ゴミ袋が有料となり、G7で「海洋プラスチック憲章」が採択されるなど、脱プラスチック対策は身近な喫緊の課題になっている。地球温暖化対策はもちろんだが、特に海洋国家日本では、海洋プラスチック問題に無関心でいることはできない。環境省の調査では「2050年の海は魚よりもゴミの量が多くなる」とも言われており、私達の生活にも大きな影響を与えそうだ。
黒船現わる?外資系メーカーの参入
プラスチックごみ問題の解決には様々な方法があるが、私達ができることは1)使用を削減する、2)使ったらリサイクルや正しく焼却処分するなど使用後に配慮する、3)生分解性プラスチックへなどへの切り替え、が最も現実的な解決策である。
1)では企業での取り組みも積極的に行われてきた。積水ハウスでは会議中のペットボトルの使用を廃止して、前年比7割の削減を実現させた。また、自治体は2)のリサイクルに力を入れ、歯ブラシだけを分別回収するボックスを設置するなど、プラスチックごみを細かく回収し、リサイクルしている。
プラスチックからの代替が可能なものは良いが、食品や自動車、医療分野など切り替えが難しい分野もある。そこで期待されるソリューションの一つが、3)生分解性プラスチックへの切り替えである。特に植物由来の生分解プラスチックは、石油を原料としないため、化石資源の使用削減も可能になる。
しかし、生分解性プラスチックは生分解に時間がかかるため、簡単にポイ捨てできるものではないことを強調しておく必要がある。したがって、効果的な廃棄物管理ソリューションの一部となるためには、有機廃棄物よりも生分解が遅いことが多いこの種の材料を扱うことができるパッケージングと堆肥化施設を設計すること、そしてこの種のプラスチックとリサイクル可能なプラスチックを分別するように、世の中に知ってもらうことが必要である。
生分解性プラスチックは、生物由来のものと、化石資源を原料とするものの2種類がある。さらに生物由来のバイオマスプラスチックには分解するものとしないものがある。現在、日本で普及している生分解性プラスチックの7割はバイオマス由来のもので、ほとんどを輸入に頼っている。
ブラジルを拠点とする世界有数のバイオポリマーメーカーである Braskem(ブラスケム)社は、事業開始当初から日本へ向けてバイオマスプラスチック原料を供給しており、現在もその供給量の拡大に取り組んでいる。タイでバイオポリエチレンを生産するための事業化調査を行っており、プロジェクトが承認されれば、日本を含めたアジア向けの販売を開始させるという。
ブラスケムと、アジア最大の石油化学企業である SCG ケミカルズ社との合弁企業である Braskem Siam(ブラスケム・サイアム)が、タイのプラントの FEED(Front End Engineering and Design、基本設計業務)契約を東洋エンジニアリングと締結したことを発表した。
この事業は、現在の生産量を26万トンから、2030年までに100万トンにまで引き上げるというブラスケムの計画の一環であり、ブラスケムはさらに、2030年までに温室効果ガス排出量を15%削減することをコミットし、2050年までにカーボンニュートラルを達成させる目標を掲げている。
ブラスケムは食品包装、建設、製造、自動車、農業、保健衛生など、さまざまな産業向けにプラントベースのプラスチック樹脂原材料を含む製品をブラジル、米国、メキシコ、ドイツを含む 40 の拠点から、70 カ国以上に製造・販売している。すでに実績を持つ同社が日本に向けて本格的な進出に取り組んでおり、化石資源由来プラスチックをバイオマスプラスチックに置き換えることで、日本の脱炭素化計画の実現に貢献している。
ブラジルの自然環境にマッチしたサトウキビ生産
ブラスケムが販売しているバイオマスプラスチックの原料は、サトウキビ由来の環境に優しいリサイクル可能なバイオポリエチレンである。このサトウキビ由来である点が他のバイオベースポリエチレンとは異なる特性をもっており、既存のリサイクルインフラでリサイクルしやすいという利点があると、ブラスケムの日本代表Frederico Akira Camposさんは優位性を解説してくれた。
「いろいろな自然由来のバイオプラスチックがありますが、サトウキビは持続可能な方法で栽培される、ユニークな作物です。特にブラジルのような熱帯の地域では、植え付け前に地面を耕すという伝統的な農業技術が用いられますが、地面をむき出しにしておくと乾燥し、雨や風で土壌が侵食されることがあります。サトウキビは、一度収穫しても再び育つため、毎年植え直す必要のない作物です。この過程で茎や葉は残され、土壌を保護し、肥沃にします。
さらに、サトウキビ栽培はほとんどが荒廃した牧草地をリプレイスしています。放牧した牛は柔らかい草が好きで、根の近くのソフトな部分を食べ、牛が土を踏んで地面が固くなると、土に蓄積される炭素の量が減り、土壌が劣化してしまいます。
牧草地がサトウキビ畑に置き換わると、作物が環境から吸収するCO2の量は大幅に増え、この炭素はバイオマスプラスチックの生産に使用される砂糖となるか、あるいは収穫後に残された根系や葉、茎から土壌に蓄積されます。 つまり、サトウキビを植えることで、劣化した土壌を効果的に回復させることができるのです。」と、サトウキビ生産がブラジルの自然環境にマッチしている点について紹介してくれた。
その結果、ブラジルで最もサトウキビ栽培が盛んな地域では、2000年から2020年の間に、14%だった栽培地が、51%に増えた一方で、後輩した牧草地は20%に減少したと言う。
「これはブラジルのすでに開発された放牧地など陸地部分であり、熱帯雨林などの自然保護地域ではありません。実際、サトウキビが主に牧草地で拡大したのと同じ期間に、植生の回復も見られました。つまり、サトウキビの拡大は、炭素と生物多様性の両面で環境にプラスの影響を与えたということです」(ブラスケム、サステナブルディベロップメントYuki Hamilton Onda Kabeさん)
脱プラスチックの課題と問題点
Yuki Hamilton Onda Kabeさんが、「サトウキビから抽出したバイオエタノールを原料としながら従来の石化ポリエチレンの物性を損なわないというのが、われわれの製品の最大の特徴です」と強調する通り、一部の生分解性プラスチック製品は耐久性など品質面での課題を抱えている。従来のプラスチック製品と同レベルの強度や特性を確保できるかどうかが、最大のポイントとなる。
もうひとつ、ブラスケムの製品が他社製品に比べて有利な点は、石化プラスチック製品で使用している機械をそのまま利用して生産可能な点である。特に日本の中小加工メーカーにとって、この点は大きな魅力の一つだろう。
最近ではプラスチック製品に含まれている化学物質による健康被害も問題視されてきた。人体に有害な物質を含んだプラスチックを小魚が食べて、それを大きな魚が食べることで体内に有害物質が濃縮された魚が生まれてしまう。最終的にその魚を人間が食べて汚染される。環境中に廃棄されたプラスチックを処理するという問題は、私たち自身を守る活動でもあった。
オランダでは大手小売りチェーンのEkoplazaが英国環境保護団体A Plastic Planetと共同で、プラスチック包装をゼロにした世界初のスーパーマーケットを開店させた。脱プラスチック問題は確実に進展している。
日々の生活の中で、個人が行う脱プラスチック活動は難しい面もあるが、今や傍観者でいることは難しい。せめて日常で使うプラスチック製品が生分解性なのかどうか、あるいは二酸化炭素排出量の削減に貢献しているか、気にしてみよう。ポイ捨てをせず、きちんとごみを分別するだけでも、すでに大きな一歩だ。プラスチックごみのない社会の空気を実感できるかもしれない。
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文/柿川鮎子