「AIえほん」は、電通の若手クリエイターチームによって作成された「教育」×「AI」を目指す新たなプロジェクトだ。
2024年10月25日〜11月9日の読書週間に合わせて、「AIえほん」プロジェクトの第一弾となる「おぼえたことばのえほん」のプロトタイプが公開された。
「生成AIを活用した上手なプロダクト事例」「大人が使っても楽しい」と瞬く間にSNSで拡散され、全国の親たちやAIクリエイターから感動の声が多数集まった。
AIえほん「おぼえたことばのえほん」とは?
「おぼえたことばのえほん」は、子どもが覚えた言葉を入力するだけで、AIが物語を生成してくれる次世代のパーソナル絵本。
子どもが覚えた言葉と、その周辺にある言葉のつながりを知ることで言語習得のきっかけにしてもらうことを目指している。
例えば、子どもが「スパゲッティ」という言葉を覚えた時、AIえほんに「スパゲッティ」と入力すると、「スパゲッティのみているせかい」として、スパゲッティの「まえにあるのは?」「うしろにあるのは?」と、周辺にある言葉を組み合わせた絵本を出力してくれる。
「おぼえたことばのえほん」の対象年齢は1歳以上が目安。「パパ」「ママ」といった身近な言葉から、「ブーブー」「わんわん」といった初語、「惑星」「細胞」といった少し難しい単語レベルまでをカバーしている。
わずか2週間足らずのプロトタイプの公開期間では、一般ユーザーにより約8000冊のAIえほんの生成が試みられた。
「おぼえたことばのえほん」が生まれたきっかけは‶前向き抱っこ〟
「AIえほん」プロジェクトは電通に所属する3人の若手クリエイターたちによって進められている。コピーライター、クリエーティブ・テクノロジスト、アート・ディレクター…それぞれの得意分野を活かしながら、一から「AIえほん」を作り上げたという。期間限定で公開された「おぼえたことばのえほん」の反響や今後の展望について話を聞いた。
(左)コピーライターの飯田さん
(中央)クリエーティブ・テクノロジストの油井さん
(右)アート・ディレクターの木村さん
――AIえほんプロジェクトのはじまりについて教えてください
飯田:私事で恐縮なのですが、最近、子どもが生まれまして…身近な人に子育てのコツを聞いているときに、義母が「前向き抱っこをして、見えたもの全てを声に出して一日10km以上歩いていた」というんです。そこから、子どもの教育のために「言葉を浴びせる」とか「質のいい言葉を聞かせる」というサービスを何か作れないかと思ったのが出発点です。
油井:それで、普段からAIを活用したプロダクトやサービスの開発に携わっていた僕に声がかかったんだよね。
飯田:そうそう。
油井:彼から相談を受けた時、AIを活用すればカタチにはできると思ったんです。ただ、それ以上に面白そうだったのが、世の中にある生成AIに関するサービスは作業効率の改善や人手不足の解消など、効率化に寄せたものが多い中、子ども向け、さらには教育のアイデアだったという点です。これまでにあまりなかった‶温かみがあるAI〟という新たな価値が提供できるのでは、と。
木村:アートディレクターの私も加わり、AIえほんプロジェクトがスタートしました。3人とも2018年入社の同期なので普段から色々と相談し合っている中での延長線という感じで。
飯田:自然とチームが出来上がったよね。
木村:そうだね。
「言葉を浴びせる」という手段として一般的なのは絵本ですが、絵本で大量の言葉を覚えさせようとすると、【場所をとる】【費用がかかる】【失敗がある】という課題がありました。
油井:プロジェクトがスタートした2023年は生成AIが誰でもつかえるようになっていわゆる‶生成AI元年〟と言われています。「絵本×生成AI」のアイデアは早くから生まれました。
――反響はどうでしたか?
木村:家で子どもと二人きりの時間を過ごすことが多いお母さんからは「親の発する言葉以外の言葉を子どもに聞かせられるのが本当にありがたい」という反応は嬉しかったです。自分の語彙が偏っているんじゃないかと悩んでいる親も多かったみたいです。
飯田:子どもの教育に動画配信サービスを利用している親たちも多いですが、ヒアリングをすると「後ろめたい」と感じている人も多い。「便利だけど、教育に良いのか」と疑問に持っている親たちにも、AIえほんに可能性を感じてもらえたみたいです。
油井:子どもが覚えた言葉が起点になるのが他のサービスにはない魅力です。生成AIを活用していますが、公序良俗に反する言葉や固有名詞、教育に悪影響を及ぼしそうな関連ワードなどは出てこないようにしています。親たちにも安心して利用してもらえたようで良かったです。
飯田:「語学学習にも活用してほしい」という声がありましたね。確かに、僕たちが外国語を習得するプロセスは、子どもが言葉を覚えていくプロセスと同じで、ひとつの単語から数珠つなぎで学習していくという方法は共通しています。子どもだけではない展開も面白そうですよね。
――今後の展望について教えてください。
油井:今回は期間限定での公開だったので叶いませんでしたが、子どもが覚えた言葉をログにして残せるようにできれば、子どもの成長を記録するサービスとしても面白いものになるのでは、と考えています。
木村:覚えた言葉の記録はこれまでありそうでなかったサービスですよね。実装化できれば、季節ごとのイベントや年齢ごとの変化など、子どもの成長に寄り添った絵本を届けたいですね。
飯田:このサービスが‶子どもの成長を見守ってくれる存在〟になれれば嬉しいです。
油井:「おぼえたことばのえほん」の製品化の他、AIえほんの第二弾プロダクトについても構想を進めています。さまざまなアプローチをすることで、まずは多くの親たちにAIえほんの存在や可能性について知ってもらうことから始めていきたいと思います。
飯田羊さん(左)
株式会社 電通
CXクリエーティブ・センター コピーライター
1993年生まれ。早稲田大学大学院基幹理工学研究科修了。 2018年電通入社。2020年よりCXクリエーティブセンターに所属し、コピーライティングの技術を軸にしながら表現に携わる領域で新しいコンテンツや体験を作ることを心がけています。
木村里奈さん(中央)
株式会社 電通
第4CRプランニング局 アート・ディレクター
1995年群馬県生まれ。2018年東京造形大学グラフィックデザイン専攻を卒業。同年電通入社。グラフィックデザインを基軸にVI、ポスター、パッケージ、プロジェクトの企画などを手掛ける。
油井俊哉さん(右)
株式会社 電通
BXクリエーティブ・センター クリエーティブ・テクノロジスト
1993年生まれ。早稲田大学大学院基幹理工学研究科修了。大学院ではインタラクションデザインを専門に研究。 2018年電通入社。2020年よりBXクリエーティブセンターに所属し、アプリやWEB、展示設計など幅広いエクスペリエンスデザインを手がける。メディアアート作家としても活動し、自ら作品開発も行う。
取材・文/峯亮佑 撮影/干川修