
みなさん、電気代を毎月いくら払っていますか?
一時の強烈な円安は多少、なりを潜めていますが、とはいえ1ドル150円前後の為替レートや原油価格の高止まりなど、火力発電へのコスト圧力は続いていて、この冬の電気代も高くなりそうです……。当然、家計への負担を不安視する声は、まだまだ続きそう。
それから、「2030年目標」も、そろそろ他人事では済ませそうもありません。
2050年のカーボンニュートラル実現にあたり、2030年には温室効果ガスを2013年に比べて46%削減することが、日本の目標となっている件です。
電気代の高騰、温室効果ガス排出の削減が必須の昨今、パナソニックが本気のアイテムをリリースすることになります。
それは2025年3月24日に発売予定の新しいHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の、「AiSEG3」です。
太陽光発電って大切だけどコントロールが難しい
発売は来年の予定と、少々先の事となりますが、「AiSEG3」に期待するパナソニックの本気を知るために、2025年12月3日に行われた「AiSEG3 エネルギートレンドセミナー」で話を聞いてきました。
エネルギートレンドについて考える同日のセミナーには、芝浦工業大学 建築学部長・教授の秋元孝之さんとパナソニックで「AiSEG3」の開発に携わった野村仁志さんが参加。社会起業家の石山アンジュさんのナビゲーションの元、話し合いが行われました。
セミナー冒頭では、カーボンニュートラル実現への課題が話し合われました。
先ほどご紹介した通り、日本は2030年に温室効果ガスを46%、6億4800万トン削減が必要です。中でも家庭におけるCO2排出量が国内全体の16%を占めており、その削減は大きな社会課題です。
しかし、社会起業家の石山アンジュさんは「エアコンの使用を控えるなど、個人で実践できることは限られます。快適な暮らしを送りながら、節電・節約を実践するにはどのようにしたらいいでしょうか?」と質問しました。
2030年目標に向けて、家庭での温温室効果ガス削減の促進が期待する住宅として、年間で消費する住宅のエネルギー量が正味でおおむねゼロ以下となる「ZEH(ゼロ エネルギー ハウス)」の存在があります。
現在、政府・民間を挙げてZEHの普及に尽力しているところですが、前段として、日本では2030年に新築住宅の約6割に太陽光発電設備を搭載する方針であり、秋元教授は「太陽光発電の電気をうまく活用することが大事です」と言います。
しかし、秋本教授は「電力の発生から消費に至るまでの一貫したシステムである電力系統=グリッドは、電気が余っているか不足しているか、常に電気のバランスを取らなければなりません。太陽光発電は日射があるかどうかで発電量が大きく違い、その電力コントロールは非常に難しいです」と指摘。
「そして、個人で自宅の電気の使い方を場面ごとに判断するのは難しいこと。これらを自動的にフォローしていく住宅が今後求められています。エネルギーを地産地消し、自動で活用できる〝高い性能を持った住宅〟が必要です」と提起しました。
「知能を手に入れた家」って何?
