2024年11月30日、日本経済新聞は電子版にて植田和男・日銀総裁へのインタビュー記事を配信した。それによれば、追加利上げの時期について「近づいているといえる」と発言。とはいえ、しばらく米国情勢を見極める姿勢も示しており、今後の動向が注目される。
ということで、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏から、このインタビューに関する分析リポートが到着しているので概要をお伝えする。
植田総裁は追加利上げのタイミングが近づいているとした上で時期は慎重に判断する姿勢を示す
日本経済新聞社は11月30日、植田和男日銀総裁のインタビューでの発言を電子版で報じた(インタビューは11月28日に実施)。
この中で植田総裁は、12月や2025年1月の追加利上げの可能性について、経済・物価が見通し通りに推移し、「見通し期間(2024年度~2026年度)の後半に基調的な物価上昇率が2%に向けて着実に上がっていく」確度が高まれば、「適宜のタイミングで金融緩和度合いを調整する」と述べている。
植田総裁は追加利上げの時期について、「データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいている」と発言した一方、トランプ次期大統領の政策を含め、米国経済の先行きを見極めたいとし、慎重な姿勢も示した。
また、2025年の春季労使交渉(春闘)が「どういうモメンタム(勢い)になるか。それはみたい」と述べ、その確認を「待たないと金融政策が判断できないわけではない」とも話した。
■2025年1月の利上げを予想、ただしばらく米国情勢を見極めて、今月への前倒し可否を判断
経済・物価が見通しに沿って推移すれば、金融緩和度合いを調整するという植田総裁の発言は、従来どおりの見解を繰り返すものだった。
ただ、植田総裁は今回、経済データが日銀の想定どおりに推移しているという意味では、追加利上げのタイミングが近づいていると明言しており、具体的な利上げ時期の言及はなかったものの、市場で高まっている追加利上げ観測を追認したと考えられる。
なお、植田総裁は米国経済の先行きを見極めたいとも述べており、拙速な利上げは避けたい意向と思われる。三井住友DSアセットマネジメントは追加利上げの時期を2025年1月と予想しているが、米国の情勢を今しばらく見極め、12月に前倒しするかを判断する方針だ。
また、植田総裁の春闘や賃金に関する発言を踏まえると、2025年3月中旬の春闘集中回答日あたりまで利上げ判断が先送りされる可能性は低いとみている。
■12月の日米政策変更の織り込みは6割強、会合では来年以降の政策運営の手掛かりが重要に
ドル円は11月14日の1ドル=156円27銭水準から、ドル安・円高が進み、11月29日時点で149円77銭水準に達した(ニューヨーク市場取引終了時点)。
8月以降、ドル円はおおむね日米長期金利差に沿って推移している(図表1)、先週のドル安・円高の加速は、28日の米感謝祭前後で薄商いのなか、27日にドル円が200日移動平均線を下抜け、週末にかけ植田総裁発言など日銀の12月利上げ観測が強まったことが主因と思われる。
週明け12月2日時点で、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む12月の日銀の利上げ確率は6割強(図表2)で、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ確率も6割強となっている。
今後の織り込み次第で、ドル円は神経質な動きが予想されるが、12月の日米政策決定会合では、来年以降の政策運営にかかわる手掛かりが、ドル円を見通す上での重要な材料になると考えている。
構成/清水眞希