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指輪型決済デバイス「EVERING」が関西圏に絞ったPR戦略で成功を収めたワケ

2024.11.28

キャッシュレス決済の広がりと、それを実現するデバイスやガジェットの普及は常に一体の現象である。

だが、ある特定のデバイスが地域限定の販促展開を行うというのは非常に珍しいのではないか。

現在、大阪を中心とした関西圏ではEVERINGの大規模PRが実施されている。いや、この記事が配信される頃には「実施されていた」と過去形になっている可能性がある。というのも、PRがあまりにも効き過ぎてしまったがために商品自体が品薄状態になったからだ。

「嬉しい悲鳴」とはまさにこのことであるが、なぜEVERINGは関西圏に焦点を絞ったのか。それには「公共交通機関のタッチ決済対応」がある。

関西・東海の548駅でタッチ決済利用可能に!

10月29日、関西の私鉄4社(近畿日本鉄道、阪急電鉄、大阪メトロ、阪神電気鉄道)が一斉にクレジットカードのタッチ決済乗車を導入した。

これは関西及び東海一部の548駅でタッチ決済が使えることを意味し、公共交通機関の決済ソリューションの変革を象徴する出来事でもある。来年開催の大阪万博を念頭に置いていることは確かだが、それ以上に「交通系ICカード以外の決済手段が増えた」ということ自体が周辺ビジネスにも絶大なインパクトを与えている。

EVERINGはこれに合わせて、関西地方でのテレビCMや実地イベントを続々打ち出した。EVERINGそのものは関西私鉄4社のタッチ決済導入に合わせて市場投入された新製品……というわけでは全くなく、ガジェットマニアの間では数年前から知られた存在だった。それがマニアではない一般層にも認識される機会が、ようやく訪れたのだ。

「取り出す動作」もいらないEVERING

EVERINGは、Visaブランドが付与されたプリペイド式非接触型決済デバイスである。

専用アプリには普段使いのクレカを紐付けし、そのクレカから残高をチャージする仕組みだ。素材はジルコニアセラミックで、スマホやスマートウォッチのような充電は一切不要。有効期限が設けられているため永久的に利用できるというわけではないが、Visaタッチ対応店での買い物であればもはやスマホを取り出す必要もなく決済できる。

電車やバスに乗る際も同様だ。改札機のパッドにEVERINGをかざすだけでいい。

この利便性が広く認められたため、EVERINGのスタンダードプランの発売は11月末から一時休止になってしまった。生産が追いついていない模様だ。

刺激を与える「何か」が必要

が、これは逆に言えば「今までEVERINGの利便性・革新性が認識されていなかった」ということでもある。

そもそも、クレカのタッチ決済自体が日本人にとってはまだ新しいものだ。

筆者は2年前、近所のドラッグストアがタッチ決済に対応したばかりの頃をよく覚えている。「タッチ決済でお願いします」とレジ係に告げても、首をひねった後に「交通系ICカードですね」と返されてしまった。店舗スタッフですら、クレカにタッチ決済という機能があることを知らなかったのだ。

そのような状況では、EVERINGのような決済デバイスはガジェットマニア以外に流行るはずもない。

つまり、EVERINGの普及には広域的な刺激を与える「何か」が必要だったのだ。

地方で決済デバイスを普及させるには?

今後、このようなことは考えられないだろうか。

現在、全国自治体では事務手数料支払いのキャッシュレス化が進められている。クレカタッチ決済にも当然対応するようになったのだが、それに加えて地元の路線バスもタッチ決済を導入したら、中高年がEVERINGのような決済デバイスに注目するようになるのではないか?

地方の中高年の自治体に対する依存度は、大都市圏に住む人々が考える以上に大きい。

生活上、何か困りごとが発生したらとりあえず市町村の該当窓口に相談するという習慣が根付いている。自宅から路線バスで市役所へ赴き、そこで用事を済ませるという行動パターンを持っているのだ。

このあたりを生かしたPR戦略を、今後思案できないだろうか? 自宅からの移動、市町村窓口での行政手続き、そして帰宅。それらをクレカタッチ決済で一元化できるということをアピールするという方法だ。

もちろん、行政からしてみれば特定の企業の商品やサービスをPRすることはできないだろうが、ともかくガジェットマニアではない一般市民に「気づき」を与えるのは非常に重要だ。関西地方でのEVERINGの躍進も、結局は該当地域の市民が「タッチ決済対応デバイスを持っていたほうがいい」と気づいた結果の現象である。

2025年以降も「タッチ決済ブーム」継続か

さて、筆者は静岡県静岡市の在住で、ここは日本列島を湧かせる「タッチ決済ブーム」の熱が及んでいない地域である。

もちろん、上述のように小売店舗ではタッチ決済に対応しているが、静岡市内を走る路線バスしずてつジャストライン、静岡市葵区と清水区をつなぐ静岡鉄道(どちらも同じ静岡鉄道グループの経営)はタッチ決済を導入していない。

そしてよく考えてみれば、連結売上高が1,000億円を超える中小の私鉄3社(大阪メトロ、遠州鉄道、静岡鉄道)の中で、タッチ決済を導入していないのは静岡鉄道のみ。となると、「次は静岡鉄道」という流れになるのではないか。

いずれにせよ、タッチ決済拡大は2025年以降も大きな水流となり、全国各地に押し寄せるだろう。

【参考】
stera transit 関西エリアで一挙拡大!-PR TIMES
決済リングの「EVERING」初TVCM、11月7日から関西エリアで放送開始!ーPR TIMES
EVERINGとOsaka Metroで、スマートライフ分野の共創に向けた業務提携契約を締結-PR TIMES
【重要なお知らせ】スタンダードプラン販売の一時休止について-EVERING

文/澤田真一

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