交通インフラが整備された都市部で生活する人にとって、自動車は不可欠な存在ではなくなりつつある。もちろんあれば便利なことには違いなく、購入を後押しする決定打は自動車それ自体の魅力と、所有することで得られる精神的・物理的な豊かさだ。
そうした都市生活者の間で近年人気が高まっているのは、広い室内空間による快適性と高い実用性を備えたSUVタイプ。だが、選択肢が増えたこともあり、トレンドを読み解く鋭敏な感覚の持ち主は、SUVが本来もつ“道具”としての確かさを体現した、タフでクールな肌触りの自動車に注目している。
その代表格が、英国の「DEFENDER」。2024年11月に東京・豊洲で開催されたオーナー&ファンイベント「DESTINATION DEFENDER TOKYO 2024」を通して、変貌する令和の自動車トレンドを探った。
4WD車の価値を見出した、昭和のトレンドリーダーたち
1900年代初頭に欧州へ渡り、自動車をはじめとする先進のカルチャーや欧米的価値観を携えて、戦後日本のアイデンティティ確立に大きな足跡を残した白洲次郎をご存じだろうか。エスタブリッシュメントとして時の政府首脳と近い存在だった彼は、経済発展に不可欠な電力の普及を目指し、発電所建設事業のトップに就任した。その際、山間部にある施設を巡るために移動の道具として乗っていたのが、登場して間もない「ランドローバー シリーズ1」(のちの「DEFENDER」)だった。生涯を通してクールな目利きであり続け、粋で普遍的なライフスタイルを実践した白洲が、いち早く英国製4WD車に目を付けていたのは、実に象徴的だ。
イベント会場に展示されていた、先代「DEFENDER」。右の黄色い車両は世界一過酷なアドベンチャーレースと呼ばれた「キャメルトロフィー」に出場したときのもの。命にかかわる状況では、タフでメンテナンス性に優れることが絶対条件だ。
道具としての機能性×都市にハマるファッション性がトレンド文脈を作った
日本における自動車文化の醸成は、高性能化と所有台数の増加が顕著になった1980年代半ばから始まったといっていい。そのわかりやすい例が、週末に海や山を目指す都市生活者による、4WD車(今でいうSUV)を普段使いするカルチャーだ。不整地を走れて耐久性やメンテナンス性に優れた4WD車は、過酷な状況で仕事に従事するプロフェショナル向けに開発された“道具”。それを普段使いとして乗るトレンドリーダーが追従するフォロワーを生み出し、自動車メーカーもマーケティング調査でニーズを察知。より街で乗りやすいSUVの登場へとつながっていく。
「DEFENDER」の走破性能と世界観を体感できる都市型ライフスタイル体験イベントに多くのファンやオーナーが駆け付けた。都市(シティ)とアドベンチャーが違和感なくクロスオーバーする、ラグジュアリースポーツのトレンド線上にあることを指し示す光景だ。
この流れは、炭鉱労働者のために生まれたジーンズがライフスタイルアイテムとして社会性をもつようになったのと似ている。オリジナルが備える道具としての機能性を、高度な技術で表現して履きやすさにもつなげ、細分化する着こなしに対応するジーンズが登場した流れとも……。
現行モデルでは水深90cmまで浸かっても走ることができ(後述するハイパフォーマンスモデル「DEFENDER OCTA」は1m)、ぬかるみやわだち、石が転がる不整地でも前へ進むことを諦めないで済む「DEFENDER」は、4WD車のルーツとしての誇りを携えながら現代的なファッション性とエンターテインメント性をも秘めた、クールでタフな無二の存在。「DESTINATION DEFENDER TOKYO 2024」でも、「DEFENDER」の可能性を様々な形で感じられる仕掛けが満載だった。
極限の状況を想定した4WD性能を体感
写真は試乗イベントの様子。大きな傾斜も安定した姿勢のまま進む。
高さ5mのスロープを上って下る「ツインテラポッド」。死角になる前方の下方向をカメラ映像で映し出す「クリアサイト グランドビュー」のアシストもあり、安心して走ることができた。
来場者の目を引いていたのは、高さ5m、最大傾斜43度の専用スロープをインストラクターの運転で体験する「ツインテラポッド」だ。上りでは空しか見えず、下りは逆立ち状態という日常ではありえない状況で、「DEFENDER」は4輪でしっかりと踏ん張り、低速から発揮される強力なトルクでクリアしていく。さらに、「ミニ&マウンテンテラポッドバンク」ではモーグル路を模した2種類のテラポッド、そして最大傾斜角40度のスロープを、体験者みずからハンドルを握って走れるマウンテンテラポッドがあり、乗り手が煩雑な走行機能調整にとらわれることなく、シンプルな操作でクリアできる「DEFENDER」の先進的な4WDシステムを体感できるものだった。
自然の中でこのような状況に遭遇する機会は少ないとはいえ、日常領域をはるかにしのぐスペックを内包していることが、オーナーの誇りとなり行動中の安心感にもつながる。それは、プロでしか潜らない水深まで対応するハイブランドのダイバーズウォッチを街で身に付けることにも近しい。
エンターテインメント空間としての「DEFENDER」
音楽プロデューサーの亀田誠治がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組「DEFENDER BLAZE A TRAIL」とコラボレーションしたライブも実施。写真は真心ブラザーズ。
イベントでは、音楽プロデューサーの亀田誠治氏がキュレートしたアーティストのミュージックライブも実施された。屋外に音楽を持ち込むことが当たり前となった今も、アーティストが目の前でライブパフォーマンスを見せてくれる機会は貴重だ。そして音楽というキーワードも、「DEFENDER」とは密接な関係にある。
昔の4WD車は不整地での走破性やメンテナンス性を高めるサスペンションや車台を取り入れていたため、舗装路ではとくに高速道路に乗ると乗り心地や直進安定性、静粛性で不満を感じることがあった。技術の進化により、昨今のSUVはその点も克服されているが、なかでも「DEFENDER」は別格の存在。舗装路のうねりや凸凹をまろやかにいなし、常識的な路面状態において跳ね上がったり頭に響くような衝撃を受けることはまずない。エンジンはアクセルペダルをじわりと踏み込むだけで静かに力強く加速し、外界の音もみごとにシャットアウトされている。
「DEFENDER」史上もっともダイナミックなパフォーマンスを誇る「DEFENDER OCTA」も披露された。ラグジュアリースポーツの世界観をけん引する、アイコニックな存在だ。
我慢を強いられるどころか、ラグジュアリーカーと呼ぶにふさわしい快適ぶり。街とフィールドを行き来するオーナーにとって「DEFENDER」は頼もしいだけでなく、安楽なエンターテインメント空間でもあるのだ。そこでは普段から聴いている楽曲もドライブ体験を格上げする重要な要素となる。つまり「DESTINATION DEFENDER TOKYO 2024」は、「DEFENDER」を所有することで得られる悦びをフォトジェニックに見せるイベントであり、前述した時計を含め、機能的でリラックスした装いからなる現代的な「ラグジュアリースポーツ」という富裕層のトレンドに、「DEFENDER」がいかにフィットしているかを示すものでもあった。
道具としての機能を磨き上げながら、都市生活者の質を上げるファッション性を兼ね備えた「DEFENDER」に注目する令和世代は、これからも増えていくに違いない。そうして日本の自動車文化はさらなる熟成を経て、作り手さえ想像しえなかったスタイルを生み出し、新たな価値を生み出すだろう。自動車を所有する価値は、そこにある。
写真提供/ジャガー・ランドローバー・ジャパン
(フリーダイヤル)0120-18-5568
文/櫻井 香