2024年11月5日より東証の取引時間が30分延長された。この延長によりどのような影響が生じるかを解説する。
今になって取引時間が延長されたのはなぜ?
日本では、株式の取引時間は長い間、9:00~11:30、12:30~15:00であった。取引時間を延長することは、株だけでなく、投資信託などそのほかの注文にも影響を及ぼし、仲介する証券会社も負担になるはずだ。ここにきてなぜ取引時間が延長されることになったのだろうか?
最も大きな要因は、2020年10月1日に起きた東証のシステム障害だ。この日は、取引開始時間9:00から大規模障害が起き、併せて名古屋、札幌、福岡においても全銘柄終日取引が停止された。
終日取引停止となったのは、現在のシステム取引になってから初めてのことであった。このシステム障害で、終日取引停止となったことから、復旧にかかる時間で取引停止が終日とならないよう、取引時間延長の検討が行われるようになった。
また、以下のように世界のなかでも日本の取引時間は短く、東証の国際競争力を高めていくためにも、取引時間延長が必要だとされた。
取引時間延長で、香港と同じ取引時間、昼休憩を考慮すると昼休憩なしのニューヨーク並の取引時間となった。
取引時間延長で変わることは?
東証の取引時間延長で、以下のように様々な面に影響がある。
(1)決算発表
企業の決算発表は、株価に大きな影響を与え株式市場に大きな混乱をもたらすことがあるため、取引時間外つまりこれまで15:00以降に行われていた。そのため、今後は30分後ろ倒しで15:30以降に発表することになるだろう。
(2)投資信託の注文
投資信託の当日注文締切が15:00までであったのが15:30までになった。国内銘柄に投資する投信であれば、15:30までの注文でその日に約定する。
(3)クロージング・オークション導入
取引時間延長に伴い、クロージング・オークションが導入された。これまでの取引では、取引終了時に取引している人の売買のみで終値が決められていた。また最近では、投資信託のインデックス運用への投資が増え、日経平均やTOPIX連動型の投資信託の資金流入が目立つ。
そのようなインデックス運用は、指標とするインデックスに比率を常に合わせるため、常に比率合わせの売買であるリバランスを行うため、取引終了時間時に大量注文が行われる。この取引終了時間付近の売買価格と遠い注文は終値で値段が付かず、その直前の取引中の値段で取引終了し、未成立の注文が残るザラ場引けが発生する。
それを解消するため、今回導入されたのがクロージング・オークション。クロージング・オークションとは、取引時間終了前の15:25からの5分間をプレ・クロージング時間とし、売買成立可能値幅を通常の2倍にする。売買成立しない注文受付のみ行い、大引(取引時間終了の15:30)で板寄せを行い、売買を成立させる。これにより、投資家から幅広く注文を集めて、公正な終値を決定することができる。
なお、プレ・クロージング時間は、15:25からは注文受付のみ行うため、約定せず、15:30に約定する。そして、これまで売買成立値幅を超過しているときは約定されなかったが、売買成立可能値幅の上下限で約定できるようになった。ただし、このプレ・クロージングの5分間は、当日中や当日後場指定の逆指値注文・ツイン指値注文・連続注文、指成注文、IOC注文、リバース注文は発注不可となる。
実際延長されてどう変わったか?
取引時間延長となった初日の11月5日は、特に混乱もなかった。また、翌日6日に米大統領選挙が控えていたことから、取引も低調だった。
今後ニューヨーク並に休憩時間なしにするなど、取引時間延長が図られるかという点だが、しばらくは難しいだろう。今回の延長も証券会社や運用会社からの反対があったがやっと延長できたという。
確かに、証券会社では取引時間中は株式取引注文を受注したり、営業をかけたりする必要があり、一般業務にあまり時間をとれない。取引時間が終わってから、営業に出かけたり、一般事務を行ったりするため、この取引時間延長で業務時間が増えた従業員もいるかもしれない。また、運用会社においては、投資信託の価格算定が15:30以降に後ずれしてしまった。運用会社においては、これまで受託会社との二重計算を取りやめ、システム効率化で算定に時間がかからないようにすることで解決できるだろう。
投資家においては、専業で行っている人はその取引時間延長で、チャンスが増え、クロージング・オークション導入で公正な終値が形成されることは歓迎しているだろう。一方、会社員等日中取引できない人は、昼休憩中は東証も昼休憩に入り、30分延長したとしても15:30までであるためそこまで影響はないかもしれない。そのような人は私設市場であるPTSのような夜間取引を利用している人も多く、30分延長しただけでは依然として日中市場を利用することは難しいままだろう。
(参考)
「現物市場の機能強化に向けたアクション・プログラム」の公表について | 日本取引所グループ
文/大堀貴子