みなさんもご存じかと思いますが、少し前に自宅の太陽光発電などで起こした電気を電力会社に販売する、いわゆる「売電」が人気となりました。
しかし、売電価格は年を重ねるごとに右肩下がりで落下し、現在の価格は低い水準で推移しています。
そして、パナソニックの野村さんは、「売電単価が下がっている今、家庭で発電した電気は、できる限り家で使い切るのがお得な時代です。ご家庭で電気料金を下げつつ、CO2を削減する目標を実現するために、HEMSの役割は重要です」と話します。
パナソニック株式会社エレクトリックワークス社 エネルギー・IoTソリューションセンタービジネス推進室・室長 野村仁志さん
2025年3月24日に発売される「AiSEG3」は次世代のHEMSであり、〝家が知能を持つ〟ための重要な担い手となる製品です。
次章では、「AiSEG3」の性能の秘密に迫ってみます。
24万件のデータを元にアルゴリズムを作成。AIを活用して賢く省エネ
ここで簡単に「AiSEG3」の語源をご説明します。
Aiはみなさんご察しの通り、AI(Artificial Intelligence=人工知能)を指します。そして、SEGはSmart Energy Gatewayの略で、エネルギー管理システムを意味します。
つまり、AiSEGはAIを活用し、IoTとエネルギーソリューションの融合を図るシステムなのです。
「『AiSEG』は2011年の東日本大震災に対応しようと製品化しました。続いて2016年12月に、進化した『AiSEG2』をリリース。そして、2025年には『AiSEG3』が登場します。パナソニックはこの『AiSEG3』を通して、高齢化や人口減少の世の中で、『安心して暮らしていける』将来のために貢献したいと思っています」と野村さんは説明してくれました。
「AiSEG3」は家庭内電力需要と翌日の発電量の予想などにAIを活用、太陽光発電を効率良く利用する「AIソーラーチャージPlus」機能を強化することで、家庭内の電気の再エネ活用率を従来の「AiSEG2」が68%だったのに対して、なんと76%まで効率化することに成功しています。
そのため「『AiSEG』からクラウドに上げられた24万件のデータを、当社は保有しています。そちらを元にしてアルゴリズムを組み、制御に役立てています」(野村さん)と言います。
V2H連携を強化。設定可能なシーン数も8から48に拡大して大幅進化
「AiSEG3」は災害に強いシステムでもあります。普及が著しい電気自動車のバッテリーを、家庭用のバッテリーとしても機能させるV2H(Vehicle to Home)を強化し、太陽光発電の余剰電力をクルマに充電したり、余剰電力が少ない場合は電気自動車のバッテリーの電力を家庭用に活用したりといった制御を、従来機以上に細かく行います。
「日本は災害対策が不可欠です。そこでEV車をバッテリーとして上手に利用したいと考えています。今回の『AiSEG3』はV2Hのアルゴリズムにこだわっていて、電気自動車のバッテリーに70%の充電量は残しておきたいとすると、余剰分(30%)だけを家庭向けに使用するようコントロールするといった制御も実装しました」(野村さん)
そして、「AiSEG」は同機に繋がる様々な機器をコントロールできますが、従来の「AiSEG2」がまとめて一括コントロールするシーンが8だったのに対し、「AiSEG3」では48シーンと大幅拡大。例えば、生活シーンを季節の気温の変化に合わせてより細かく設定するなど、ライフスタイルに合わせて〝選べる制御〟が増えました。
また、今回はデザインにもこだわり、インテリアに溶け込むシンプルなデザイン「Archi Design」をパネル部に採用。タッチ操作も可能な静電式パネルにより、使い勝手を大きく進化させています。
2030年に向けて…未来の暮らしのサポートを「AiSEG」で実現したいこと
ここまで、2030年目標への課題と、「AiSEG3」の可能性についてご紹介してきました。
みなさんは、HEMSと言われて、どのようなものを想像しますか? もちろん、すでにご家庭で導入している方なら詳しくご存じでしょうが、わかりやすい例として、クルマの自動運転があります。
「HEMSをわかりやすくご説明すると、クルマの自動運転に近いかもしれません。自動運転はそのレベルが上がっていくと、簡単な運転支援から、クルマが完全自律して動く世界に進化していきます。ビッグデータの解析などにAIを活用した賢いコントロールにより、例えば渋滞を解消したり、事故を減らすことなどの効果が期待されています。私たちが考えるHEMSの将来は『機械が自律でエネルギーをコントロールしてくれる』システムです。そんな未来を開く扉が『AiSEG3」なのです」(野村さん)
パナソニックが考える、2030年目標への回答の1つは、電気を自律制御するインテリジェントなHEMSでした。
秋本教授も「今後、私たちは高い性能を持った家で暮らすようになっていくはずです、しかし、人だけで電気を制御するのはなかなか大変です。それをサポートしてくれるように、『AiSEG3』が活用され、2030年カーボンニュートラル社会の実現につながればいいなと思います」と発言してくれました。
そして、「AiSEG3」を開発したパナソニックの野村さんは「家一軒から国全体の省エネに貢献したい」と言います。
パナソニックが2030年目標のためCO2削減に本気である……その矜持を「AiSEG3」から、みなさんも感じられたのではないでしょうか?
取材・文/中馬幹弘