2016年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ候補(当時)が勝利すると、これを契機に世界の株式市場で株高傾向となり、「トランプ・ラリー」と呼ばれる現象を引き起こした。
原因としては減税や財政出動など、トランプ新政権による経済政策への期待から米国の長期金利が上昇。ドル高が進行しての世界的な株高を招いたと言われているが、今回も同様の動きを見せているのか。
三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から関連リポートが届いているので概要をお伝えする。
米国株はしっかり上昇、主要3指数ではナスダック総合が最も好調で、11業種別でも幅広く上昇
米大統領選挙の投開票が行なわれた11月5日から約1か月が経過した。今回のレポートでは、トランプ氏勝利という米大統領選の結果を受け、主要市場はこの期間、どのように動いたかを検証する。
対象期間は大統領選の前日である11月4日から12月3日までとし、この期間の騰落率などを計算した。なお、前回トランプ氏が勝利した2016年の大統領選挙後と比較するため、2016年11月7日から12月6日までの期間も計算に含んでいる。
まず、米国株について、今回は前回2016年当時よりも主要3指数は大きく上昇しており、前回はダウ工業株30種平均、今回はナスダック総合株価指数の上昇率が、3指数のなかで最大となっている(図表)。
また、S&P500種株価指数の11業種では、一般消費財、金融、通信サービスの上昇率が大きく、前回よりも幅広い業種で上昇の動きが確認されるが、金融の上昇率は前回ほど大きくはない。
■日経平均、TOPIXも上昇、業種別では金融が好調、ドル円は日米金利差縮小でドル安・円高
次に、日本株について、前回は大型減税への期待から世界的に株価が上昇する「トランプ・ラリー」と呼ばれる現象が発生し、日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)は大きく上昇した。
今回も両指数は上昇していますが、上昇率は前回よりもやや控えめ。なお、前回、今回ともにTOPIXの上昇率が日経平均を上回っている。また、業種別では金融が引き続き好調だが、上昇率は前回を下回っている。
為替市場に目を向けると、米ドルは前回と同様、主要33通貨のうち30通貨に対し上昇しており、米ドルがほぼ全面高となっている様子が見えてくる。
ドル円については、前回、米国が利上げ局面を迎える一方、日本では異次元緩和が続いていたこともあり、日米長期金利差が拡大、ドル円はドル高・円安が進行した。今回は、米国が利下げ局面、日本は緩和修正局面にあり、日米金利差が縮小、ドル安・円高が進んでいる。
■主要債券指数も上昇、前回のトランプ・ラリーのような現象はなく、市場は全体に落ち着いた状況
商品市場では、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は前回2ケタの上昇率だったが、今回は下落に転じているい。
このほか、先進国株価指数は上昇、新興国株価指数は下落と、前回と同じ傾向が確認されたが、前回下落した世界国債指数、世界投資適格社債指数、世界ハイイールド債券指数、新興国ソブリン債券指数の4指数は、今回そろって上昇している。
このように、米大統領選挙後1か月ほどの各市場の動きを検証すると、前回2016年当時と異なるところも多く確認され、少なくともトランプ・ラリーのような現象が市場全体に広がっているようには思われない。
まだ1か月程度なので、早計な判断は禁物ではあるが、市場は次期トランプ政権の政策に対する期待と不安が交錯するなか、今のところ比較的落ち着いた状況にあると考えられる。
構成/清水眞希