地震や噴火、河川の氾濫や津波など、自然災害の多い日本で暮らす私たちは、不安を敏感に感じる不安遺伝子を他の民族より多く受け継いでいると言われている(注1)。さらに農耕民族は集団生活が不可欠で、空気を読んで周りに合わせる能力が生きるために必要だった。聖徳太子の17条憲法の第一条も「和を以て貴しと成す」である。
その結果、日本人は集団から外れるとストレスや不安を感じやすく、自殺率も高くなってしまう。低迷する経済活動も、将来の不安をかき立てる。
そんな暮らしにくい日本から脱出して、メキシコに渡った日本人女性がいた。ルス・グアダルーペさんは大学を卒業して2年間、国内で働いたが、24歳の時、海外で働く人生を選び、メキシコで保育士の仕事をスタートさせた。
実際に働き、生活する中で知った、いつも明るく、自分らしく生きるためのヒントや、ラテンのポジティブな感覚について、ルスさんに聞いてみた。
自分が適合できる環境を探そう
――はじめまして!ルス・グアダルーペさん。ルスさんはVlogerとしてメキシコに関する情報を発信し、YouTube登録数は12万人で、「なんかじわる」と大人気です。このほど自らの体験をまとめた新刊書「ラテンのフィルターを通した世界はいつでもポジティブ~社会不適合者の人生サバイブ術」(KADOKAWA発刊、定価1760円)を発刊されました。特にそこで書かれていた、日本で自ら社会不適合を感じられた事例は、とても共感できる内容でした!
ルスさん 新刊書では私の社会不適合エピソードをたくさん紹介しました。でも、その「社会」と言っても様々で、「日本」不適合なのかもしれないし、「会社」不適合かもしれません。それは、裏を返せば、適合できる社会もある、ということなのです。
「ここに適合しなきゃ」と自分を追い込むのではなく、「自分が適合できる環境を探す」。これも一つの生きる道だと思います。
とりわけ声を大にして言いたいのは、環境を変えることは逃げではない、ということです。むしろ前進している。そう思えるのも、私がメキシコでポジティブなラテン志向に触れたからです。
日々感じる悩みや焦りも、ラテン志向で考えるとたいしたことがなかったりするんですよね。日本の常識から外れた「えっ」と思うようなことでも、よくよく考えると、「一理あるかも」と思わせられることもあります。新刊書ではこうした異文化に触れる面白さも、感じて頂けたら嬉しいです。
また、この本を読んだ皆さんが、「人生だいたい何とかなる」と感じられて、少しでも生きやすくなれば良いなとも思います。
今回本を書くにあたって、色々な人に読んでほしいという思いがありました。そのため、普段あまり本を読まない方でも読みやすいように一つ一つの章をコンパクトにしたり写真を挿入したりと工夫しました。
また、YouTuberが本を出すと主にそのファンの方向けなのかな?と身構えてしまいがちですが、私のことを知らない方々にも読んでいただきたかったので、私の人生や考え方だけでなく「メキシコ人の生き方」や「日本とメキシコの文化の違い」などにも焦点を当てた内容にしました。
海外に興味のある方はもちろん、「新しい視点を手に入れたい」「マンネリした日々を打開したい」という方にもおすすめしたい本です。
探せば意外と見つかる海外での求人先
――ルスさんは日本では空気を読んだり、同調圧力の強い職場から離れるために海外移住を選択されました。海外以外にも、例えば東京から札幌に移転するとか、保育士から他の職業に転職することも可能だったと思います。なぜ海外で働く道を選択したのか、少し詳しく教えてください。
ルスさん 日本では大学を卒業後、保育士として2年間、乳児院に勤務していました。保育士以外の仕事でもありかなと、いろんな選択肢を考えました。
結局人間関係の悩みってどこで働いてもあるだろうし、仕事が辛くてもプライベートが充実してれば頑張れると思うんです。でも、保育士として働いていて感じたのは、その「プライベート」さえも満喫出来ないということ。私は海外旅行が好きなので、長期休みがなかなか取れないのが大きな不満でした。海外の人みたいに1ヶ月のバカンスが取れる仕事があればいいのにな……と考えた時、突然ひらめいたのが海外移住でした。
でも、海外で日本人が働ける求人ってそんなにあるのかな?と、海外移住を思いついた熱意のまま検索すると、意外といろんな求人があったのです。
私は教育関係の仕事に関する求人を探したのですが、幼稚園や小学校のほか、日本語学校講師など、様々な求人がありました。ただ、「〇年以上の勤務経験が必須」などの条件も多かったのです。採用されたメキシコの幼稚園の先生の求人ですが、私自身は乳児院に勤務していて、幼稚園の先生はできないと思っていました。でも、海外移住が第一目標だったし、資格も活かせるため、応募し、採用されました。
日本と異なる海外での就職活動
――海外での就職活動に関してアドバイスをお願いします。
ルスさん とにかく気になった求人があれば応募してみること。私も経験が少なかったのでダメもとで応募しましたし、まさか採用されるとは思っていませんでした。一般的な日本の企業のように学歴や年数などで判断するのではなく、実力ややる気で判断してもらえる企業も多いと思います。
