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毎日数千万匹!米国で深刻化する「ミツバチの交通事故」問題

2024.12.02

世界からミツバチが減っているという話を耳にしたことがあるかもしれない。ミツバチが減っている主な原因には気候変動や農薬の影響などが挙げられているが、アメリカでは意外な場所でミツバチが大量に消滅していることが最新の研究で報告されている。その場所とは道路上だ――。

米西部の道路上で毎日数千万匹のミツバチが消滅

ミツバチの大量失踪は「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)」と呼ばれ、日本を含む世界各国で見られ、問題となっている。

野菜や果物の受粉を支えているミツバチが減ることは農作物の生育に悪影響を及ぼす可能性もあり深刻な問題になり得る。

ミツバチ減少の主な原因は気候変動や一部の農薬の影響、ダニ被害などが考えられているが、アメリカでは意外な理由でミツバチが個体数を減らしているという。それは路上の“ロードキル”だ。

 道路上で起こる野生動物の痛ましい死亡事故が「ロードキル(road kill)」だが、実は動物だけではなく昆虫もまたロードキルの主な“犠牲者”である。たとえば温かい時期に郊外の高速道路などを長時間走行するとクルマのフロントウィンドウにはさまざまな昆虫の死骸がくっつくため、ドライブ後にはしっかり洗車しなければならないほどである。

そしてこの昆虫のロードキルの犠牲者にはミツバチも含まれていたのだ。

米ユタ州立大学の研究チームが今年11月に「Sustainable Environment」で発表した研究では、アメリカ西部諸州の道路では毎日数千万匹のミツバチがロードキルの犠牲になっていることが予測されている。

ユタ州立大学トゥーイル校の進化生態学者ジョセフ・ウィルソン氏は、道路はミツバチのような花粉媒介者にとって諸刃の剣だと説明する。林間地や草原を切り拓いて敷設された道路の中央分離帯や路肩の植生は、花を咲かせ実を結び種子によって繁殖する顕花植物が増えるため、ミツバチにとって良い生息地となる。

しかし当然だがこうした場所に生息するミツバチはすぐ近くを走行するクルマの犠牲になりやすい。いったいどれほどのミツバチがロードキルの犠牲になっているのだろうか。

ウィルソン氏らは、中型車のバンパーに粘着紙を貼りつけ、ハチが活動的である日中に一帯の高速道路、一般道、未舗装道路を走行しハチのロードキルを調査した。チームは春と夏にユタ州を29回巡回し、9334㎞以上を移動し、犠牲になったハチを属レベルで特定した。すべてのドライブで14属のハチが少なくとも1匹は犠牲になっていた。

収集した走行データと粘着紙を検証すると、ソルトレイクシティとモアブの間を走る1台の車が50~175匹のミツバチを殺傷する可能性があることが推定された。

ユタ州運輸局の交通データに基づき毎日そのルートを走行する9万4000台の車に換算すると、ミツバチの犠牲匹数は数百万に上る。ユタ州の毎日の交通量はさらに数百万台の車で構成されており、近隣の州でも同様のドライブが行われているため、この地域で毎日犠牲になっているミツバチの総数はおそらく数千万匹に上ると研究チームは結論づけている。かくも大量のミツバチがアメリカ西部の道路上で姿を消しているとすれば残念な限りだ。

中央分離帯には植え込みを設けないほうがよい

世界的に減少しているミツバチがロードキルで大量に犠牲になっているというのは驚くべき事実だが、研究チームはこうした犠牲を緩和する方法があると指摘している。

研究によると、ミツバチは中央分離帯に植物がない限り、通常は道路を横断することを避けるため、道路の中央ではなく両側を安全な生息地にすることが1つの解決策となる可能性があるということだ。中央分離帯には植え込みを設けないほうがよいことになる。

交通当局は、道路沿いの生息地の価値を最大化しつつ、ミツバチと車両の衝突を最小限に抑える方法を検討する必要があると研究チームは進言している。

道路上で起こる野生動物の死亡事故であるロードキルはモータリゼーションにつきまとう厄介な問題である。

ロードキルの犠牲になる野生動物はシカ、クマ、イノシシなどの大型動物、タヌキ、キツネ、イヌ、ネコなどの中型動物、鳥類などの小型動物などであるが、その中で最も件数が多いのは中型動物である。そして今回の研究のように野生動物ばかりでなく、昆虫のロードキルもミツバチのような特定の種によっては無視できない問題になってくる。

そしてそもそも昆虫のロードキルは実態よりもかなり過小評価されているともいわれている。

2016年のポーランドの研究では、ロードキルの犠牲になったチョウは考えられているよりもかなり多いことが報告されている。そこには知られざる鳥類の行動があったのだ。

ロードキルの犠牲になったチョウが路上に放置されると、上空からその死骸を目ざとく見つけた鳥がやってきて捕食するため、いわば“証拠隠滅”が自然に行われている実態が明らかになったのである。

路上に置かれた蝶の死骸の最大で95%が48時間以内に鳥に捕食されて路上から姿を消しているという。したがってチョウのロードキルは“目に見えない”交通事故であるともいえる。

クルマを運転することで意図せずとも奪ってしまう昆虫たちの命について必要以上にナーバスになることはないとは思うが、この残酷な現実を時折確認してみるのも、自然環境と生態系を考え直すきっかけになりそうだ。

※研究論文
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/27658511.2024.2424064

※参考記事
https://www.sciencenews.org/article/bees-cars-dying-roadkill

文/仲田しんじ

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