NVIDIAから、アメリカ・ジョージア州アトランタで2024年11月18日~21日に開催された SuperComputing24(SC24)における講演と発表内容をまとめたブログが公開されたので、その概要をお伝えする。
NVIDIA CEOのジェンスン フアン氏、「AI は科学のブレイクスルーを推進する」
バイオ医薬品や気候科学などの業界に革命をもたらすAI とスーパーコンピューティング ツールの高まりのなか、NVIDIA はアトランタで 開催されたSC24にて各種の発表を行なった。
NVIDIA の創業者/CEO であるジェンスン フアン (Jensen Huang) 氏と、アクセラレーテッド コンピューティング担当バイス プレジデントであるイアン バック (Ian Buck) 氏によって行われた一連の講演と発表は、NVIDIA のコンピューティングの変革における長い歴史に根ざしたものだ。
「スーパーコンピューターは人類にとって最も重要な道具の 1 つであり、科学の進歩を促し、知識の限界を推し広げています。最初の GPU を開発してから 25 年が経ち、私たちはコンピューティングを再発明し、新たな産業革命を引き起こしました」(フアン氏)
NVIDIA のアクセラレーテッド コンピューティングの歩みは、2006年のCUDAと最初の科学技術計算用のGPUから始まったとフアンは述べている。
■AI は科学的発見を加速して業界を変革、世界の100兆ドル規模の市場すべてに革命をもたらす
2008年の東京工業大学 (現在の東京科学大学) のスーパーコンピューター「TSUBAME」、2012 年のオークリッジ国立研究所のスーパーコンピューター「Titan」、2016 年にOpenAIに提供されたAIに特化した NVIDIA DGX-1などのマイルストーンは、この分野における NVIDIA の変革的な役割を裏付けている。
「CUDA の誕生以来、コンピューティングのコストは 100 万分の 1 にまで下がりました」とフアンは話す。「ある人にとっては、NVIDIA は計算顕微鏡であり、ありえないほど小さなものを見ることができます。また、別の人にとっては、想像を絶するほど遠くを探査する望遠鏡です。そして、多くの人にとって、それはタイムマシンであり、一生の仕事がその人が生きている間に成し遂げることができるのです」
SC24で、NVIDIA は次世代の創薬、リアルタイムの気候予測、および量子シミュレーションのためのツールを発表した。
NVIDIA の進歩の中心にあるのは、フアンが「アクセラレーテッド コンピューティングのエンジン」と表現する CUDA-X ライブラリであり、これは AI 駆動のヘルスケアのブレイクスルーから量子回路シミュレーションまで、あらゆるものを推進している。
フアン氏とバック氏は、NVIDIA のテクノロジによって実現された、ノーベル賞受賞のニューラル ネットワークとタンパク質予測のブレイクスルーなど、現実世界への影響の例を強調した。
「AI は科学的発見を加速し、業界を変革し、世界の 100 兆ドル規模の市場すべてに革命をもたらすでしょう」とフアン氏は述べている。
■CUDA-X ライブラリが新たなフロンティアを拓く
SC24 で、NVIDIA はデータサイエンス、機械学習、数値計算のアプリケーションを強化するために設計された、NumPy の GPU アクセラレーションによる実装である新しい cuPyNumeric ライブラリを発表した。
ディープラーニング用の cuDNN や、量子回路シミュレーション用の cuQuantum など、400 を超える CUDA-X ライブラリを備えた NVIDIA は、様々な業界でコンピューティング能力の強化をリードし続けている。
■Omniverse Blueprint によるリアルタイム デジタル ツイン
そしてNVIDIA は開発者が航空宇宙、自動車、エネルギー、製造などの業界向けのインタラクティブなデジタル ツインを作成できるように設計されたリファレンス ワークフローである、リアルタイムのコンピューター支援エンジニアリング デジタル ツインの NVIDIA Omniverse Blueprint を発表した。
NVIDIA アクセラレーテッド ライブラリ、物理 AI フレームワーク、インタラクティブな物理ベース レンダリングを基盤とするこの Blueprint は、シミュレーションを最大 1200 倍高速化し、リアルタイムのインタラクティブ性の新たな基準を確立する。
Siemens、Altair、Ansys、Cadence などの早期採用企業は、すでにこの Blueprint を使用してワークフローを最適化しており、コストを削減して、製品をより早く市場に投入している。
■CUDA-Q による飛躍
NVIDIA のリアルタイムのインタラクティブ テクノロジへの重点的な取り組みは、エンジニアリングから量子シミュレーションまで、様々な分野におよんでいる。
Google との提携により、NVIDIA の CUDA-Q は量子プロセッサの詳細な動的シミュレーションを可能にし、数週間かかる計算を数分に短縮する。
