■連載/阿部純子のトレンド探検隊
今年の食のトレンドを振り返り、来年のトレンドを予測する、クックパッド「食トレンド大賞2024」 「食トレンド予測2025」が発表された。
食トレンド大賞とは、その年を象徴する食・料理のトレンドと、翌年に流行の兆しがある食・料理のトレンドをクックパッドが選び発表しているもので、2017年より開始され、今年で8回目。
日本最大のレシピサービス「クックパッド」の検索、アクセスデータ、ニュースメディア「クックパッドニュース」、SNSや各種メディアで話題となったトピックス、有識者が注目する動向などを元に、クックパッドが独自に選出している。
米や豚肉、野菜の値上げの影響から生まれた代替食材のレシピが今年のトレンドに
クックパッドに掲載されているレシピはすべて投稿であるため、投稿データそのものがユーザーデータとなり、食や料理に関する生活者のリアルな実態が反映されているのが強みでもある。
2024年の食トレンド大賞と、2025年のトレンド予測について、クックパッド広報 兼 食リサーチャーの小堀彰子氏に詳細を解説してもらった。
〇大賞「こねないパン」
「こねないパン自体は日本では10年近く前に登場してブームになりました。その後は外食や時短などで、家でパンを作ること自体が少なくなっていましたが、コロナ禍で在宅時間が増えた2020年~2023年に手作りパン自体の検索値が上がる傾向にありました。
こねないパンはレシピ検索頻度が今年の年明けあたりから上がり始め、昨対比で429.9%と大幅に伸長しました。
こねないパンとは、耐熱容器の中で材料を混ぜて作る手法のパンで、従来のパン作りに必要とされてきた“こねる”作業を省略したものです。発酵も簡略化しているものもあり、早いものだと混ぜるところから焼き上がりまで30~40分程度でできあがるので、炊飯よりも早くできると注目を集めました。
また、力が必要な生地をこねる作業が軽減されるので、力の弱い高齢者や子どもが気軽に楽しめるレシピが多くあり、年代を問わず作る人が増えています。
さらに大きな上がり幅を見せたのが8月です。2024年の食に関する一番大きなできごとは、8月中旬頃からのコメ不足とコメの高騰。こねないパンもその影響を受けて、米不足からパンを食べることが増える中、2022年以降の小麦粉の価格上昇に伴い、専門店のパンの価格も上がっており、自宅で手作りパンにチャレンジする人が増えたことで人気となりました。オーブンを使う料理は12月ぐらいからは本格的になってくるので、人気はまだしばらく継続するとみています」(以下「」内、小堀氏)
〇2位「パリおにぎり」
「パリおにぎり」は2024年を象徴する料理。専門店が出来たり、カフェで提供したりとパリでおにぎりブームが起こっていることや、五輪開催も相まって、スーパーマーケットや専門店でも「パリ風おにぎり」がイベントの時期に“観戦めし”として発売されて話題に。
「日本にはない発想の華やかな見た目と、チーズやドライトマト、オリーブなど意外な食材との組み合わせのおいしさに、おにぎりのさらなる可能性を見出した方も多かったようです。
これは手巻き寿司に近い発想ではないかと思っていまして、好きな具材を使ってごはんと合わせておにぎりにしたら、食べてもおいしかった。だったらこんな具材でも挑戦できそうと、アレンジの幅が広がりました。結論としては、おにぎりのポテンシャルの高さがすごかったということですが(笑)。今、パリでは丼ものも流行っているので、パリおにぎりに続く『パリ丼』が出てくるかもしれないですね」
〇3位「カニカマ・魚肉ソーセージ」
価格・供給が安定している「練り物」は、物価高騰の際に重宝する食材。肉、魚より長く保存ができ、冷蔵庫に常備できることも人気の理由となっている。
各メーカーの企業努力により様々な商品が販売されている「カニカマ」は、ここ10年で
検索頻度が1.6倍に成長、2024年も昨対比126.9%と伸びている。アジアや欧米、中東諸国でも認知度が高い食材で「surimi」の名称で浸透している。
「魚肉ソーセージ」は常温保存が可能でローリングストック用食材としての認知が高まり、地震や台風が重なった8~9月の検索頻度は昨対比163%となった。
「カニカマは長く安定した人気のある食材ですが、今年は特に伸びました。宗教的禁忌が少ないことからインバウンド対応できる食材というのもポインのひとつかと思います。
カニカマは誕生して50年経っており、日本かまぼこ協会さんによると、戦後日本の『食品の三大発明』として、インスタントラーメン、レトルトカレーと並びカニカマが含まれるそうです。
カニカマ人気も一番の要因はシンプルにおいしいからだと思います。メーカーさんの企業努力により、様々な価格帯の商品が展開されていて今では高級カニカマも登場しています。
さらにカニカマのすごいところは包丁が不要ということ。同じ練り物でもちくわやかまぼこは包丁を使いますが、カニカマは、そのままでも加熱してもおいしく食べられる。使い勝手が広いことが人気の理由でもあると思います。
練り物が伸びた理由として、価格が上がった豚肉の代わりに使える食材ということもありますが、魚肉ソーセージに関しては、台風や地震の続いた8~9月に保存の効く食材として認知が高まった背景があります」
〇調理器具「せいろ」
「町中華」「ガチ中華」と続く中華料理ブームの中、手軽に使えて、ヘルシーな料理が短時間で簡単にできる「せいろ」が人気となっている。ここ数年せいろ料理レシピ本の出版が相次ぎ、クックパッドでもせいろの検索頻度は昨対比214.9%、「せいろ蒸し」は539.3%、「蒸し料理」も135.9%と大きく伸びた。
「せいろ料理はごちそう感があるのに調理は手軽。肉・魚介類と野菜が一度に調理が可能で、栄養バランスも見栄えも良い料理を短時間で作ることができ、そのまま食卓にも出せるので洗い物が減らせることが人気の理由です。この秋には生活用品のメーカー数社から安価な商品が新たに発売されるなど、まだまだこの流れは続きそうです」
〇トレンドワード「ザクザク」
クッキーやスコーンなどの中に入っている大きめのナッツ、チョコレートなど、甘いものの表現に使われていたキーワード「ザクザク」。2015年をピークに検索頻度を落としていたが、2016年ごろから「からあげ」「食べるラー油」など、従来の甘いものではなく、しょっぱい用途の「ザクザク」レシピ検索が増え始め、用途が変わり、新鮮味が感じられるようになったためか、商品名に「ザクザク」が入った食品が2023年次々と発売された。
「食感だけでなく、ASMR動画などの影響で、食べる時の音も楽しむ流行が生まれました。2024年のキーワード『ザクザク』の検索頻度は昨対比118.6%と、9年ぶりに増加に転じました。オノマトペの使われ方の事例としても、とても面白いと思います」