■連載/阿部純子のトレンド探検隊
急激に冬の訪れを感じる寒さが到来し、鍋料理やシチューといった温かい食べ物が恋しくなる季節がやってきた。
これらの料理に欠かせない野菜だが、秋以降、野菜価格の高騰が続いている。様々な要因があるが、原因のひとつが今夏の猛暑や長期間にわたって各地に大雨の被害をもたらした台風。また、秋以降も暑さが続いた影響で、秋に生育する野菜が育てられない状況も重なり、引き続き野菜の価格高騰が見込まれている。
野菜以外の食材の値上げも依然として続く中、節約視点で野菜を選ぶポイントや、良い野菜の見分け方、食べ方について、大田市場で仲卸業を営む株式会社大治の社長で、野菜の目利きのプロでもある本多諭氏に話を伺った。
物価高が続く中で野菜の高騰も家計に大打撃!節約視点で野菜を選ぶポイントとは
【本多諭氏 プロフィール】
慶応義塾大学卒業後、株式会社紀ノ国屋に入社。2年間正社員として働いた後に、大田市場で野菜の仲卸業を70年以上営む、家業の株式会社大治(だいはる)に入社。平成28年に代表取締役社長に就任。「東京野菜」ブランドを推進する東京野菜普及協会の代表理事としても活躍中。青果物の流通のプロとして産地の開拓など「質の良い野菜」にこだわり、旬野菜やトレンド野菜についても広い知見をもつ。野菜の目利きのプロとしてメディア取材も多数経験。
「気候変動の影響により近年、頻繁に野菜の価格が高騰するようになりました。それに加え全般的な物価高で、家計に厳しい状況は続いています。旬野菜は安価だというイメージがありますが、気候の影響で不作になると高騰することも多いので、一概に旬野菜が安いとは言えない時代となっています。旬だけにとらわれず通年で比較的安定して流通する野菜を使うことも大切です」(以下「」内、本多氏)
1・根もの野菜がねらい目
気候の影響を受けにくい、れんこん、ごぼう、じゃがいも、さつまいも、にんじんなどの根もの野菜は価格が安定しているので、積極的に取り入れると良い。保存もきくので、安いときにまとめ買いするのも手。
2・カット野菜や冷凍野菜を使う
複数の野菜を購入すると高額になってしまうこともあるので、必要な量が入っており価格変動のないカット野菜や冷凍野菜は家計の味方になる。
また、使いきれない分を冷凍保存して、自作の冷凍野菜をストックする“冷凍貯金”もおすすめ。
3・植物工場で生産された工場野菜を使う
きのこやもやし、フリルレタス、スプラウトなど植物工場で生産される野菜は大きな価格変動がないため、時季を問わずほぼ同じ価格帯で購入できる。
本多氏が選んだ2024年冬の節約野菜5選
この冬、比較的価格が安定しており、食卓で活用できる推し野菜5種類と、その見分け方や保存方法について本多氏に聞いた。
<大根>
「大根は一年を通して流通していますが、旬は10~3月頃といわれています。主な産地は千葉県や北海道、青森県などで、根の上部が緑色の『青首だいこん』が市場流通の9割以上を占めていますが、地域特産の品種も多数あり、用途によって使い分けるのもおすすめです」
【おいしい大根の見分け方】
全体に張りとツヤがあり、まっすぐ伸びて、太いものを選ぶとよい。持ったときにずっしりと重いのはみずみずしく水分が豊富な証拠。ひげ根の毛穴が浅く少なく、表面がなめらかなものが良い。
葉つきは葉まで食べられるので、葉から先まで鮮やかな緑でピンと張ったものを選びようにする。カットされている場合は、断面のきめが細かく、すが入っていないか(内部がスカスカしていないか)必ず確認する。
【大根の保存法】
冷蔵保存の場合~野菜は収穫後も成長し続けているので、葉つきのままにしておくと葉が根から水分や養分を吸い取ることになり、葉つきのままにしておくと根の部分はスカスカになり、味も落ちてしまう。大根のように葉と根がついている野菜は葉つきのままにせず、すぐに切り分けて別々に保存するのがおすすめ。
