『小学生が99×99までスイスイ暗算できる最強ドリル』(小学館)で脚光を浴びたAI研究者・岩波邦明医師は、2024年12月4日に新たな学童向けドリル『AI脳が身につく最強図形ドリル』(小学館)を出版した。
岩波邦明さん
医師。AI研究者。現在、スタンフォード大学大学院コースでAIを専攻。1987年生まれ。東京大学医学部卒。MENSA会員。在学中に暗算法「岩波メソッド ゴースト暗算」を開発。著書は66万部を超えるベストセラーに。AI資格「Stanford AI Graduate & Professional Certificate」を取得。
第3回目となる本記事では、第1回、第2回の記事で登場した〝理数センス〟〝図形センス〟という2つの感覚に着目。まずは2つのセンスの違いから解き明かしていこう。
‶図形センス〟を磨けば高校・大学入試も有利に
これは僕なりの解釈ですが、〝理数センス〟は答えの大まかな予測・解答の道筋を直感的にひらめく力であると考えています。では〝図形センス〟とは何か? たとえば、「点を1つ付けた立方体が回転します」という条件付きの図形問題があったとしましょう。
この時、立方体の動きを頭の中でイメージできなければ、理数センス的なひらめきを得ることはできません。もっと複雑な条件がついた場合はどうでしょうか。何をどうすればいいのか、それすら問題から読み取ることが難しくなるかもしれません。
この時〝図形センス〟を鍛えていれば、深く考えることなく、回転する立方体と点の軌跡を同時にイメージできるようになります。それだけではありません。〝図形センス〟を鍛えることは、解答へたどり着くための筋道をたてる〝計画力〟を育むことにもつながります。
――〝図形センスを磨く〟ことは‶理数センスを高める〟ことと同義である。
そのとおりです。図形問題というのは、文章問題や計算式を解くのと勝手が違います。図形問題を得意にするためには、その前提として、頭の中で図形をしっかりとイメージする力を鍛えておく必要があるのです。もうひとつ付け加えれば、〝図形センス〟は生まれつき備えている感覚ではありません。学校や塾で教えるテクニックでもありません。トレーニングや反復練習を通して、自主的に身につけるしかないのです。
ガムシャラに問題を解き続ける勉強法は非効率である
――〝図形センス〟は幼い頃から自発的に磨くことができる感覚のひとつ。中学入試以降、先々の入試でも大きなアドバンテージになりそうです。
例えば、重心、垂心、外心、それから中点連結定理やチェヴァの定理、メネラウスの定理といった三角形に関する定理を見聞きした経験があると思います。中学高校へと進学するにつれ、図形の性質はどんどんとつまびらかにされますよね。名前は覚えにくいし、手数が増える。そこから数学に苦手意識を持ってしまった方は多いと思います。
ただ、中学・高校数学で扱う定理というのは、解法のためのテクニックみたいなものであって、たいしたことを扱ってないんですよ。しかも、入試問題はその手の定理が使える前提で考案されています。ですので、図形の性質を理解する作図力の有無が大きな分かれ目になることは間違いないでしょう。
――〝答えはひとつだけど解法はいくつもある。その選択肢をいくら広げても正解率は高まらない〟。こうした苦汁を舐めた入試経験者は少なくないと思います。
入試は時間も余白も限られていますからね。いくつかある手段の中で、一番ラクな方法を選べることも計画力だし、『AI脳が身につく最強の図形ドリル』では計画力を鍛えることにもフォーカスしました。
自宅学習をうながす保護者の負担を軽減する仕組みも!
――それではいよいよ『AI脳が身につく最強の図形ドリル』の内容に迫ります。本書では‶図形センス〟を磨くステップとして、〝平面図形を正確にイメージする力〟‶図形の性質を正確に理解する作図力〟〝平行・対称・回転の3つの平面感覚〟そして‶立体図形を俯瞰・展開する力〟を掲げています。
それぞれがどういった力・感覚であるかは、文言を読むだけで理解いただけるかと思います。本書は全8種類10系統のドリルを、初級編、中級編、上級編の3部構成で収録しています。
そのどれもが計算力や図形に関する前知識を必要としない内容ですので、未就学あるいは低学年生でも楽しんで取り組めるというのは、本書の大きな魅力ですが、もうひとつ大きな特徴があります。それはドリルをマスターすることで‶身につく力〟を明示したことです。
――どういうことでしょうか?
これについては、実際の目次をご覧いただくのが手っ取り早いと思います。例えば、初級ドリル(4)「一筆書きパズル」では、お題と同じ絵を一筆書きで書き上げるトレーニングを行ないます。
一筆書き自体は、保護者の方々にとっては見慣れた遊びのひとつでしょう。ですが、実はこれを繰り返すことで、図形の隅々にまで注意を向ける‶見る力〟、同じ絵を正確に写す〝作図力〟、どこから書き始めれば一筆書きできるのかという解答に至るまでの筋道を立てる〝計画力(考える力)〟、それからお題の絵のイメージを頭の中で正確に保持する〝短期記憶力〟の4つの力を同時に鍛えることができるのです。
――なるほど。これなら子どもたちの習得レベルに応じて、足りない部分を集中的に鍛えられるから、1か月という短期間で‶図形センス〟を身につけることができる。お勉強の効率化が図れますから、保護者の負担も減りますね。
はい。解法のテクニックをまとめた参考書や問題集と違い、センスを鍛えることを目的にした本書のようなドリルは「本当に役に立つのか?」と一考してしまうものです。そうした配慮から、本書では、目次で細分化した〝身につく力〟を、各パートの冒頭で‶身につく力〟の詳細を明記することにしました。
何度も繰り返しますが、〝図形センス〟は特定の問題だけでなく、あらゆる図形問題に共通する力・感覚。当然、中学入試の役に立ちますし、これからのAI時代を賢く生き抜くために必須となる〝情報を図化して効率よく理解する力〟を高めることにもつながる。何よりも、図形問題は苦労している子どもたちが多いとされる鬼門のひとつです。なるべく早い段階で苦手意識を取り除くことは、とても大事なプロセスであると考えています。
取材・文/渡辺和博