海外でよくみられる創作寿司。ブラジルにおいても日本では見ない、変わり種のお寿司があります。
それは、サーモンにイチゴジャムを乗せた甘いお寿司。
いつも行くスーパーや、お寿司屋さんになんならメインのように置かれ、存在感が際立っています。スーパーでの価格は8貫入りで56レアル(日本円で1,425円 2024年11月29日現在).お寿司屋さんで食べるなら8貫で80レアル(日本円で2,036円)と高額。ブラジル人の平均月収は1,893レアル(日本円で48,182円 /2023年、IBGE(ブラジル地理統計研究所調べ)ですので、決して安くはありません。
なぜ、ブラジルではこのような甘いお寿司が市民権を得ているのでしょうか。
ブラジルで流行っている「甘いお寿司」とは
まず、どのような味なのか。
イチゴジャムサーモンは、口にほおばった瞬間、なんとも言えぬうまみ成分が広がります。サーモンの生臭さが消え、イチゴジャムとサーモンの塩気のマッチがまるで塩キャラメルを初めて食べた時の感覚に似ていました。
この食べ方が生み出されたのも、生魚を食べる習慣があまりない国だからこそです。ブラジルでは、生鮮食品の流通が日本ほど発達していないので、魚が新鮮な状態で内陸部まで届くのは難しい現状があります。私が住むサンパウロ州カンピーナス市(最も近い海沿いのサントス市から178キロ)に魚が到着する頃、大抵の魚は変色し傷んでいます。実際、スーパーで売られていたマグロの切り身を食べた結果、軽い食中毒になりました。サーモンは発達していない流通網でも傷みにくいため、スーパーではサーモンだけのお寿司セットも珍しくありません。
ブラジルでも日本食は以前から受け入れられており、お寿司はかなり市民権がある
例えばブラジルのサンパウロ市のブラジルバーレストラン協会(AbraselSP)の調査によると、市内には4,000軒以上の日本食レストランがあります。日本料理はiFood(Uber eatsのようにオンラインで料理を注文できるサイト)で4番目にリクエストが多く、プラットフォーム上での月間注文数は4,800万件という驚異的な数字です。なぜ日本食はブラジルでこんなに人気なのでしょうか。
考えられる理由は3つあります。
① 日本食は健康によいと思われている
肥満の割合が高いブラジル人たち。糖尿病患者も多く、たんぱく質やオメガが多く含まれる魚を食べると健康になれると信じています。実際、海沿いの街、マナウス(ブラジル北部アマゾン流域)の市場を案内してくれたガイドからも、健康志向が高まり、魚を買いに来るブラジル人が増えたと聞きました。
② 日本食を食べるのはかっこいいという認識
日本でいうフランス料理のコースを食べに行く感覚に近いでしょうか。お箸を使いこなして、お寿司を食べることは一種のステイタスになっています。お箸を持つ際に、サポートする器具も売られており、お寿司屋さんや日本食レストランではその器具をよく見かけます。
③日本食の味付けがブラジル料理の味付けと似ている
ブラジルに来て驚いたことがあります。それは味覚が日本と似ていること。ブラジル人たちが食事でよく飲むフェジョアーダ(豆のスープ)も塩風味。コンソメもよく使われ、出汁風味の食事が多いため、日本食の味への違和感が少なかったのではないかと思われます。
お寿司がブラジル人たちに広まったきっかけ
「健康×かっこいい×おいしい」。今でこそ、3拍子揃ったお寿司ですがどうやって広まったのでしょうか。日本人移民開始は1908年のため、お寿司の歴史も長いかと思われるかもしれませんが、お寿司が今のように広まったのは1990年代に入ってからだそうです。ブラジル人たちが好きなビュッフェ。サンパウロにあるレストランビュッフェでお寿司を出したことから始まったブーム。それまでは、お寿司が食べられるのは日本料理レストラン。価格も高価なため、お寿司を食べる機会が少なかったそうです。
日本人にとって、ブラジル料理が今も珍しいように、ブラジルでも日本料理は未だに珍しい状態です。だからこそ日本料理を食べた際にはSNSで紹介をよくされています。実はブラジルは世界で3番目にSNS(FacebookやInstagramなど)を使用しています。
先日、ブラジルでXの使用を禁止された際に、デモが起こるほどです。お店の宣伝もHPではなく、Instagramで行われ、Instagramのライブも盛んです。その際に、つけられるのが#Sushi Dose(=甘いお寿司)。イチゴジャムやマンゴージャムなど色鮮やかで、面白い食べ方は動画でも宣伝の的です。
ブラジルは移民の割合が高く、多国籍文化なので、料理もMIXされて新しいものが編み出されています。ブラジルにお越しの際には、是非この甘いお寿司や日本の餃子が進化したPastelも挑戦してみてください。日本では苦手だった食材も、ブラジルでは好きな味付けに変わっているかもしれません。
文/三浦梓(AZUSA MIURA)
2020年1月よりブラジルサンパウロ州に移住。ブラジルの文化、人に触れ、心がウキウキする日々。一方でいつ強盗や殺人に合うかわからない危険と隣り合わせな環境だからこそ今日死んでも後悔がないようにと全力で楽しむ方向に変換。全力で楽しむからこそ見えた世界を発信。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員 。人事コンサルタントとして、「女性が働きたいときにいつでもどこでも働ける社会」の実現を目指しても活動中。