トランプ次期アメリカ大統領が最も注目される人事の一つである財務長官に示したのが、投資家のスコット・ベッセント氏。ベッセント氏は、日本の安倍晋三元首相による「三本の矢」政策をイメージした提言を行なったと言われている。
そんな新財務長官指名と市場の反応について、三井住友DSアセットマネジメント チーフマーケットストラテジスト・市川雅浩 氏からリポートが届いているので、概要をお伝したい。
ベッセント氏の米財務長官指名を受け、市場は米長期金利低下、ドル安、日米とも株高の反応
トランプ次期米大統領は11月22日、財務長官に投資ファンド経営者のスコット・ベッセント氏を指名した。ベッセント氏はトランプ氏に対し、「3-3-3」政策(<1>2028年までに財政赤字をGDP比で3%まで削減、<2>規制緩和で実質GDP成長率を3%に押し上げ、<3>原油生産を日量で300万バレル増産)を提言しており、減税や規制緩和など、トランプ氏が公約で掲げた政策を推進していくとみられる。
週明け25日の日本市場では、ベッセント氏が財政規律を重視するとの見方から、前週末に4.40%水準で取引を終えた米10年国債利回りが朝方一時4.33%水準まで低下すると、為替市場では日米金利差の縮小を意識したドル売り・円買いが進み、日経平均株価は前週末比496円ほど上昇して取引を終えた。
米国市場でも米10年国債利回りの低下は続き、ダウ工業株30種平均など主要株価指数が上昇した。
■トランプ氏の関税引き上げ発言で市場はリスク回避ムードに、人民元などが対ドルで大幅安
日本時間の翌11月26日の朝方、トランプ氏は中国からメキシコなどを経由して合成麻薬が米国に流入していることへの対抗措置として、中国からのほぼ全ての輸入品に対し10%の追加関税をかけると表明した。
また、カナダやメキシコに対しても、大統領就任初日に25%の関税を課すための大統領令に署名すると発言。実現すれば、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)による幅広い分野での関税撤廃は停止となる恐れがある。
トランプ氏の発言を受け、投資家の間にリスク回避ムードが広がると、26日の日経平均は前日比338円ほど下げて取引を終了、ドル円はリスク回避の円買いが優勢となり、ドル安・円高が進行した。
また、関税強化の可能性が警戒され、人民元、カナダドル、メキシコペソは対ドルで大きく下落した。なお、米国市場では、関税引き上げによる生産コスト増の懸念から、自動車株の下げが目立ったが、主要株価指数は上昇した。
■ただ日本株などは2016年当時より総じて小動き、トランプ政権も2回目となり、冷静に対応か
このように、足元の市場は、トランプ氏の閣僚人事や発言に対し、敏感に反応しやすい状態にあると思われる。ベッセント氏は財政規律を重視するという声も聞かれるが、次期トランプ政権の財務長官である以上、トランプ氏の政策を遂行すると考えるのが妥当であり、財政規律への期待は難しいとみている。
また、関税引き上げも、相手に強い姿勢を示し譲歩を引き出すいつもの交渉術であり、実際は相応に時間をかけて行なわれる見通しだ。
なお、日経平均などの動きについて、2016年の大統領選後と今回の大統領選後を比較すると、今回は2016年当時よりも総じて小幅な動きとなっていることがわかる(図表1)。
やはり、トランプ政権も2回目ということで、市場には免疫ができており、2016年当時よりも冷静に状況を見守っている様子が推察できる。また、日本株や円相場については、国内のいくつか重要な材料(図表2)も見極めている状況にあると思われる。
構成/清水眞希