じ結果をもたらすと思う。我ながら「正しい回答」だなと思う。しかし一方で、大愚元勝さんの寄り添いは、私の回答を飲み込む準備のできていない人にも、響くのではないか、と感じた。彼の言葉にはそんな柔らかい心強さがあった。

ということで、今回取り上げた質問と同じ悩みを抱えていて、だけど私のアドバイスがまっすぐ飲み込めなかった…という人は、是非本書を手に取り、大愚元勝さんが書かれた答えを読んでみてほしいと思う。

今まさに「愚恋」に振り回されているあなたにとっては、彼の言葉がお守りになるかもしれない。

それにしても大愚元勝さん、やはり只者ではないな。

このままでは私の仕事が軒並み奪われてしまいそうなので、自分自身にお灸を据えようと思った。

文/yuzuka
エッセイスト、脚本家、ナレソメノート(naresome.net)編集長。元精神科の看護師で夜職の経験もあり。著書「埋まらないよ、そんな男じゃ。」(逆旅出版)他3冊。「五反田ほいっぷ学園」「愛の炎罪」等原作脚本。

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大愚元勝

佛心宗大叢山福厳寺住職。慈光マネジメント代表取締役。慈光グループ会長。佛心僧学院学長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。 駒澤大学、曹洞宗大本山總持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。 僧侶、事業家、作家・講演家、セラピスト、空手家と5つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。

YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答

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