シリーズ累計1000万部を突破した清水茜原作の超ベストセラーコミック『はらたく細胞』。同作では、体内で起こるさまざまな出来事(感染症、けが、アレルギー反応など)をテーマに、酸素を運ぶ赤血球や病原体と戦う白血球といった「細胞」たちによる奮闘を描く異色の作品がついに実写映画化、2024年12月13日(金)より公開される。
今作でメガホンを取ったのは『のだめカンタービレ』シリーズ、『テルマエ・ロマエ』シリーズ、『翔んで埼玉』シリーズなどを手掛けた武内英樹監督。
多くの作品で独自の世界を描いてきた武内監督は、どんな「体内の世界」を描くのか。屈指のヒットメーカーに「アイデアを生み出す秘訣」を聞いた。イマジネーションの源泉はどこにあるのか話を聞いた。
細胞の「外側」も描くという挑戦
――まずは映画『はたらく細胞』の見どころを教えてください。
コミックを読ませていただいて感じたのは、『何だ、この世界は!めちゃくちゃおもしろい発想だ』ということ。一度でその魅力にハマってしまいましたね。僕自身もはちゃめちゃな設定の映画ばかり作っているのですが、この作品の最大の魅力は、主役が人間ではないところ。ワクワクが止まらなかったですね。
ただ、コミック化だけでなく、アニメ化もされている人気作品ですから、実写映画化するにあたり、どう差別化するかのアイデアを絞り出しました。
そこで思いついたのが、細胞の「外側」、つまり細胞の持ち主である「人」も描くオリジナルストーリー。ただ、体の中の細胞も、外側の人も、同じ人間が演じます。観客が混乱しないようにするためにはどうしたらいいか。さらに工夫が必要でした。
赤血球役を永野芽郁さん、白血球(好中球)役を佐藤健さんが演じる。白血球(好中球)をはじめ、細胞たちのアクションも見どころ。
――具体的にどんな工夫を盛り込んだのでしょうか。
ひとりの人間における体内の細胞は37兆個といわれています。酸素を運ぶ赤血球、細菌と戦う白血球、そのほかにも多くの細胞が働いています。
だったら、彼らが働く体内、つまり細胞がいる世界は、思いきりファンタジー溢れる描き方で表現しようと考えました。また、体内のシーンを撮影する際は、総勢約7500名、一番多い時で約600名の細胞役のエキストラがいて、広い世界を自由に動き回っている状態を表現しています。
これに対し、人間がいる世界は、ひとつひとつの場面を現実的で限られた狭い空間で撮影するように工夫しています。
「外側」の主要キャラクターは、母を亡くして父とふたりで暮らす女子高生・漆崎日胡(うるしざきにこ)役に芦田愛菜さん、日胡のお父さん・漆崎茂役に阿部サダヲさん、日胡があこがれる武田先輩役に加藤清史郎さんを起用しています。
以前、テレビドラマ『マルモのおきて』(フジテレビ系)で親子役を演じた芦田愛菜さんと阿部サダヲさんをキャスティングしたのも、人の世界をよりリアルに感じてもらい、観ている方の共感を得やすいのではという狙いがありました。
――監督の作品はいつもユニークですが、アイデアはどのように生まれてくるのでしょうか。
例えばこの作品の場合、作ると決まった時からずっと、体の中にある細胞について考えていましたね。
さらに、細胞は自分の体の中にもあるものですから、急に細胞を意識するようにもなりました。指を切ったら、「あ、今、血小板ちゃんたちが傷に蓋をしてくれている」とか、お風呂に入っていると、「白血球が活性化してきてる」とか。
傷に蓋をする血小板役の子役は、何度もオーディションを行って選んだのだそう。
加えて、取材も徹底的に行います。『のだめカンタービレ』の時は音大に取材に行ったのですが、本当に作品のキャラクターみたいな人がいるんですよ。たくさんの音大生と話をしていくと、彼らの生活環境や背景が見えてきます。お金持ちの家庭で自由に育ってきたからこんな考え方をするのだとか、苦労して学んでいて自分で学費を稼いでいるからこんな生活をしているのだとか。
ただ、今回は細胞の話なので。細胞に話は聞けませんから、お医者さんに何度も取材をさせていただきました。各細胞の役割や、こういう病気の時はどの細胞がどうなるとか。今回だけでは全てを描ききれなかったほど、たくさんのお話が伺えました。
いよいよアイデアをまとめる期限が近づいてくると、さまざまなことに思いを巡らせながら、黒霧島(霧島酒造の芋焼酎)を飲むんです。すると、夜中の3 時くらいにアイデアが降りてくるんですよ、スポンと。「このアイデア、なかなかおもしろいな」と思いながら、真夜中にひとりでニヤニヤすることもありますね。毎回高い山に登るような気分なのですが、運良く毎回降りてきてくれています。
あとは、全てを思い通りに作っていくとエキストラやCGを多用しなくてはいけませんし、アクションだって、お金がかかることばかり。予算を考えることも重要ですね。
今回、細胞の外側である「人」の場面を取り入れたことは、この点でも生かされています。「人」を描く場面は、それほどお金がかからなかったし、共感してもらいやすいという効果もあったのではないかと思います。予算のことも考えながら、どうおもしろい作品に仕上げるか。全体のバランスを考えることも大事です。
――アイデアを形にして仕事を進める上で、普段から特に心がけていることはありますか?