新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室に保存するのがよい。新聞紙は野菜を保湿、保温する手助けをしてくれるため、野菜保存にはとても便利。また葉の部分も同様の効果を発揮するので、すぐに処分してしまうのではなく保存用に利用することもおすすめ。
冷凍保存~部位別に切り分け、ラップでぴったりと包み、フリーザーバッグに入れ、冷凍室へ。使うときの用途を考えて、輪切り、いちょう切りなどカットしてから冷凍しておくと便利。大根おろしも冷凍できる。
煮物だけでなく酢の物や浅漬けにも冷凍したまま使うことができる。一度冷凍したものは味染みもよくなるというメリットも。
<きのこ>
「きのこは秋が旬というイメージもありますが、実は1年中安定して購入することができる、おすすめの食材です。価格影響を比較的受けにくいので、この秋にはとくに食卓を助けてくれる優秀食材。きのこは鮮度がいいほど、味や香り、食感が良くおいしくいただけます」
【おいしいきのこの見極め方】
えのき、椎茸、エリンギ、しめじなど、市場は様々なきのこ類が流通しているが、おいしいきのこの共通の見極めポイントは「ハリがあり肉厚なもの」。包装のパックや袋に水滴がついているものや水っぽいものは避けたほうがよい。
【きのこの保存法】
冷蔵保存~きのこは乾燥を嫌うため、冷蔵するときラップとポリ袋で保存するのがベスト。特に長期で保存するときなどはこのテクニックを活用すると良い。
冷凍保存~新鮮なうちに生のまま冷凍するのもおすすめ。石づきを除き、使いやすい大きさに切るか、ほぐしてフリーザーバッグに入れ、冷凍保存する。いろいろな種類のきのこを組み合わせてもよい。きのこは冷凍することで細胞壁が壊れて、うまみ成分であるグルタミンやグアニン酸、アスパラギン酸がアップするといわれており、栄養面でもメリットが。
<さといも>
「秋から冬にかけて旬を迎えるさといも。保存もきくので、使いやすい野菜です。根野菜なので、台風などの影響を受けにくいのも特徴です。煮物や汁物の具材としても活躍します。
ねっとりとした食感を楽しみましょう」
【おいしいさといもの見極め方】
皮が乾燥し過ぎていなく、しっとりと湿っているものが新鮮である目安。皮のしま模様がくっきり見えていて、固いもの、また、泥が付いたまま売られている方が風味が良い。
【さといもの保存法】
常温保存~里芋も新聞紙の保存がおすすめ。常温保存で10~25℃が理想で、暑すぎず寒すぎない環境が里芋の保存にはちょうど良い。直射日光が当たらないところで保存し、風通しがよいとさらに理想的。
冷凍保存~里芋は意外にも冷凍保存向きの食材。生のまま冷凍保存しても、さほど味や食感の劣化がなく、加熱したものでも冷凍可能。
生のまま冷凍するときは煮物など用途にあわせたサイズにカットしてフリーザーバッグに入れ、なるべく空気を抜いて冷凍保存。加熱してから冷凍する場合はレンジで加熱してからそのまま、またはすりつぶしてフリーザーバッグで冷凍するのもおすすめ。
<小松菜>
「小松菜の旬は9月~12月といわれていますが、実は年間を通じて収穫でき、安定して流通しているため価格面でも栄養面でも優秀な野菜です。台風で多くの葉物野菜がダメージを受け、軒並み価格高騰中ですので、この秋の葉物野菜は小松菜を食卓に取り入れれば家計の助けになるでしょう。
実は小松菜のおすすめはサラダです。シュウ酸が少ないのでえぐみもなく、カルシウムや鉄分、ビタミンC、カロテンなどが多く含まれており、生のままだと栄養価をまるごと摂ることができます。火を使わずに時短になるので忙しいときにも重宝します。生の小松菜のしゃきしゃき食感をぜひ楽しんでください」
