アメリカの株式市場で投資をする際、業績や経済状況、金利動向などの「基本的な分析」に加えて、「アノマリー(anomaly)」と呼ばれる不思議な現象があることをご存じでしょうか?
「アノマリー」とは、市場参加者の間で「なぜかこの時期はこうなりやすい」と言われる経験則やクセのようなものです。学問的な根拠がはっきりしない場合も多いのですが、過去のデータを振り返ると、特定の時期やイベントの前後で株式市場に特有の動きが見られた、というパターンが存在します。
たとえば「年末には株が上がりやすい」や「5月以降は伸び悩みやすい」など、耳にしたことがあるかもしれません。これらは必ずしも100%当たるわけではありませんが、投資家たちが気にかけることで、市場心理に一定の影響を与えることがあります。
この記事では、1年を通してアメリカ株式市場でよく知られる主なアノマリーを、できるだけわかりやすく解説していきます。
年始のアノマリー:1月効果(January Effect)
「1月効果」とは、1月に入ると株価が上がりやすい、と言われる現象です。特に小さな会社の株(小型株)が1月に強いパフォーマンスを示すことが多いとされています。なぜそうなるのか、はっきりした理由はありませんが、年末に税金対策で売られた銘柄が年明けに買い戻されることや、新年を迎えて投資家が前向きな気分になりやすいことが背景と考えられています。
ポイント:昔ほどはっきりした傾向ではないとも言われますが、それでも毎年「1月効果」が話題になります。1月はマーケット参加者が「今年はどんな年になるかな?」と考えるスタート地点。年明けのニュースや企業動向に注目し、ポートフォリオ(持ち株の組み合わせ)を少しずつ見直してみるのも良いでしょう。
春先~初夏:大統領任期サイクルや決算シーズン
米国の大統領は4年ごとに選挙で選ばれます。この政治的なサイクルが株式市場のムードにも影響するという説があります。特に大統領任期の中盤(2~3年目)は、政策が動き出すことで経済にプラスの効果が出やすく、株式相場が比較的安定・上昇しやすいと言われることがあります。
また、春先から初夏にかけては企業が1~3月期の決算発表を行います。ここでの業績や経営者のコメントが、その後数ヶ月の市場ムードを左右する場合もあります。
ポイント:大統領サイクルはあくまで過去の「傾向」に過ぎず、政治情勢によって大きく変わることもあります。また、決算シーズンは株価が大きく動きやすい時期です。メディアで「今期は好決算が多い」という声が上がれば、市場全体が上向きになりやすい傾向があります。自分が投資している会社の決算時期をチェックして、必要に応じて売買を検討する投資家も多いのです。
5月から夏場:「Sell in May and Go Away」
「Sell in May and Go Away(5月に売って退場せよ)」という有名な格言があります。これは、「5月以降の夏の間は相場が冴えないことが多いので、この時期は株式を売ってしばらく休んだ方がいい」という考え方を表しています。その背景には、夏は欧米の投資家がバカンスに入るため取引量が少なくなったり、経済ニュースが少ないため相場が膠着(こうちゃく)したりしやすい、という説があります。
ポイント:必ずしも毎年そうなるわけではありませんが、夏場は相場があまり動かず、退屈な展開になりがちという声が多いです。大きく稼ぐのが難しい時期と言われることもありますが、逆に言えば長期投資家にとっては落ち着いて銘柄を見直すチャンスでもあります。短期トレードよりは、腰を据えて中長期的な目線で市場を見る時間に充てるのも一つの手です。
秋~年末:ハロウィン効果とサンタクロースラリー
ハロウィン効果(Halloween Effect):「ハロウィン効果」は、10月31日から翌年5月1日までの期間は株式市場のパフォーマンスが比較的良くなる、とされるアノマリーです。先ほど紹介した「5月に売って」の逆パターンとも言え、冬から春にかけては経済活動が活発になり、投資家の気持ちも前向きになりやすい、という見方があります。
サンタクロースラリー(Santa Claus Rally):年末から年始にかけて、株式市場が上昇しやすい現象を「サンタクロースラリー」と呼びます。ホリデーシーズンで消費が盛り上がったり、投資家やファンドが年内最後の買い増しをしたりすることで、相場が持ち上がりやすいと考えられます。
ポイント:年末は何かと気分が高揚する季節です。投資家心理も「来年はいい年になる」と考えがちで、実際に市場が上向くこともあります。ただし、サンタクロースラリーが期待外れになる年もありますから、あくまで傾向として頭に入れておく程度にしましょう。もしホリデー時期に株を買うなら、無理せず自分の資産配分を守ることが大切です。