できるだけ「多くの人の脳みそを使うこと」です。そのために、スタッフそれぞれがモノを言える環境を整えています。だから、絶対にモラハラやパワハラはしない。自分が若いころに嫌な思いをしてきた経験があるので、常に心がけていますね。そうは言っても毎日100人くらいのスタッフが現場にいると、発した一言をモラハラだと感じる人もいるかもしれない。だから、そうならないように誰に対しても等しく接するようにしています。
ここ数年はコロナ禍で食事にいく機会がなくなっていましたが、最近はまた、飲みにいく機会も増えましたね。助監督とか、スタッフとか、キャストの方とか。コミュニケーションには撮影よりも長い時間をかけているかもしれません。
――そうしたコミュニケーションの心がけが、何か実を結んだエピソードはありますか?
実は、ちょうどこの作品の撮影前に『翔んで埼玉』に出演してくださった片岡愛之助さんと食事をしました。そうしたら、愛之助さんもこの作品に出たいと申し出てくださったんです。それが肺炎球菌役です。「悪役だし、誰が演じているのか、わからないほどにメイクをするよ」と言ったのですが、快諾してくださいました。
ほかにもたくさんの方との関係がありますが、これが私の宝のひとつです。
最近の若い方は上司や先輩との飲み会を嫌がる傾向にあると聞きますが、だからといって「全く誘わない」のは少し極端かもしれませんね。誘っていい人と、誘うと嫌な人がいると思うんです。だから、個々を見る必要がありそうですよね。先ほどスタッフには等しく接すると話しましたが、とはいえ十把一絡げに相手を見ると判断を誤ります。
――十把一絡げに相手を見ないというのも、「多くの人の脳みそを使うこと」に繋がる接し方かもしれませんね。最後に、監督にとって映画作りとはどんなものですか?
今回の作品は多くのエキストラが出演してくださっています。彼らにも自分で拡声器を使って「はい、これから細胞の気持ちになって動いてください」など指示を出すのですが、「監督、細胞の気持ちってどんな気持ちですか?」という声がして笑いが起こったり。とにかく、これまでの作品の比ではないくらい多くの人が出演されていて、その人たちを動かすのはとても苦労しましたが、楽しくもありました。
日胡の父・茂の体の中にいる赤血球が、ほかの細胞とともに戦う場面。たくさんのエキストラはストーリーの中でそれぞれイキイキと描かれている。
私にとって、「映画を作る」ということはある意味、文化祭をみんなで作っているようなものなのかもしれません。
お化け屋敷があったり、焼きそば屋があったり、かき氷屋があったり、いろいろなものが集まって文化祭になる。映画もそういう要素が多い。衣装さんがエキストラの衣装を600人分準備しなくてはいけないとか、美術さんがひとつの街を作り上げるとか、照明さんがさまざまな色を組み合わせて雰囲気を作るとか。企画を決めて、みんなで一生懸命練習して、それを修正していく。それぞれの才能を発揮して、ひとつの楽しいお祭りを作っていくようなものだと思っています。
映画『はたらく細胞』12月13日(金)全国ロードショー
(C)清水茜/講談社 (C)原田重光・初嘉屋一生・清水茜/講談社 (C)2024 映画「はたらく細胞」製作委員会
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高校生・漆崎日胡(芦田愛菜)は、父親の茂(阿部サダヲ)とふたり暮らし。まじめな性格で健康的な生活習慣の日胡の体内の細胞たちは、いつも楽しく働いている。一方、不規則不摂生に日々を過ごす茂の体内では、ブラックな労働環境に疲れ果てた細胞たちがいつも文句を言っていて、親子でも体の中はえらい違いだった。仲良し親子のにぎやかな日常の中、その体内への侵入を狙う病原体たちが動き始め……。漆崎親子の未来をかけた、細胞たちの「体内史上最大の戦い」が幕を開ける!?
永野芽郁=赤血球・佐藤健=白血球(好中球)のW主演に加え、山本耕史、仲里依紗、松本若菜、染谷将太、板垣李光人、加藤諒、加藤清史郎、マイカピュ、深田恭子、片岡愛之助、新納慎也、小沢真珠、Fukase(SEKAI NO OWARI)ら豪華キャストで贈る笑って泣けてタメになる新感覚エンターテイメント!
文/内山郁恵 撮影/小倉雄一郎