【おいしい小松菜の見極め方】
葉の緑色が濃く鮮やかで葉そのものが肉厚でみずみずしくピンと張っているもの、茎が太くしっかりしているものを選びとよい。
葉脈が発達しすぎていると歯ざわりが悪いので、できるだけやわらかいものを選ぶ。根がしっかりと長いものは生育のよいもの。
【小松菜の保存法】
冷蔵保存~小松菜も新聞紙に包み、立てた状態で野菜室に保存する。小松菜をはじめ葉物野菜は育った状態と同じ状態にして保存するのがポイント。寝かせて保存すると縦に生育しようとして余計な養分をつかってしまうので栄養も減ってしまうことに。
冷凍保存~生のまま4~5cm長さにカットし、フリーザーバッグに入れて冷凍保存。凍ったまま、やわらかくなるまで煮るような調理法がおすすめ。みそ汁やスープ、お吸い物などの汁物や、雑煮、煮込みうどん、鍋物など、やわらかく煮る用途には冷凍が向いている。
<白菜>
「冬の食卓には欠かせない白菜ですが実は秋もおすすめの食材。冬の需要期になると価格が高騰してきますが、11月~12月中旬までは比較的価格が安定しています。4分の1サイズを購入してもボリュームがあるので、節約観点でも家計のお助け野菜として活躍できます。
寒くなる需要期になると徐々に価格が上がっていくので、冬場におすすめなのは一株丸ごと購入すること。カットされたものよりもかなり安く購入できます。
白菜は鍋のイメージが強いですが、水分が多くみずみずしく食感もよいので、生のまま楽しむのもおすすめ。サラダやマリネで食べるとビタミンCや葉酸などの熱に弱い性質ビタミンがそのまま摂取できますし、いつもと違った味わいが楽しめます。
使いきれない分は冷凍して、鍋物や炒め物で活用するとロスも防げます。鍋物だけではない白菜の魅力を、さまざまな食べ方で楽しみましょう」
【おいしい白菜の見極め方】
葉先までかたく巻きがしっかりしていて、上部を押すと弾力があるもの、底面の切り口は白く新鮮なものがよい。
カットして売られている場合は、断面の芯の高さが1/3以下で、葉がすき間なくギッシリと詰まっているかをチェックするとよい。
【白菜の保存法】
冷蔵保存/常温保存~カットされていない丸ごとの状態の白菜であれば、常温でも保存することが可能。ただし気温が高い時期は傷んでしまう可能性があるので、夏場は常温ではなく冷蔵庫で保存する。
カットされた白菜を購入したときや丸ごと一株をカットした場合は新聞紙で包んで野菜室で保存。ラップで包んで保存することもおすすめ。切り口から乾燥してしまうので、ラップにつつんでポリ袋にいれて冷蔵しても良い。
冷凍保存~生のままざく切りにし、フリーザーバッグに入れ冷凍保存。使うときは凍ったまま調理するのが基本。凍ったままの白菜をだしやスープストックに入れ、3分ほど煮ればみそ汁やスープに。
キムチのもとや甘酢に漬ければ、溶けるころに食べごろとなり下漬けの手間も省ける。炒め物に利用する場合は、凍ったままだと水が多く出やすいので、自然解凍か電子レンジ解凍して水気を絞ってから使うと良い。生とはまた違った歯ざわりが楽しめる。
【AJの読み】野菜のプロ直伝の選び方や保存法をぜひ参考に!
ブロッコリーやキャベツ、にんじんなど、いつもの野菜の値段がいきなり高くなって驚くことも多かった今年。食卓には欠かせない米や卵など様々な食材が値上がりしている中、野菜はできるだけ新鮮で安いものを選びたいのが消費者のホンネだろう。
野菜のプロ・本多さん直伝の野菜の選び方、保存方法は非常に参考になるので、旬にこだわらない、冷凍保存、カット野菜などいろいろな手段を駆使して、この冬の野菜高騰を乗り越えたい。
取材・文/阿部純子