私が応募した際は「教育観」についての作文を求められました。当時、乳児院での経験のおかげで私は自分なりの教育観をしっかり持っていました。それをそのまま書いたところ共感していただけたようで、採用に繋がりました。選考プロセスでは、肩書よりももっと深い部分を見られる場面が多いかもしれません。
また、同僚の先生はメキシコ以外にも他の国で働いたことがあるなど、ユニークな経験のある方が多かったです。海外生活をしてみたものの、合わずにすぐ帰国というパターンも多いようなので、海外移住経験がある=耐性があると判断され、プラスに働くのかもしれません。
どうしてもこの国のこの会社がいい!というこだわりがそこまで無いのなら、とりあえず受かりそうな所に就職して海外経験を積むというのもいいと思います。
――海外で仕事をする場合、一番のネックになるのは言語の習得です。実際、ルスさんは近隣のグアテマラの語学学校でスペイン語を学びました。就職のための語学習得について教えてください。
ルスさん 私はとにかく現地で学ぶことをおすすめします。日本でガチガチに準備していなくても海外で生活しながら学んでいけるし、インプットよりもアウトプットが大事だと思うので、「習った単語や言い回しをすぐに実践できる」環境に身を置くのが良いと思います。
また、「ちゃんと注文できた!」という達成感や「通じないもどかしさ」が大きなモチベーションになります。やる気の面から考えても、とりあえず現地へ行ったら良いと思います。
私自身、英語を学びたいなと思いつつなかなかやる気が出ずにいるので、もう1~2週間でもいいから、とりあえずどこか英語圏の国へ留学に行こうかなと最近考えています。スタートダッシュで自分に火をつけて、日本での勉強のやる気を継続させる作戦です。
ラテンの生き方や価値観は人を幸せにする
――それはモチベーションが上がりそうですね!ルスさんの本を読むと、新しい視点に気づかされることがとても多いです。特にラテンの考え方はとても参考になりました。「メキシコには反省する文化がない」とか、負の出来事に出会っても深く考えない。「嫌な気持ちになるので、別のことをする」とか、「考えて意味がないことは考えない」など、心の在り方について教えてもらいました。
ルスさん 嫌なことに引っ張られずに、「やった!」と切り替えるメキシコ人の価値観を身に付けると、幸せに生きられると思います。
メキシコは日本と違って交通事故や事件などで、ある日突然、命を落とす人が多く、いつ死ぬのかわからないという考え方が現実的です。命の重みに対する感覚が日本とは異なるので、あるかわからない未来よりも、生きている今を大切にしようと考えます。
だから貯金もしないし、過去をあまり振り返らない。今を大切に生きて、「今日が最後かもしれない」と思っているからこそ、恥ずかしがらずに、相手に愛情をダイレクトに伝えるのです。過度な愛情表現の理由を聞くと、「だって、いつ死ぬかわからないから」と言われます。
とにかく明るいラテン気質の背景を知ると、「人生だいたい何とかなる」という気分にさせてくれます。私もメキシコで突然、解雇宣言を受けても、「辞めて良かったと思えるようにしよう」と切り替えることができました。そして、日本でも海外でも組織で働くより、個人で働く方が合っていることに気づいたのです。そして、こうしたメキシコでの体験を活かして、日本で仕事をしようと考えるようになりました。
フットワークの軽さを失わずに生きる
――最後に現在の活動状況と将来の展望などについてご紹介ください。
ルスさん 日本に引っ越しました。理由は一つではなくて、本当にたくさんあるのでYoutubeで説明します!(笑)
どの都道府県に住むかも未定のまま帰ってきましたが、いろいろ下見をした結果、地元の福岡に住むことを最近決めました。メキシコでは首都のメキシコシティに住んでいて、すごく住みやすかったので東京も候補にあったのですが実際に滞在してみると何だか忙しなくて…。
メキシコシティで好きだった「都会の便利さ」と「のんびりした雰囲気」が両立している場所を求めて、生まれ育った福岡に落ち着きました。来年からはメキシコでしていた金継ぎアクセサリーの販売も日本で再開予定です。
ただ、せっかく日本に拠点を移したので「日本でしか出来ないこと」をベースに今までとは違ったやり方でできることはないか模索しています。最近疎かになっていたスペイン語でのSNS活動も再開して、日本の文化や生活を伝えていきたいと思っています。Youtube活動も続けていきたいと思っていますが、具体的なことは何も決めていません。視聴者の方の反応を見ながら一緒に方針を考えていけたらなと思います。
将来のことについては、日本にずっと住むのかなどは決めていません。決まっていないことばかりですが(笑)そんな状況もワクワクしながら楽しんでいます。こうしたい!とひらめいた時にすぐ実行できるように、身軽では居たいな、と思います。歳をとるにつれて、落ち着きや安定を求めていくのは自分でも感じていますが、フットワークの軽さは失いたくないなと思っています。
――ありがとうございました!
ルス・グアダルーペさん
福岡県出身、メキシコ在住の29歳。保育士のキャリアを経て、日本の社会に適合できず24歳でメキシコへ移住。メキシコの日常を配信。
YouTube:@luzguadalupe
X:@luzguadalupeee
Instagram:@hikari__luz
文/柿川鮎子