鈴甲子は、独自技術により製造した新しい雛人形「いちぞうの雛人形」を発表し、2024年12月1日から販売を開始した。販売価格は148,500円~。
「技術継承」「一貫体制の構築」「怖くない」の3つを軸に新しい雛人形を開発!
鈴甲子は、明治時代から続く五月人形の伝統工芸の技術を継承している会社。今回、ロストテクノロジー化しつつある「雛人形」の伝統技術を継承するべく、若手の兄弟2人が立ち上がり、人体構造を基にした自然で親しみやすい新しい雛人形の独自開発に成功した。
■鈴甲子の概要
明治時代から甲冑・兜を製造する老舗工房。明治時代、初代「雄山」鈴木甲子八が陣道具を営んでいた。その後、五月人形の甲冑を手がけて100余年、代々「雄山」がその技術を継承。現在会社の代表は4代目の鈴木順一朗。鈴木雄一朗(31歳)と鈴木亮次(28歳)の若手兄弟2人を後継ぎとし、経営/製造の現代化を推進している。
■開発の背景
雛人形の製作はこれまで、日本の伝統工芸として行なわれてきたが、生産環境の変化に伴い失われつつある技術となってきている。主要な背景は「高齢化と後継者不足」。雛人形職人の平均年齢は60歳を超えているうえ、雛人形の製造は非常に精緻で、高度な技術を要します。頭(かしら)を彫る造形の技術、髪をつけ髪型を作る結髪の技術、衣装を縫う縫製の技術、さらには色彩の配分や顔の表情の細かな作り込みなど、多くの専門的な工程があり、それらを分業制で賄っている。仮に後を継ぐまで10年かかるとすると、現役の年齢も踏まえた時には後継者を育て始めるまでの時間が限られている現状がある。さらに、それぞれの専門分野を担う人材が不足している現状では、分業制が崩壊しつつあり、工程の水漏れ状態が起きている。また、技術を記録として残しているものではないため、一度失われると復活の難しいものになってしまう。
このような背景から、鈴甲子では、“技術や造形を動画や3Dデータとして記録”“雛人形の一貫生産体制の構築”“若手人材の育成”を雛人形の製作を通して行なうことで、ロストテクノロジー化に歯止めをかけたいと考えているという。
■新製品の概要
前述の社会的課題を踏まえつつ、近年節句人形を購入する世帯が減少している背景に、雛人形が「怖い」と感じるという声もあることから、これらの現状を改善するため、「技術継承」「一貫体制の構築」「怖くない」の3つを軸に、雛人形の開発を開始した。
まず、「怖さ」の正体は、人形への違和感、つまり人形を人間として捉えた際の「どこか人間らしくない装い」が原因だと考えた。そこで、鈴甲子の持つ人形造形の技術を駆使して、雛人形に適度な「人間らしさ」を加えることで、親しみやすく温かみのあるデザインの雛人形の製作を目指した。
・全体
雛人形の最も大きな違和感は骨格の構造に対するもの。同社では、雛人形の姿勢が、人間が座ったときの骨や筋肉の角度とは異なっていることが違和感を生んでいると考え、骨格の違和感をなくすため、服を着せる前のパーツの状態から分解して自然なポーズになるよう、開発を始めた。
・腕の長さ
伝統的な雛人形は、市場のニーズに合わせて小さくコンパクトな人形に進化していく過程で織物の生地の厚みに耐えつつ、豪華な演出ができる長さの腕を採用する必要があったため、人間の骨格と比べ、腕を長く製作するようになった。同社の雛人形では、人間の腕の長さを維持しつつ、肩関節と肘関節で腕が曲がる自然な装いになるように、独自技術を開発した。
・胴体
伝統的な雛人形の場合、木や藁を用いて胴体や太ももを表現するため、自然な装いで人形を座らせることが難しいことがわかった。例えば、雛人形は正座の姿勢をとっているが、正座をして背筋が伸びると、背中は反り、お尻が突き出るようになる。こうした細かな人体の構造を雛人形に反映すべく、独自に胴体の原型を開発。着物を着る前の準備の段階から人の形にこだわることで、より自然な装いを表現することに成功した。
・表情
伝統的な雛人形の場合、目が合うと目に奥行きがないことで、表情を感じ取ることができない。そこで、色のついたガラスを何層にも重ねた、深みのある目を採用することで、光の陰影で表情に深みとリアリティを与え、親しみや威厳、感情を豊かにすることに成功した。
■開発者のコメント
文化を継承しつつ人らしさを追求する。人形の本来の役割は鑑賞だけではなく「身代わり」という意義があります。その役割を全うするためにも既存の製法にとらわれない研究プロセスを行ないました。
実際に人が十二単を着ている姿を観察し研究を行うところから開始をし、
(1)雛人形としての様式を残す
(2)限りなく人が着た姿になる
(3)柔らかな印象、凛とした佇まい
といった条件で、3年の歳月をかけて研究・製作を進め、今年度の完成をもってお披露目とさせていただきます。
開発に際しては、伝統的な技法で製作する雛人形の職人の方々に多大なご協力をいただきました。そこでは、コンパクトにする過程で発生した課題とその解決方法や、衣装を綺麗に魅せるための衣装を着せつけるための工夫など、細かな技術の積み重ねがあることを、開発を通して学び、改めて伝統技術の素晴らしさを実感しました。
ロストテクノロジー化しつつある、雛人形の製造技術をこれからも引き継いでいき、今後もこの日本独自の素晴らしい文化を失わないよう、尽力して参ります。
構成/立原尚子