バック氏は、CUDA-Q を使用することで、あらゆる量子プロセッサの開発者が、より大規模なシミュレーションを実行し、よりスケーラブルな量子ビット設計を探求できると説明した。
■AI による創薬と化学における飛躍的進歩
BioNeMo フレームワークのオープンソース リリースにより、NVIDIA は AI 駆動の創薬を前進させ、研究者は製薬アプリケーションに特化した強力なツールを手に入れることができる。
BioNeMo は他の AI ソフトウェアと比較してトレーニングを 2 倍高速化し、救命治療の開発を迅速化する。
NVIDIA はまた、創薬に不可欠な、薬物が標的タンパク質に結合する方法を予測する画期的なツールである DiffDock 2.0 も発表した。
新しい cuEquivariance ライブラリを搭載した DiffDock 2.0 は、以前の6倍の速度で動作し、研究者は前例のないスピードと精度で何百万もの分子をスクリーニングできる。
また、NVIDIA ALCHEMI NIM マイクロサービスにより、NVIDIA は化学に生成 AI を導入し、研究者が驚異的なスピードで新しい材料を設計および評価することを可能にした。
科学者は、強度、導電性、低毒性、さらには色など、必要な特性を定義することから始めます、とバック氏は説明する。
生成モデルは、必要な特性を持つ何千もの候補を示す。次に、ALCHEMI NIM は、NVIDIA Warp を使用して最低エネルギー状態を解決し、候補化合物の安定性を分類する。
このマイクロサービスは、材料発見における画期的な手段であり、開発者が再生可能エネルギーなどの課題に取り組むのに役立つ。
これらのイノベーションは、NVIDIA が AI を活用して科学のブレイクスルーを推進し、業界を変革し、地球規模の課題に対するより迅速なソリューションを実現する方法を示している。
■Earth-2 NIM マイクロサービス: リアルタイムで気候予測を再定義
バック氏はまた、NVIDIA Earth-2 プラットフォームで気候変動のモデリングとシミュレーションの結果を最大 500 倍高速化する 2 つの新しいマイクロサービス、CorrDiff NIM および FourCastNet NIM も発表した。
Earth-2 は、気象と気候条件をシミュレーションして可視化するデジタル ツインであり、気象関連のテクノロジ企業に高度な生成 AI を活用した機能を提供するように設計されている。
これらのツールは、高解像度でより正確な予測を提供し、前例のないスピードとエネルギー効率で異常気象を予測することを可能にするものだ。
今年前半の自然災害による保険金損失は 620億ドルに上り、これは 10 年間の平均を 70%も上回っています。NVIDIA のイノベーションは、正確でリアルタイムの気候予測に対する高まるニーズに対応している。これらのツールは、AI を活用して社会の回復力と気候への備えを実現するという NVIDIA の取り組みを強調している。
■Foxconn とのコラボレーションによる生産拡大
Blackwell スーパーコンピューターなどの AI システムに対する需要が高まる中、NVIDIA は米国、メキシコ、台湾の新しい Foxconn 施設を通じて生産を拡大している。
Foxconn は、NVIDIA Omniverse を使用して生産およびテスト施設を構築し、工場を可能な限り迅速に立ち上げている。
■Hopper で新たな高みへ
NVIDIA は、低電力の空冷式データセンター向けに最適化された NVIDIA Hopper アーキテクチャに基づく PCIe GPU である NVIDIA H200 NVL の一般提供開始も発表した。
H200 NVL は、大規模言語モデル推論を最大 1.7 倍高速化し、HPC アプリケーションで 1.3 倍のパフォーマンスを実現するため、柔軟なデータセンター構成に最適だ。
H200 NVL は様々な AI および HPC ワークロードをサポートし、既存のインフラを最適化しながらパフォーマンスを強化する。
また、GB200 Grace Blackwell NVL4 Superchip は、NVIDIA NVLinkで接続された 4 基の Blackwell GPU が NVLink-C2C で 2 基の Grace CPU に統合されているとバック氏は述べた。これにより、科学計算、トレーニング、推論アプリケーションのパフォーマンスが前世代より最大 2 倍向上するという。
GB200 NVL4 Superchip は、2025 年後半に発売予定だ。
講演の締めくくりとして、SC24 の NVIDIA ブースで、NVIDIA のデジタル ヒューマンである James、世界初のリアルタイム インタラクティブ風洞、気候モデリング用の Earth-2 NIM マイクロサービスなど、様々なデモを体験ができることを参加者に呼びかけた。
関連情報
https://blogs.nvidia.co.jp
構成/清水眞希